学院の異変⑫ 無様
一般生徒の洗脳魔法を解除して、一旦皆と合流しようと思ったら電話が掛かってきた。
「はい」
『私だ。寄宿舎『しらゆり』にいる。今すぐ来てくれ』
「は、はい!」
発信者名を見ないで出たのは失敗した。いや、粗相したわけじゃないが、心構えってもんがある。
すぐに寄宿舎へ向かうと、そこには相変わらず威厳漂う三ツ矢女学院理事長の中原陽子がいた。
「中原理事長、どうしてここに?」
「用事があってね。これは一体なんの騒ぎかね?」
「実は……」
結界に大量の魔物が押し寄せたこと、本部で待ち伏せされたこと、一般生徒が洗脳魔法を掛けられたことを話す。
「……なんとも無様だな」
「申し訳ありません……」
「ああ、いや。君に言ったわけじゃない」
「え?」
「天界や魔法少女協会の介入を拒み、独自の教育を進めた結果がこれかと、自分の情けなさに嫌気が差しただけだよ」
「そんな、これはイレギュラーですよ」
「そう、イレギュラーだ。世の中にはあらゆるイレギュラーがある。当然、世界を呪いたくなる理不尽なイレギュラーもあろう。それは君が一番理解っているんじゃないかね? 楓人くん」
「それは……」
10年以上もブラック企業で働いたんだ、それも正に身を粉にして。理不尽は味わい尽くした。酸いも甘いも噛み分けると言うが、俺の場合は甘い部分なんて無かった。
「私はね、三ツ矢女学院の生徒は世に出てからも、そんなイレギュラーに対応して生き抜いて行ける力を身に着けて貰いたいと思っている。そうでなければバカ高い金を払って入学する意味など無いだろう?」
「あはは……」
「そんな学院の長が敵にいいようにやられるとは、これが無様でなくなんだと言うのかね」
「それは……」
「教育も経営もテレビゲームとは違う。やり直しの効かない真剣勝負だ。確かに今回はイレギュラーだったろう。しかし、だから仕方のないことだと片付けるわけにはいかないのだよ」
「どうするつもりですか?」
「分からない。今はな。とにかく敵を倒すことが先決だ。指揮は君に任せる」
「え!? わ、私でいいですか?」
「他に適任がいるかね?」
「そ、それこそ悠月さんがいるじゃないですか!」
「悠月は司令塔には向いていない。他に在籍してる魔法少女の中にも司令塔として君以上に適任な者はいない。それに、君は彼女らよりも遥かに人生経験が豊富だ」
人生経験ねぇ……。そんな大した人生送ってないんだが。……童貞だし。
「……分かりましたよ。ちなみに悠月さんを戦力として借りることはできますか?」
「いいだろう。――と、言いたいところだが」
「やっぱりダメですか」
「先ほど出撃したようでな、今日はもう使えない」
「え? 1日の行動制限があるんですか?」
「当たらずとも遠からずだ。詳しくは本人に訊きたまえ」
悠月には何かしらの秘密があるってことか。
「それと、傷害事件のほうは」
「心配しなくていい。私がなんとかしよう」
「ありがとうございます」
「それと、君は黒幕と思われるニューラはどこに潜んでいると思うかね?」
「ニューラですか? そうですね……。そもそも矛盾してるんですよね」
「矛盾?」
「はい。校内に潜んでいるなら洗脳魔法を掛けるのは容易です。でもそうすると魔物の波状攻撃に説明がつかない」
「事前に準備しておけばいいだろう?」
「確かにそれは考えられます。実際に協力者もいましたし。でも、協力者のマタリナはとてもじゃないけど司令塔には向かない。かといって他に波状攻撃の指示ができそうな魔物も見当たらなかった。校内に潜みながら的確に指示できるとは思えないんですよ」
「なるほど……」
「逆に結界の外にいるとしたら、今度は波状攻撃は容易だけど洗脳魔法が難しくなる。マタリナはそんな魔法使ってませんでしたし、そういう魔法が使えるように見えませんでした」
「矛盾、か」
……あれ? 今なにか引っ掛かったよな。なんだ? とんでもなく重要な事を見落としているような……。
「あー!!」
「どうした?」
「忘れてた! 乃愛か舞彩が洗脳魔法に感染してるかも知れないんです!」
「感染魔法だと? 不味いな。あれは半径1メートル以内と感染範囲は狭いが、数分接触するだけで感染するはずだ」
「なんですって!?」
くそ! 山田さんからもっと詳しく聞けばよかった!
「あ、そういえば」
山田さんから頼まれたのも忘れてた。
「すみません、ちょっと用事も思い出したので行きますね!」
「ああ、学院をよろしく頼むよ」
「はい!」
まったく! どうして俺はこう忘れっぽいんだ!
急いで保健室に戻ると、まだ北見校長がいた。
「良かった! まだいた!」
「かえでさん? どうしたんですか?」
「これ、山田さんが北見校長に渡して欲しいって。すっかり忘れてて」
「これは……!」
「なんなんですか?」
「シルバーニードルズだわ! こんな素晴らしいものを……!」
「えーと……」
「ああ、ごめんなさいね。高級茶葉の中でも最高峰のものよ」
「そ、そうなんですか」
山田さん、なんだってこんな時に紅茶なんかを……。
「この戦いが終わったらぜひ、かえでさんにも味わって欲しいわ」
「いいんですか!?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます! あ、そろそろ行かないと!」
「かえでさん」
「え?」
「この学院をお願いね。救えるのはあなたしかいないわ」
中原理事長にも同じこと言われたな。俺なんかに命運を託していいのかよ……。
「分かりました。任せてください!」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
さあさあ、これからどんどん面白くなっていきますよ!(ハードルを上げてくスタイル
そしてストックは底が見えて来ました。かなりの余裕があったはずなんですけどね、なんでだろ??




