学院の異変⑪ 透過率
「皆! 大丈夫?」
結界を抜けてなんとか三ツ矢女学院に戻ると、どうやら無事のようだ。
「かえで!」
「かえでちゃん遅ーい」
「無事でなによりですわ」
「ごめん、ちょっとトラブっちゃって。ところで助っ人が来てくれたって聞いたけど……」
「あー、中原さんだよー」
「中原って、中原悠月さん!?」
助っ人ってあの子のことか。でも、どうして山田さんが中原悠月のことを知ってるんだ?
「もうホントにすごかったー!」
「さすが50キロメートルエリア担当だったね」
「ま、わたくしといい勝負でしたわね」
「そんなにすごかったんだ」
ちょっと見てみたかったな。あとで記録見てみるか。
「だいぶ魔物減りましたね」
水鳥の言う通り、あれだけいた魔物はほとんど消えて、いつもの雑魚がいる程度だった。
「よし、あとは洗脳魔法だ!」
「解く方法分かったんですの?」
「はい。洗脳解除用の術式を貰ったので、ピュアラファイを撃てばいいそうです」
「へぇ……やりますわね」
「とりあえず、さっきの洗脳された子に試してみますね!」
〈マスター、感染者についてはよろしいのですか?〉
〈それも気になるけど、今は一般生徒が最優先だ!〉
下に行くと北見校長が待機しててくれた。
「北見校長、さっきの子は?」
「こっちよ。保健室に寝かせてあるわ」
案内されて保健室に行くと、さっきの子が何事も無かったようにスヤスヤ寝ていた。
「それで、なにか分かったの?」
「はい。洗脳魔法を解除する術式が」
「本当に?」
「試してみないと分かりませんけどね」
とはいえ山田さんのことだ。問題ないだろう。
女の子の横からピュアラファイを撃とうとして、メイプルから注意を受ける。
「あー、それは考えなかったなぁ」
「どうしたの?」
「ピュアラファイを撃てばいいらしいんですけど、撃ったら保健室壊しちゃうなーって……」
「あら、壊さないようにできるわよ」
「え?」
「魔法のポートフォリオからピュアラファイの設定画面を開いてみて」
ポートフォリオなどの手順は花織さんに教わったおかげで迷いなく操作できた。
「えーと、どの設定ですか?」
「透過率ってあるでしょう?」
「あー、はい。あります」
「それをLowに設定すれば大丈夫よ」
「これで物を壊さなくなるんですか?」
「ええ。試しに撃ってみて」
恐る恐る壁に向けて撃ってみると、白銀の閃光は普段通りだが壁は無傷だった。
「すごい!」
「はらね?」
「こんな機能あるなら、ぷに助も早く教えてくれればいいのに」
「ぷに助?」
「あ、すみません。スレイプニルのことです」
「あらまあ、可愛らしい愛称だこと」
「じゃあ、やってみます」
一見ただ眠ってる女の子に向けてピュアラファイを放つ。ベッドも壁も無事だ。
「これでいいのかな?」
念の為にメイプルに確認してもらうと洗脳魔法らしき魔力反応は消えていた。山田さん流石だなぁ。
「大丈夫みたいです」
「良かったわぁ。本当にありがとう、かえでさん」
「いえ。私にできることをしただけですから。ところで、この透過率ってこのままでも大丈夫ですか?」
「あら、どうして?」
「実は、私がピュアラファイ撃つと高確率で建物とか破壊しちゃうので……」
「そんなこと気にしないでいいのよ」
「え? で、でも」
「そのために事後処理部隊がいるんですから」
事後処理部隊。俺はまだ安納真幌しか会ったことないけど、どんな部隊なんだろ?
「事後処理部隊って、どういう仕事なんですか?」
「文字通りよ。魔法戦で壊れた建物や道路などを直したり、関わった民間人の記憶を操作したりね」
「建物壊しても大丈夫! みたいな魔法はないんですか?」
「あるわよ」
「え、じゃあなんで……」
「結界魔法はあるんだけど、その結界を作るのに魔力使っちゃって、いざ戦おうとしたら魔力が足りない。なんてケースが多かったのよ」
「そんなに魔力使うんですか?」
「ええ。結界魔法の容量もかなり大きくてね、20ブロック使うから他の魔法が使えない弊害もあったの」
「20ブロック!?」
そんなにデカい容量じゃ、10キロメートルエリア担当でもそうそう使えないな。
「一人で使うには難しい。だから結界を使う時は二人一組で行動することも珍しくなかったわ。でも、そうするとカバーできる範囲が減っちゃうでしょ?」
「そうですね……」
「それなら、無理に結界を張るよりも、あとで直したり記憶操作したほうが楽だし効率的だ。ということで事後処理部隊が作られたのよ」
「そうだったんですね。山田さんならもっと良い結界作れそうなのに」
「ああ、山田さんには無理よ」
「どうしてですか?」
「確かに山田さんは天才だけど、結界魔法はどうしても廷々家に一日の長がある。今話した建物などを保護するための結界も廷々家が作ったものなのよ」
「そうなんですか!?」
「その廷々家があれ以上のものを作れないのに、山田さんが簡単に作れるわけがないでしょう? それに山田さんは結界魔法が不得手だから」
「ええ!?」
なんだか驚きの連続だ。魔法少女というか、魔法について知らない事がまだまだ多いな……。
「山田さんはなんでもできちゃうと思ってました」
「ふふ。気持ちは分かるわ。それとね、ピュアラファイの透過率をLowのままにしなくて良い理由はもう一つあるわ」
「なんですか?」
「Lowだと魔物を浄化するのにパワーが足りなくなるのよ」
「え? じゃあなんでLowなんて設定があるんですか?」
「それはね、必要ブロックを2にしないためよ」
「それってどういう……」
「ピュアラファイをそのまま登録しようとすると2ブロック使うことになるんだけどね、Low設定を追加することで全体的な評価が下がるの。するとあら不思議、ピュアラファイは1ブロックで登録できるようになるのよ」
誰が考えたか知らないが狡いなぁ、そして頭良い。システムの穴を上手く利用したってわけか。
「そんな裏技みたいな理由が……。じゃあ、今後も遠慮なく透過率Highのまま使っていきますね」
「ええ。ぜひそうしてちょうだい」
あとは洗脳魔法を掛けられた生徒がどのくらいいるのか。それと黒幕と思しきニューラの行方だ。どうやって洗脳魔法を掛けたのかは分からないが、ニューラさえ倒せば終わるはずだ。必ず見つけてやる!
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
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結界魔法は使うシーンもあります。主には超大型の魔物など、あまりにも表の世界に影響がある場合。事後処理が何ヶ月にも及ぶような、そんな事態が予想される時は結界魔法によって保護されます。




