学院の異変⑩ 決着
「ブレイク!!」
《――誤差0.1秒。クリティカル》
“ギア”とCDBを合わせた炎刀“カグツチ”の一撃がマタリナの拳とがぶつかる。
「ぐぅっ……!!」
これで押し負けたら次はない! 今ここで倒す!
「うおおおおおおおお!!」
二人の魔力が膨張して爆発する。もう少し押し込みたかったのに吹き飛ばされる。
「うわぁっ!!」
まだだ、まだ終わってない。早く立たないと!
「――!」
顔を上げると、目の前にマタリナがいた。
「あ……」
「お前、名前は」
「……歩夢。葉道歩夢」
「いい名前じゃねえか。覚えたぜ……」
マタリナは反撃もなく、その場に膝から崩れ落ちる。
終わった? 勝ったのか……?
「はぁぁぁ……!」
《ギアタイムを終了します》
ちょうどギアも終わり、手足から術式が消えてゆく。まさか調整中の“ギア”と研究段階のカグツチまで使うことになるとは思わなかった。
もう奥の手はない。切り札もない。魔力も尽きた。
「疲れたー!」
大の字になって仰向けに倒れる。こんなに全力で戦ったのはいつ以来だろう?
「歩夢ー!」
「かえで!」
「大丈夫!?」
「あはは、なんとかね。でももう立ち上がる力もないや」
「すごいよ。ランクA倒しちゃうなんて!」
「はい、私も感動しました!」
「えーと、あんた誰?」
「あー、この子は三ツ矢女学院の」
「失礼しました! 風間水鳥と申します。よろしくお願いします」
「あー、かえでの学校の子か」
「葉道さんは姫嶋さんのご友人なんですね!」
「いや、友人じゃないよ」
「え?」
「親友、かな」
その一言に風間はキャーキャー! と嬉しそうにはしゃぐ。でも、かえでは少し困惑してるようだ。
「かえで、ちょっと迷惑だった?」
「なにが?」
「親友なんて言ったの」
「ううん、全然。ちょっと恥ずかしくて」
「そっか!」
やっぱり、かえではかえでだな。アタシの好きなかえでだ。
「ところで、私たちは学校に戻らないといけないんだけど……」
「ああ、そろそろ山田さんがなんとかしてれるんじゃない?」
そのタイミングを計ったかのように「フフフフフぅ」といつもの笑い声が結界内に響く。
『皆さんお疲れ様でした。今結界を解除しますねぇ』
「あ、山田さん。マタリナどうします?」
『そのまま放置で構いませんよぉ』
「え? 回収しなくていいんですか?」
『サンプルはもう回収しましたのでぇ、あとは泳がせますよぉ』
「あ、なるほど」
この人は本当に抜け目ないな。
「そうだ! 学校にも助っ人が行ってくれたって言ってましたけど、誰なんですか!?」
『そこは本人の希望で伏せますよぉ。心配しなくてもぉ、学院に不利益をもたらす人物ではないことは確かです』
「そう、ですか……」
「では、私たちは解除されたら学校に戻ります。本当にありがとうございました!」
「うん。かえでも気をつけてねー」
「歩夢こそ、ちゃんとリネさんに診てもらいなよ?」
「分かってるって」
山田さんのアナウンスがあり、結界は解除された。人通りの多い元の交差点だ。
流石に危ないので立ち上がるけど、フラフラする。
「さて、いくらなんでもこんな所にマタリナ置いとくわけにはいかないから、別の所に移すか」
と、マタリナを移動させようとしたら見当たらない。
「え?」
どこを見てもいない。魔力反応も消えてる。
「……ニューラか」
たぶん、結界が解除されたと同時に転送魔法で回収したんだろうな。
マタリナの背後にいる魔物。その正体はまだ謎が多い。だからこそマタリナを締め上げて吐かせようと思ったのに。
「ま、それは山田さんの仕事か」
とりあえず、アタシはリネのとこ行って休まないと。もうヘトヘトだよ……。
* * *
「お疲れ様です」
「……カハッ! ハァ、ハァ……」
「随分と派手にやられましたね」
「うるせえ。これもお前の指示だろうが。できる限りの足止めをしたあと、わざとやられろってよぉ」
「ええ。おかげで仕事は大変スムーズですよ」
「ったく、そのためにこっちは死にかけたんだぞ」
「もちろん報酬は弾みますよ」
「頼むぜ」
「ところで、いかがでしたか? 上手く馴染みましたか?」
「ああ、悪くねえ。だが馴染むに時間が掛かり過ぎる」
「それは申し訳ない。なんせまだ実験段階ですからね、魔物を後天的に変身させるというのは」
「いや、アイデア自体は最高だと思うぜ。俺もいい感じに動けたしよ」
「なら良かった」
「で? こっちはどうなった?」
「助っ人が来て魔物は一掃されてしまいましたよ」
「はあ? じゃあフェスティバルってやつはどうなんだよ」
「大丈夫ですよ。織り込み済みです」
「本当だろうな?」
「おや、心外ですね。私が織り込み済みと言って、そうでなかったことがありましたか?」
「そういうわけじゃねえけどよ。そう言われてすぐ分かるほど頭良くねえんだよ」
「フフフ、問題ありませんよ。フェスティバルはこれからです。まずは三ツ矢女学院がひっくり返る様を、文字通りの高みの見物といこうじゃありませんか」
To be continued→
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