学院の異変⑦ 赤髪の助っ人
赤い髪がなにより特徴的な、快活そうな女の子。
葉道歩夢がそこにいた。
「歩夢!?」
「あれ? かえでじゃん! なんでこんなとこにいるの?」
「それはあとで! 気をつけて、そいつは強いよ」
「みたいだね。……ん? あんた」
「クッ、ハハハハ! こいつは良い! まさかここで出会えるとはな!」
「え? 知ってるの?」
「まあね。今度は逃さないよ」
「ハッ、あの時と同じだと思ったら怪我するぜ?」
「それは――」
歩夢は一気にマタリナに肉薄すると、強烈なストレートを腹に打ち込む。
「こっちのセリフだよ」
「ハハッ! なるほどな! これは楽しめそうだぜ!」
歩夢は先日の技能試験A判定。もう一回A判定を取れば50キロメートルエリア担当への昇格試験を受けられる。
つまり、歩夢の実力は実質的に50キロメートルエリア相当だということだ。
「心強い助っ人が来てくれたな」
今のうちに水鳥を戦闘の場から離してRドリンクを飲ませる。
「かえで様……申し訳ありません」
「気にしないで、初見殺しされたんだ、仕方ないよ」
「初見殺し?」
「ああ、またあとでね。それに歩夢が来てくれた」
「はい。……え? もしかして、かえで様は葉道さんともお知り合いなんですか?」
「うん。知り合いっていうか友だちだよ」
「かえで様の人脈は本当に素晴らしいですね!」
「はは……だから人脈ってわけじゃ」
そんなことを話していると、歩夢の攻撃が加速していた。
「どうしたの? こんなもの!?」
「クソッ!」
明らかに押している。あれからまた強くなったんだな。
「どうやら、買い被りだったかな?」
「ケッ、吐かせ!」
さて、歩夢が戦ってくれてるうちに結界をなんとかしないとな。
〈メイプル、解析できないか?〉
〈できなくはありませんが、かなり時間が掛かってしまいます〉
〈じゃあ、壊すことはできないか?〉
〈不可能ではありませんが、ピュアラファイでは難しいかと〉
参ったな、せっかく歩夢が来てチャンスを作ってくれたのに。
……待てよ? そもそもなんで歩夢がここにいるんだ。ここは俺たちを閉じ込めるための結界のはず。どうやってここに?
〈私が送り込んだんですよぉ〉
〈その声、山田さん!?〉
〈フフフフフぅ、さっきぶりですねぇ〉
〈どど、どうやって?〉
〈んー? 葉道氏を送り込んだことですかぁ? それともこの通信のことですかぁ?〉
どっちもだ。と言いたいところだが、長話になりそうなので通信については後回しだ。
〈歩夢のことですよ〉
〈簡単な話ですよぉ。近場に謎の結界があれば解析するのは当たり前です。そこに助っ人を送るなんて造作もないですよぉ〉
〈そ、そうなんですか。それで、なんで歩夢が?〉
〈たまたま近くにいたからですよぉ。それに、50キロメートルエリア担当への試練としても丁度いいでしょう〉
山田さんは歩夢のこと知ってたのか。それに試練ってことはギリギリ勝てると踏んでいる?
〈あの、私だけでも結界を抜け出せませんか?〉
〈三ツ矢女学院ですかー?〉
〈はい。もう戻らないと〉
〈それなら問題はないでしょう〉
〈え? それはどういう……〉
〈助っ人は葉道氏だけじゃないということですよぉ〉
〈え!?〉
三ツ矢女学院に行ける魔法少女協会所属の魔法少女なんて、いたか?
〈なのでぇ、今は葉道氏を応援してあげましょう〉
〈応援って言っても、見守るしかできないですけど〉
〈いいんですよぉ。姫嶋氏がそこに居ることに意味があるんですからぁ〉
〈そうなんですか?〉
まあ、山田さんが言うならなにか意味があるんだろうな。
そんなやり取りをしている間にも、歩夢はマタリナを圧倒していた。
「うーん、正直ここまで差が開いてたとは思わなかったな。あの時もアタシが優勢だったけど」
「ハァ、ハァ、ハハッ、これで終わりだと、そう思ってるみてえだな?」
「なに? 奥の手でもあるわけ?」
「奥の手か、言い方によっちゃそうかもな」
マタリナは意味深に言うとアクセサリーの一つを引き千切って食べた。
「は?」
「グググ……ガアアアアアアア!!」
「なに!?」
明らかに様子が変わったマタリナは、そのまま歩夢に突っ込む。
「ぐぅっ!」
ただのストレートパンチ。しかしそれを受けた歩夢はビルの3階あたりに激突した。
「歩夢!」
「痛つつ……大丈夫だよ!」
痛がりつつも、平気な様子で下りてくる。
「いきなりパワー上がるんだもんなー、ドーピング?」
「ちょっと違うな。このアクセサリーは俺の一部なんだよ」
「一部?」
「つまり、俺はこのアクセサリーの数だけ力が制限されてるってわけだ」
「ふーん? 俺はあと2回変身を残してるぞってやつ?」
「変身はしねえが、そういうことだ。行くぜ?」
さっきの一撃でパンチの重さが分かった歩夢は、受けないよう避けたり流したりして立ち回りを変えた。
だが、あのアクセサリーを全部使われて、もしランクA+以上まで強くなるとしたら……。
「……いや、信じよう」
信じるしかない。歩夢は50キロメートルエリア担当を目指してるんだ。こんなところで躓くわけにはいかない。
――そうか、これが山田さんの言ってた試練の意味。
「ハハッ、さっきので力の差がよく分かったみてえだな!」
「なに? もう勝ったつもり?」
「強がんなよ、分かんだろ? ほんの少し力を解放した俺に防戦一方。しかも俺にはまだ奥の手が残ってるんだ。けっこう楽しめたけどよ。そろそろ終いだろ」
「自分が勝てるはず。そう思い込んだら負けなんだよ?」
「あん?」
歩夢が踏み込んだ。マタリナは余裕で構える。そこへ、予想だにしない一撃を打ち込まれた。
「ぐぁっ!?」
ふっ飛ばされながらも、なんとか堪える。
「てめぇ……」
「だから言ったでしょ? もう勝ったつもり? って」
「ハハッ、ハハハ! いいぜいいぜ! こうでなくちゃよお!!」
「もっと解放したら? ハンデ付きみたいで悪いしさ」
「言うじゃねえか」
マタリナはアクセサリーをもう一つ引き千切って口に咥える。
「後悔すんなよ?」
「誰が」
「ハッ! 行くぜ!」
マタリナはアクセサリーを噛み砕いた。
そして戦いは、より苛烈になっていく――。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
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本当は戦闘シーンもっと書き込みたかったんですが、あまりやり過ぎると歩夢vsマタリナだけで10話くらい膨らみそうなので抑えました。書籍化したら追加しようかな(フラグ




