学院の異変⑤
「皆!」
「かえで? どうしたの慌てて?」
「なんかー、イヤーな予感するー」
生徒が操られたこと、その状況から考えた可能性を話す。
「まさか……それって、私を襲った魔物がまた三ツ矢女学院を狙ってるってこと?」
「たぶんね」
「でも、なんのためにですの?」
あらかたランクAを片付けた有紀寧さんが戻って来た。
「これは私の考えですが……。敵の目的は結界の破壊じゃないでしょうか?」
「結界の破壊ですって? それは不可能ですわ。この結界は廷々家の秘術によって生み出されたもの。普通の結界とは違って学院の生徒全員が結界を維持しているんです。例え一人二人が倒れたところで――」
「何十人も倒れたら?」
「え?」
「何十……いや、何百人もの生徒が倒れたら、どうですか?」
「それは……でも、そんなの非現実的過ぎますわ」
「陽奈に続いて、今度は一般生徒が巻き込まれたんです。もし学院内に魔物が侵入していたら、被害はまだまだ拡大しますよ」
「そんな……。その洗脳魔法を解く方法はないんですの?」
「分析は本部でしてもらってます。なので、今から私が確認してきます」
「かえで、本部には学院内のことは?」
「もちろん伏せてあるよ。私の知り合いだし、なんとか誤魔化せると思う」
「分かった。よろしくね」
「私も行きます」
「水鳥?」
「そんな狡猾な敵なら、姫嶋さんが一人になるのは危険です」
「そうね……。結界の掃除は私と乃愛と有紀寧先輩でなんとかなると思う。お願いね」
「分かってる」
「じゃあ、行ってくる!」
北見校長にもこっそり通信を入れ、結界を飛び出す。
「水鳥ならついて来ると思ったよ」
「ご迷惑だったでしょうか……」
「ううん。なにがあるか分からない。心強いよ」
「かえで様ぁ!」
「ほら行くよ」
「はい!」
* * *
「おやおやぁ? 姫嶋氏ではないですかぁ」
「お久しぶりです」
俺一人のほうが話しやすいだろうと思って、水鳥には部屋の外で待機してもらった。
「杖の調子はいかがですかぁ?」
「すごく良いですよ。扱いやすくなりました」
「それはなによりです」
「それで、先日お願いしてた分析の件なんですが」
「ああー、魔法少女が洗脳された件についてですねぇ?」
「はい。今後も洗脳される人がいないとも限らないので、洗脳を解く方法はないかと思いまして」
「ありますよぉ」
「本当ですか!?」
「先ほど、ちょうど解析が終わったところでしてねぇ。洗脳魔法を解く方法もすぐ分かりましたよぉ」
「それじゃ――」
「ただし」
「え?」
「姫嶋氏、あなたなにか隠してますねぇ?」
くっ! やはり山田さんには隠し通せなかったか?
三ツ矢女学院が関わってる事はなるべく伏せるようにと北見校長からも言われてたが……。
「え、なんの――」
「私を舐めてもらっては困りますよぉ。魔法を解析するには魔法を受けた場の環境データも必要になるんですよぉ。分析した結果、あの独特な残滓は三ツ矢女学院の結界のものと判明しました」
「……」
「姫嶋氏が隠そうとしてるんじゃあないでしょぉ? 隠さないといけない。そうするよう圧力があった」
「……それは」
「いいんですよぉ、別に怒ってるわけではないです」
「え?」
「ただねぇ、魔法を解析するには正確な情報が不可欠なんですよぉ。下手に隠されると解析が遅れてしまうのでねぇ」
「ご、ごめんなさい!」
「構いませんよぉ。誰が口止めしてるのかは想像つきますしぃ」
「そ、そうなんですか?」
「さて。それよりもぉ、この魔法は厄介ですよぉ?」
「厄介?」
「これは大変珍しい感染するタイプの魔法です」
「感染する?」
「誰かが接触したら同じ魔法に掛かる。つまり、洗脳がどんどん広がっていくわけですよぉ」
「なっ!?」
「まず、最初のサンプル……もとい、有栖川陽奈氏に最初に接触した魔法少女がすでに洗脳魔法を受けていますねぇ」
「最初って……」
陽奈を助けに行ったのは乃愛と舞彩だ。そのどちらかがすでに洗脳魔法を受けてる!?
「すみません! 現場に戻らないと!」
「姫嶋氏ぃ、そう焦っちゃあいけませんよぉ」
「だって、早く戻らないと」
「洗脳魔法を解く方法を聞きに来たのではぁ?」
「あ」
「難しいことはありませんよぉ。あなたの魔法の杖にデータを転送しておきます。あとはいつも通りピュアラファイを撃てば元に戻りますよぉ」
「え? ピュアラファイでいいんですか?」
「ええ。あれは人間には無害の魔法ですからねぇ。それと、これを持って行って下さい」
「これは?」
「校長先生に渡せば分かりますよぉ」
「分かりました。ありがとうございます!」
研究所を飛び出して、「水鳥! 行くよ!」と声を掛ける。
「はい!」
本部を出てスクランブル交差点に戻ると、なんだか様子がおかしい。
「これは……」
人がいない。誰も。ビジョン広告は動いてるし、信号も動いてる。だが人間と車はどこにも見えない。
「どういうこと?」
「かえで様。これは結界です」
「結界? てことは、罠か」
「ハハハ! 見事に引っ掛かったな!」
後ろからの声に振り向くと、そこにはどう見ても一般人には見えない男がいた。赤いメッシュの入った黒髪に赤いアロハシャツ。黒のスキニージーンズには金色のアクセサリーが光る。
「あー? お前は知らねえ顔だな。姫嶋のついでか」
「ついで……?」
「ハハッ、まあいい。俺の仕事は」
男が言い終わらないうちに水鳥の攻撃が入る。詠唱破棄――じゃないよな? 見たことない魔法だ。
それにしても、なんか怒ってないか……?
「あなたの仕事なんか知りません。この結界、ぶち壊させていただきます!!」
To be continued→
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