学院の異変③
「青来たりて静寂を裂け! 孤高の鳥よ天に鳴け! ――エグゼキューション、サイゼルサイゼリーゼ!」
水鳥の詠唱魔法が発動すると青い雷が何発も落ちて魔物を殲滅する。
こんな魔法もあるのか……。
「あたしも行くよー!」
乃愛は身の丈以上の大剣を構える。なんだか見覚えがあるな……。
「そうか、tre'sの神楽・ソランデルさんだ」
「それはそうだよー、だって神楽さんはあたしの師匠だもん」
「あー、それで。……えええ!?」
「あはは! やっぱり驚くよねー」
「そりゃ驚くよ。まさかtre'sの一人が師匠だなんて」
「でも、それを言ったらかえでちゃんだって花織さんが師匠なんでしょー?」
「え? どうしてそれを?」
「だって神楽さんも同じ100キロメートルエリア担当だもん。同じ高位魔法少女の話はすぐ耳に入るよー」
それもそうか。
「でも本当に、乃愛さんは意外性あるね」
「えへへ。ていうかー、かえでちゃん、さん付けはやめてよー。乃愛で良いって」
「わ、分かったよ。それより魔物を片付けよう」
「じゃあ、魔物をやっつけたら……また。ね?」
またそうやって耳元で囁く! こいつは俺で遊んでやがるな……。
「えーい!」
大剣を大振りする。ただそれだけに見えるのに魔物を細切れにしてしまった。
tre'sに助けてもらった時は意識が朦朧としていてうろ覚えだが、神楽さんのに似ている気がする。これは術式なのか?
マジカルスタイルの風間水鳥と有栖川陽奈、アタッカーの真島乃愛。この3人なら大丈夫そうだ。
「よし、私も雑魚を片付けるか!」
再びギアを上げてピュアラファイを撃ちまくり、雑魚を浄化していく。3人は時に協力しながら、それぞれにランクAを浄化していく。
「だいぶ減らしたかな?」
さすがに4人でやると処理効率が桁違いだ。俺が雑魚を蹴散らして、3人がランクAを倒す。この戦法でかなり安定した。
「これで終わり!」
乃愛が最後のランクAを倒す。あれだけいた魔物の大群が綺麗さっぱり片付いた。
「皆ありがとう!」
「なんとか終わりましたね」
「あたしたち無敵じゃーん?」
「調子に乗ってると痛い目見るよ乃愛」
水鳥は警戒を解くことなく乃愛を嗜めるが、「いいじゃん。終わったんだしー」と乃愛は緩みまくっている。
「勝って兜の緒を締めよ。まだ油断できないわ」
「そうですよ。早く校長先生に報告して対策をしないと――」
言いかけて、陽奈はなにか恐ろしいものを見たように固まる。それとメイプルから警告が来たのはほぼ同時だった。
〈マスター! 推定ランクA+です!〉
ランクA+!?
それは陽奈の視線の先にいた。巨大な土偶のような魔物は結界を越えては来れないようだが、俺たちを認識すると口を大きく開く。
「まさか……」
魔物の口から放たれた光線は、しかし結界に阻まれる。さすが三ツ矢女学院自慢の結界だな。ヒビすら入らない。
「すごいな……」
「この結界はランクAの上位種ですら突破できないと言われてますから」
水鳥は安心したような、誇らしい顔で魔物を阻む結界を見る。
「らしいね」
これなら安心だ。でもさすがにランクA+は4人じゃ無理だから応援を頼もう。
――そう思った時だった。
「ギョゴゴゴゴオオオオオオオ!!!」
「な、なんだっ!?」
魔物が奇声を上げる。と、その声に反応してか、また大量の魔物が押し寄せて来る。
「おいおいマジかよ!?」
さっき対応した量の倍はあるぞ!? その上ランクA+が野放しのままだ。
「なんなんだこいつ!?」
アナライズすると、とんでもない情報が載っていた。
【大型ランクA+ カリュグノス】
破壊光線は四方一里を焼け野原にする威力がある。動きは鈍いが外殻は堅く砲台としての役割が大きい。また、魔物を召喚する能力があり、最大1000体を召喚する。
「1000体を召喚する!?」
四方一里を焼け野原にする破壊光線と召喚能力。これは明らかに結界を壊しに来てる!
「へへ、ちょっとキツそうだね」
「乃愛は休んでていいですよ」
「ちぇー、陽奈ちゃんは冗談キツいよー」
「そうですよ、休んでる場合じゃありません。全部浄化しますよ!」
気合いを入れた水鳥は、詠唱しながら魔物の群れに向かって行く。
「しょうがないなぁ、もう少しがんばろーっと!」
「じゃあ、かえでは周りの雑魚をお願い」
「えっ、ちょっ……!」
行ってしまった……。結界があるとはいえ、これだけの魔物を相手にどうして果敢に挑んで行けるんだ?
「……若さか?」
若いってのはいいなー、眩しいよ。
って、そんなこと言ってる場合じゃないな。若い子が体張ってるんだ、俺が動かないでどうする。
「ピュアラファイ!!」
もう何発撃ったか分からない。こんなに連続で撃ったことないから、とっくに未知の領域だが……それでも魔力には余裕がある。
山田さんのとこで計測した魔力量15万3700ってけっこうすごいのか。
「ギョゴゴゴゴオオオオオオオ!!!」
「なっ!?」
まさか、まだ召喚できるのか!?
悪い予想は当たるもので、まだ魔物が残ってるにも関わらず新たな魔物が大量に追加された。
「おいおい……」
俺はまだピュアラファイを何十発でも撃てる。だが3人はそろそろ限界だ。
「はぁ、はぁ」
「まだまだ!」
「もぅー! いい加減にしてよー!」
北見校長に応援を頼むしかないな。
――と、思った時だった。
「あらあら、大変なことになってますね」
「有紀寧先輩!?」
「姫嶋さんだったかしら? よくがんばったわね」
芦森有紀寧。陽奈が行方不明になった時に協力してくれた高校生の魔法少女だ。
「ど、どうしてここに……?」
「どうして? もちろん応援に来たのよ」
「え? だって……北見校長は指揮系統が違うからって……」
「北見さんに感謝するのね。高校の校長を説得したのよ」
「北見校長が……」
「あの人、なかなか食えないのよ?」
「そうですね」
まったく、裏でこんな粋な計らいをしてくれてたなんて。まるで上司の鑑だな。
「さて、ランクAは私が受け持つわ。貴方たちは雑魚をお願い」
「分かりました!」
10キロメートルエリア担当でありながら、すでに高位の実力を持つと言われる魔法少女。これは心強い助っ人が来てくれた。
「よし、ここが正念場だ!」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
低気圧で死んでます。応援してもらえると復活します。




