花織の魔法レッスン⑨
「さて……」
お腹いっぱいになったところで、再び訓練棟で魔法の杖と向き合う。
「今日中にクリアする必要はないし、自宅でもできるからね」
なんて言われたが、できれば今すぐにでもクリアしたい。歌詞の課題が残ってるし、ミニライブへ向けてのレッスンもあるし、例の昇格試験もある。
特に試験は今回だけの特例だ。ライブに集中するため特訓はできない。だからこそ魔力制御は早くマスターしたい。
右手を魔法の杖に向ける。そして杖に向けて意識集中。すると杖の魔力を感じられる。
ここまではいい。だが問題はここからだ。どうやって杖を引き寄せる? どうすれば……。
「肩の力を抜いて」
「え?」
「そんなに力んでたら魔力制御なんてできないわ。もっとリラックスしないと」
「はぁ……」
「さっき、クイックドロウ失敗したでしょ?」
「あ、はい」
「あれもね、力むとできないのよ」
「え?」
「魔法を全力で撃ってすぐに出力を抑えようとすると無意識に力んじゃうのよ。だからその直後のクイックドロウは不発に終わる。魔力制御が未熟な人はほぼ100%そうなるわ」
「そうだったんですか」
「魔法を掛けてあげましょうか」
「魔法?」
「魔法の杖を取ってきて」
「はい」
遠くに置いた魔法の杖を持って来ると、花織さんが魔法の杖を俺に向ける。
「ヒーリングレイ」
緑色の光が俺に降り注ぐ。と、体と心がふっと軽くなる。
「これって……」
「いいでしょ? 使用ブロック一つだけの便利な魔法よ。今クイックドロウ撃ってみて」
「はい」
クイックドロウを撃ってみると、さっきと違っていつも通りに撃てた。
「……できた」
「ね? 魔力制御の基本よ。覚えておいてね」
「はい、ありがとうございます!」
何気にこれって大ヒントくれたんじゃないか?
さっき空気中の魔力に触れようとした時も、肩に力が入ってたからだとしたら? なら、自然体で向き合えれば……。
また杖を遠くに置くと、今度は身体の力を抜いて目を閉じて意識集中する。杖にある魔力の輪郭がぼんやりと見えて来たら、右手を伸ばす。
「……」
杖がふわりと浮き上がるのが分かる。そして――
「――来い」
右手に、もはや慣れ親しんだ感触があった。目を開けると魔法の杖が目の前にある。
「できた……」
「すごい! もうコツ掴んじゃったの?」
「いや、その……。コツというか、なんとなくやってできた。みたいな」
「なんとなくか。かえでは天才肌なのね」
「ええー? 全然そんなことないですよ」
「自分では自分のこと、よく分からないものよ」
うーん、それは確かにあるかも。
だからって天才肌ではないと思うが……。
「じゃあ、あとは宿題かな。そのなんとなくを明確なイメージにすること」
「分かりました。次はなにをしますか?」
「とりあえずはここまで」
「ここまで……ですか」
「あら、残念そうね」
「その……。マジカルの奥義を教えてもらえるのかなって」
「ああ、それね。まだまだ、魔力制御すらできてない人には教えられません」
まあ、そりゃそうか。
「分かりました。がんばって魔力制御をマスターします!」
「うん。かえでって本当に良い子よね」
「そうですか?」
「とても素直で正直だし、親御さんにとっても自慢の子じゃないかな?」
「そ、そうかな……」
中身のおっさんは素直でも正直でもないんだけどな。それに俺の両親はいるが、かえでの親はいない。
「私にもかえでみたいな妹がいたらなぁ」
「兄弟はいないんですか?」
「兄はいるけど、もう全然会ってないかなー」
「結婚して遠くに行ったとか?」
「ううん。出張や転勤で全国を飛び回ってるだけ」
「そうなんですか」
「そういうかえでは兄弟いないの?」
「私は一人っ子なので」
一人っ子という設定にしておかないと、色々と面倒だからな。
「そうなんだ。あのさ、一回だけでいいから、お姉ちゃんって言ってもらっていい?」
「えーっと……お姉ちゃん?」
「……っ!!」
なんか、感極まったような顔してる。よほど嬉しかったのか。
「かえでが私の妹だったらなぁー!」
「もしそうなら、姉妹で魔法少女ですね」
「そしたら全力でかえで守るわ」
「過保護じゃないですか?」
「そんなことないわ! 可愛いかえでを守るためならなんだってしちゃう!」
なんかちょっとキャラ変わってないか?
「ね、もう一回だけ、お姉ちゃんて呼んでくれない?」
「え? いいですけど……。お姉ちゃん」
少し甘え気味に言うと、我慢できないとばかりに抱きついてきた。
「うぇぇ!? お姉ちゃん!?」
思わずお姉ちゃんと言ってしまったが、花織さんにとっては嬉しいようで「かえで可愛すぎるって! もう毎日言って欲しい!」と頬ずりしてくる。
「ちょ、花織さん落ち着いて!」
「……お姉ちゃんがいい」
「もぅ……。お姉ちゃん、離れてって」
「うぅ……」
いや、離れる気ないだろこの人。
「分かりました、これからは花織さんのことお姉ちゃんて呼びますから」
「本当!?」
「ええ」
「かえで大好きー!」
「ちょっと、だからお姉ちゃん!!」
このあと、めちゃくちゃ姉妹ごっこさせられて解散となった。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
花織さんがかえでの姉になりました。
いや、なんか面倒くさい事になったな?




