花織の魔法レッスン①
マキハラが人形のアップデートをしてくれたことで、リモートワークは劇的に変わった。
試しに人形にプログラミングを任せてみたところ、再現率はなんと驚異の90%だった。これならあとで軽く手直しするだけで事足りる。
「よし、あとはこのまま進めてくれ」
『分かりました』
新島や佐々木、先輩諸氏の反応も報告してもらっているが、以前よくあった「こいつどうしたんだ?」という疑惑の視線は無くなった。
前は疑われるたびにちょこっと顔を出して「なんでもないですよ」アピールをしていたんだが、それが必要なくなった。
「これなら学生に専念できるな」
マキハラと藍音の技術力に感謝して人形との通信を終える。
「さて、今日はレッスンもあるが……」
その前に、新曲の歌詞の英語部分を考えないとな。
「とはいっても、どう書けばいいんだよ」
煌梨は気負わず気楽に書けばいいと言ってたけど……。
主人公に対する思いと対比になるヒロインの心か。寂しい、悲しいを英語にすればSADか。
「I sad」
これだけじゃなぁ……。いくら分かりやすくって言っても、厚みも深みもありゃしない。
「英語のほうが100倍難しいよ……」
悩んでいると、花織さんから通信が入る。
「はい」
『かえで、今夜空いてる?』
「え? 大丈夫ですけど」
『じゃあ今夜、本部で待ってるね』
なんの呼び出しだろう? せっかくだから今から行くか。
「今から行ってもいいですか?」
『今から? 学校あるんでしょ?』
「実は今、長期休暇の扱いになってるので授業ないんですよ」
『あ、もしかして例の事件で?』
「はい」
『そう。なら本部で待ってるわ』
ずっと机に齧りついてたって何も浮かばない。気分転換には丁度いい。
* * *
「おはようございます!」
「おはよう。じゃあ行こっか」
「行くって、どこに?」
「決まってるじゃない、訓練棟よ。魔法、教えて欲しいんでしょ?」
そうだ! 月見里千夜の異次元すぎる戦闘を見たあの夜にお願いしたんだった!
「はい、よろしくお願いします!」
訓練棟に移動すると、「まず基礎からおさらいね」と魔法について教えてくれた。
「簡単に言うと、魔力を使って発動させるのが魔法よ」
「本当に簡単ですね……」
「あはは、じゃあもう少し詳しく説明してくね。魔力は女性だけに備わってる“器”で作られるんだけど、その魔力を魔法として発動させるためには仕組みが必要なの」
「回路みたいな?」
「そう! それがいわゆる“魔法陣”」
そういや、以前波長についてメイプルに尋ねた時にそんなこと言ってたな。
「魔法少女という存在が現れた大昔は、魔法陣を描いて魔法を発動させてたのよ」
「でもそれってかなり大変じゃないですか? 描いてる最中に魔物に襲われるんじゃ……」
「その対策のために、当時は常に3人くらいのチームを組んでいたみたいよ」
「なるほど、他の魔法少女が守るわけですか」
「そう。でもそれだと効率悪いし大変でしょ? その解決策として魔法の杖が創られたの」
「ということは、今は魔法の杖に魔法陣が組み込まれてるんですか?」
「ピュアラファイはデフォルトで組み込まれてるけど、他の魔法については自分でインプットする必要があるわ」
魔法も杖にインプットしないと使えない。前に優海さんに教わった時も思ったが、魔法の杖は一種のデバイスだな。
「そういえば、容量があるって聞いたんですけど」
「そうよ。スマホと違って魔法の杖の場合はブロック単位。例えば容量が10ブロックだとして、ピュアラファイは1ブロック。だから残り9ブロック使用できる」
「魔法によってブロック数は違うんですよね?」
「そう。すごく使いたい魔法があったとしても、ブロックが足りない場合は諦めるしかないわ」
「ちなみにそのブロック量は全員固定なんですか?」
「それは魔法少女の担当エリアによるわ。10キロメートルエリア担当は30ブロック、50キロメートルエリア担当は50ブロック、100キロメートルエリア担当は100ブロックが与えられる」
「100キロメートルエリア担当は一気に100ですか!?」
「そう。高位特権の一つね」
高位魔法少女の特権――。
月見里千夜に連れてってもらったお洒落なカフェも特権だったな。それに新たなランク報酬も。
「話逸れてすみません。前から気になってたんですけど、高位魔法少女の特権にはどんなものがあるんですか?」
「うーん……。本当は昇格しないと教えちゃダメなんだけど、かえでは昇格確実だろうし、ちょっとだけこっそり教えちゃおうかな」
「確実かは分からないですけど……」
「確実よ。だって優海と私の弟子なんだもの」
逆にそれで昇格できなかったら二人の顔に泥を塗ることに……。ヤバいな、がんばらないと。
「まず、本部上層階にあるカフェ『シンフォニー』の利用解禁。これは50キロメートルエリア担当から利用できるようになるわ」
「え? てことは100キロメートルエリア担当しか使えない特権もあるんですか?」
「そうよー。まずは50キロメートルエリア担当からね。今言ったカフェとブロック追加、ドレスのオーダーメイド&性能アップ、オリジナル魔法申請の優先、このくらいかな? あといくつかあるけど、お楽しみってことで」
「すごいですね……。ドレスとかすごく気になります」
「やっぱりねー、女の子だもんねー」
いや、俺の場合は性能アップの詳細が気になるんだけど……。
「それと100キロメートルエリア担当の特権ね。でもこっちは機密扱いだから教えられるのは少ないかな。さっきのブロック拡張と、ドレスのさらなる性能アップ。それと……」
「それと、なんですか?」
「うーん、教えていいのかなー? ……かえで、内緒にできる?」
甘えるような仕草で言うなああああ!!
心臓爆発するわああああ!!
「は、はい……もちろん」
「あのね、お気に入りの魔法少女を二人、パートナーとして登録できるの」
「ぱ、パートナー? それって、どういう特権なんですか?」
「登録したパートナーを召喚できたり、ピンチをいち早く察知できたり、私との直接通信ができたり。とにかく直接的な繋がりを持てるの」
「召喚できるのは面白そうですけど、直接通信は個別通信とは違うんですか?」
「個別通信はあくまで魔法通信のやり取りを個人に限定するってだけ。パートナー通信は専用回線だから魔法の杖は必要なくて、心の中で『パートナー、かえでに接続』って念じるだけで通じるし、普通の魔法通信より断然品質が良いの」
「そんなにすごいんですか……」
「それでね、かえでさえ良ければなんだけど……私のパートナーになってもらえる……?」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
第二章で花織がかえでの師匠になってから初めてのレッスン。しばらく続きます。