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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第三章

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次元が違う戦い

「フフフ、あの魔法少女は死にましたかね」

「アンナ弱イノニ興味ハナイ」

「大丈夫ですよ。もう間もなく――ほら、やってきましたよ。あなたのお目当てが」


 生島水七海にキュアオールを渡した千夜はランダヌートと対峙する。


「ランダヌート。珍しい魔物ね」

「ほう。アナライズしなくても分かりますか」

「ランクAに分類される魔物は全て頭に入ってる。――でも、あなたは違う。何者?」

「フフフ、私は魔法少女(あなたがた)のランク付けでは測れませんよ」

「そう。会話できる個体は貴重だから生け捕りにしたいけど、その前にまずランダヌートね」

「見たところあなたはアタッカーのようだ。ランダヌートをご存知なら相性が悪いのもお分かりになるでしょう? どうしますか?」

「どうしますかって、倒すだけだけど」

「いいですねぇ。そういう強気な魔法少女も嫌いじゃありません」

「殺ス」

「……おやおや、血気盛んですねぇ」


 ランダヌートが攻撃を放つ。先ほど水七海の腹に大穴を空けた一撃だ。しかし千夜はその攻撃を剣で弾いた。


「ナンダト!?」

「あなたの情報は入ってると言ったの、もう忘れた? 不可視の攻撃。高圧縮された魔力を亜音速で撃ち出す、要するに魔力の大砲。高圧縮のため限りなく物理攻撃に近いから武器で弾くことが可能。なにか質問はある?」

「ググッ……!」

「焦ることはありませんよ、ランダヌートさん。あなたにはまだ奥の手があるんですから」

「分カッテイル!」

「一つ言っておく。ランダヌートの知識はアナライズの情報だけじゃない。私はランダヌートを5体倒している。その経験値よ」

「5!? ソンナバカナコト、ナイ!」

「なんでそれをあなた達が知らないのか、教えてあげましょうか」


 一瞬姿が消えた。次の瞬間、ランダヌートの首が宙を舞う。


「月見里流剣術――月詠」


 剣を抜いた瞬間も、斬った瞬間も、どう動いたのかも、その場に居た誰にも何も分からなかった。全員の共通認識はただ一つ。


『次元が違う』


 下で見ていたかえで(楓人)と水七海も、何が起きたのか分からなかった。

 目の前で100キロメートルエリア担当の戦いが見れると興奮していた二人だったが、決着があまりに一瞬の出来事で理解が追いつかなかった。


「……あなた達が情報共有する時間を与えないからよ」

「フフ、フフフ、フハハハ!! 素晴らしい! 実に素晴らしい! まさかこれほどとは!」

「高笑いしてるところ悪いけど、あなたは生け捕りにする」

「私を生け捕りに? いいでしょう。やってみて下さい。――ただし、()()()()()()()()()()()の話ですが」

「……」


 瞬時に月見里は警戒し、あらゆる事態を想定した。――が、目の前の光景は月見里の想定を遥かに上回った。


「どうなってるの?」


 アナライズしてみても、変わらず()()はランダヌートであると認識されている。


「驚きましたか? これが奥の手。あなたが瞬殺したランダヌートは使う前に殺られたようですね。その様子ではアナライズ情報にも載ってないのでしょう。

 ランダヌートの特殊能力、捕食同化(アブソーブ)は食らった物の力やその姿形までもをコピーできるのです! そう、例えばそれが()()()()であろうともね」


 その姿を見て、水七海は信じられない様子だった。


「うそだろ……おい、悪い冗談だぜ。()()ぉ!!」

「おや、生きてたんですね。この姿に見覚えがあるようだ」

「南雲ぉ! 目を覚ましやがれ!」

「生島さん、あの魔法少女を知ってるんですか?」

「知ってるよ! 知ってるもなにも、そいつはあたしの幼なじみで親友の南雲光だっ!!」

「南雲光……」


 千夜は思い出そうとするが、「聞き覚えがないですね、10キロメートルエリア担当ですか」と水七海に訊ねる。


「ああそうだ!」

「では、情報を教えてください」

「なんだって?」

「南雲光の魔法少女としての戦闘スタイル。得意な魔法を教えてください」

「な、なんでそんなこと……」

「分かりませんか? 斬るためですよ」

「やめてくれ! 南雲を殺さないでくれ!!」

「生島水七海さん」


 突如として月見里の重い魔力がプレッシャーとなり水七海を襲う。その重圧に、血気盛んで勝ち気な水七海が膝から崩れ落ちる。

 

「は、はい」

「アレは、南雲光を食らってその能力と姿形を手に入れた魔物です」

「うぐっ」

「そしてあなたには、高位(ハイランク)魔法少女としての責任がある」

「責任……」

「魔物を打ち倒す責任。上の者を助け下の者を助ける責任。あらゆる困難に立ち向かい、理不尽に打ち勝つのが高位(ハイランク)魔法少女です。先ほど、あなたが()()()()()()したように」

「……」

「生島水七海さん。あなたは、親友に人殺しをさせるつもりですか?」

「――!」


 最後のその言葉で、千夜は奮い立った。


「南雲は、棒術と体術を組み合わせた独特のコンバットスタイルです! 得意魔法は超高速で突きを繰り出す“穿ち”です!」

「ありがとうございます。辛い思いをさせました。あとは任せてください」

「……はいっ! よろしく……お願いします……!!」


 仲間の涙を背負い、千夜は再び対峙する。今度は南雲光という魔法少女の姿形をしたランダヌートと。


「ふふふ、行くよ」


 一瞬で間合いを詰める。繰り出される突きを千夜は難なく躱して腕を狙う。それを察した魔物は棒術で剣を叩く。


「ふふ、やるねー」

「ランダヌート。あなたの模倣は精度が高いようですね」

「模倣? 違うね。これは再現よ。食った魔法少女の記憶から人格から所作に至るまで、全てを完璧に再現する。光は水七海と一緒に50キロメートルエリア担当になろうと約束していた。でも運悪く、私に遭遇してしまった。

 ひと目見て分かった。この魔法少女の才能に! 残念ながら試験を受けれなかったから魔法少女としての評価は分からないけど、この身体なら間違いなく高位(ハイランク)魔法少女になれたでしょうね」

「当たり前だ! 光はあたしなんかより才能があった。実力も断然上だったんだ!」

「でも私に食われた! ははは! 運命とは残酷なものじゃないか!」

「そうね。本当に運命とは残酷」

「そう、悲観するな。お前もすぐに食ってやるよ!」

「月見里流――」

「させるか!」


 魔物はまた間合いを詰め、刀を抜かせないよう体術主体の攻撃に切り替える。


「ほらほら! 刀が使えないと防戦一方だなぁ!?」

「……」

「なんだって? 降参ならもっと大きな声で言いな!!」

「喝ッ!!」

「――!?」


 言われた通り、ただの大声。しかしその声はかえで(楓人)と水七海まで痺れさせた。


「なんだ、これは!? 身体が、動かな……!」

「月見里流には少々変わった技もあります。これはその一つで“声震(せいしん)”と言います。声に気を乗せて発し、相手の動きを一時的に封じるというものです。

 ちなみに私の声震は気ではなく魔力を乗せています。魔物には効果的なんですよ」

「く、くそ! 卑怯だぞ!!」

「南雲光さんの力と命を奪い、姿形で動揺させ盾にもする。あなたに比べれば可愛いものですよ」

「くっそおおおおお!! おい、助けろ! 私はまだやれ――」


 ランダヌートが後ろに控える魔物に助けを求めたその時だった。赤い閃光がランダヌートの頭部を貫いた。


「く……そが……ぁ」


 浄化されたランダヌートの向こうを見て千夜は「逃げられたか」と呟く。


「ありがとうございます。もう一体には逃げられてしまいましたが、傷は浅くないでしょう」

『こちらこそ、お礼を言うわ。私の大切な子を守ってくれてありがとう』

「いえ、失うには惜しい人材ですから」

『あら、千夜ちゃんの評価高いのね』

「正当な評価ですよ」


 通話を終えた千夜はかえで(楓人)と水七海のもとへ降り立つ。


「怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です。本当にありがとうございました」

「すまねぇ。キュアオール代はあとでキッチリ支払う」

「気にしないでいいですよ、ランク報酬でチャラになりますから。それにポイントは有り余ってます」

「……さっきの説教、目が覚める思いだった。あたしは自分のことしか考えてなかった。50キロメートルエリア担当の責任は大きいんだって、再認識した。そこでだ! あたしを弟子にしてもらえないか!?」

「それは無理です。同じアタッカーとはいえ違いすぎますし、なにより私は弟子を取りません」

「そこをなんとかっ!!」

「……では、適当な人物を紹介しましょう。比較的あなたに近いはずです」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「生島さんって師匠いなかったんですか」

「ああ。実質的には北見さんが師匠だったんだけどよ、戦闘に関しちゃほとんど自己流よ!」

「それでは、私はこれで失礼します。姫嶋さん、またいつでも連絡してください」

「は、はい!」


 千夜が去り、そこには夜の静寂が残る。

 ランクA++の脅威と100キロメートルエリア担当の異次元な強さを見せつけられた二人は、それぞれ決意を新たにしたのだった。



 To be continued→

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