謎の魔物
「どこだ?」
『南へ3キロメートルです』
現場に飛んで行くと、そこには見覚えのある2人がいた。
「あの特徴的な髪型は……」
近くまで行って「応援に来たよー」と声を掛けると、「ありがとうございます!」と振り向くと同時に固まった。
「あ、やっぱりあの時の。二階堂亜未さんと唐沢七奈さん」
以前、一度助けたことがある。気合の入ったソフトモヒカンが亜未、姫カットの大人しそうな子が七奈だ。
「姫嶋先輩! 覚えてて下さったんですね!? 感激ッス!」
「あの、この前は本当にありがとうございました」
「二人とも元気そうでなによりだよ。今回はどうしたの?」
「アレなんです……」
七奈が指差す先には、見たことのない魔物がいた。珍しい人型の魔物のようだ。まだ遠いからか、こっちに気づいてないようだ。
「人型なんて珍しいね」
「それだけじゃないんです。アナライズできないんです」
「――!」
すぐにアナライズしてみる。と、やはり【ERROR】と表示された。これは三ツ矢女学院に現れたのと同系統の可能性がある。ということは、間違いなくランクA+以上!
「二人ともすぐここを離れて」
「え?」
「いいから、早く!」
「は、はい! 行くよ亜未!」
「逃がしませんよ、3人共ね」
謎の魔物は一瞬で移動して二人の退路を塞ぐ。
どうやって!? 今まであんな遠くにいたのに!
〈ハローメイプル! 付近の高位魔法少女に緊急要請!〉
〈了解〉
「まず一人」
「させるかぁ!!」
謎の魔物が亜未に手を掛けようとしたところにピュアラファイを撃ち込む。だがほぼ無傷だった。
「くっ!」
水鳥が言ってた、ランクAにはピュアラファイが通用しないというのは、こういう事か……!
「フフフ、いいですねぇ。素晴らしい魔力だ。でもまだあなたの番ではない」
「あ……あ……」
亜未は恐怖で動けないでいる。高位魔法少女の応援が来るまで、俺がなんとかしないと!
「やめろーっ!!」
とにかく攻撃力が欲しい。まずは油断してる魔物に一撃を叩き込む。そういうのに適した武器がある。
「来い、クラウ・ソラス!!」
再現した剣、【クラウ・ソラス】で魔物の腕を叩き斬る。
「なっ!?」
予想外の事態に魔物も動揺して距離を取る。だが、それこそ最大の狙い。【クラウ・ソラス】の真価は切れ味じゃない。
「敵を討ち滅ぼせ!」
全力で【クラウ・ソラス】をぶん投げる。特殊効果として青い光の矢となって魔物に直撃すると大爆発を起こす。
「はぁ、はぁ……!」
魔剣【クラウ・ソラス】
切れ味は全武器最強クラス。そしてその特殊能力は、投擲による超ダメージ。ただし体力と魔力を大きく消耗するため諸刃の剣とも言える。
「よ、よし……二人は逃げたな」
亜未と七奈の無事を確認したところで、爆煙が晴れて魔物の姿が現れる。
「フ、フフ、フフフハハハ!」
「チッ、クラウ・ソラスを喰らってその程度かよ……」
「いやはや! 素晴らしい攻撃でしたよ! 初めての衝撃です!」
「そうかい。こっちは余裕ないんだけどな」
「いえいえ、楽しませて頂きましたよ。お礼に今夜は引き上げましょう」
「はは、悪いな。そういうわけにはいかないんだ」
「はて? それはいったい――」
どういう意味か。と問おうとしただろう瞬間に、別角度から投擲が飛んで来た。
「よっしゃ直撃だぜ! 待たせたな姫嶋!」
「水七海さん!」
「おう、なんだアイツは? 人型なんて珍しいな」
「分かりません。アナライズがエラーになるんです」
「なんだと!? へぇー、面白そうじゃねぇか!」
「かなり頑丈ですよ。たぶん、水七海さんの雷火槍でもダメージ通るか分かりません」
「へっ、ちょうどいい」
「え?」
「雷火槍も強力だけどよ、ランクA+相手にはちっと火力不足感が否めなかったんだ。だから、新魔法を試作してきた」
「新魔法?」
「おう! 雷王鉞だ!」
「な、なんだか強そうですね」
「だろ? 行くぜ!」
水七海は高く上がると、魔法の杖を巨大な斧に変える。
「雷王鉞!!」
バチバチと電気を纏う鉞はゆっくりと振り下ろされる――かと思いきや、目にも止まらない速さで魔物にぶつかった。
衝撃波で吹き飛ばされそうになり、踏ん張って耐える。
「おう、無事か!?」
「は、はい! なんとか!」
確かに強力な一撃だけど、巻き込まれる味方は大変だな……。
「はは、参ったなこりゃあ」
確かに直撃したはずだった。そこに割って入る魔物がいなければ。
「アナライズ」
今度はちゃんと情報が表示された。
「ランダヌート……ランクA++!?」
「マズいな、さすがにあたしでも分かる。アイツは格が違う」
「逃げましょう!」
「バカ言ってんじゃねーよ。ここであたしが退いたら誰があの化け物を食い止めるんだ」
「で、でも!」
「100キロメートルエリア担当が来るまでの辛抱だ。耐えるだけな――」
水七海の言葉は、そこで途切れた。突如現れたランクA++の魔物、ランダヌートの攻撃によって腹に大きな穴を空けられてしまった。
「耐える……こと……も……できね……ぇか」
「水七海さああああああん!!!」
目の前で50キロメートルエリア担当が殺られた。それもあっさりと。
地面に落ちた水七海の口にRドリンクを突っ込む。少しでも回復させないと、応援が来る前に本当に死んでしまう!
「水七海さん! これ、全部飲んで! 水七海さん!」
「ば……か……治ん、ねぇ……よ」
「喋らないで! いいから、早く……!!」
「お……ま……いき……ろ」
「水七海さん!!」
ふざけんな! こんな、目の前で助けられずに死なせるなんて、そんなことさせるか! なにか、なにか手立てはないのか!?
「……」
「み、水七海さん……?」
「……な……ぐも」
「なぐも?」
「姫嶋さん、これを」
「え?」
声に振り向くと、そこには月見里千夜がいた。
「月見里さん……?」
「早く。手遅れになる」
渡されたのは、ピンク色のカプセル。
「キュアオール! ありがとうございます!!」
急いで水七海の口に突っ込み、無理やり飲ませる。すると淡い光が体を包み込み、死の淵に立っていた水七海の体を完全に再生した。
「――あ? なんだ、急に力が……」
「水七海さーん!!」
「おい姫嶋、抱きつくな。こいつはキュアオールか?」
「はい! 月見里さんがくれました。……本当に良かった……」
「泣くな馬鹿者。で、月見里さんは?」
「あれ? 今ここに……あ! 上です!」
「――はは、姫嶋。あたしらは最高に運が良いぜ。現役最強の魔法少女の戦いを生で見れる。しかも相手はランクA++だ!」
確かに、これは絶対に見逃せない。俺が目指すその先をこの目に焼き付けよう――。
To be continued→
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次回、月見里千夜 VS ランダヌート




