彼女の気持ち
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┃ Merry
■ Christmas!!
結局、頂いたライトノベルはマンションに置くことにした。
マンションでは樋山楓人に戻れるから結果オーライかも知れない。ビール飲めるしな!
「読む時は北見校長に許可取ってここに来るしかないな」
北見校長は俺――姫嶋かえでがアイドル活動していることも当然知ってるから、事情を話したら快く承諾してくれた。
「にしても、だ」
寄宿舎へ持ち込んだのは3冊だけだったが、なんと10巻まである。なお現在も連載中だ。
「俺あんまり小説読まないんだけどな……」
だがボヤいても始まらない。早速ビール片手に読み始める。
――あらすじとしてはこうだ。
ある日、イジメを見かけた中学生が止めに入る。しかし案の定、返り討ちにされた彼は運悪く死んでしまう。
気がつくとそこは明らかに日本ではない見たことのない世界。そこで彼はいきなり理不尽に殺されてしまう。なんて運が無いんだと嘆いていると、まさかの武器に変身していた。その強力な武器でトラブルは解決し、気づけばなんと元の体に戻っていた。
彼の能力は死ぬとアイテムや武具などに変身するもの。作中では生まれ変わると表現されている。そして、明音の言ってた通り使用期限や回数が終わると元に戻る。
ただし、自身が望んだ物には変身できない。死んだ彼に触れた者が望んだ物。それが例えば目の前の相手を殺したいと願うのであれば、強力な武器となる。
「自分ではコントロールできない力か。これは面白いかも」
普段小説を読まない俺でも引き込まれ、ページをめくる手が止まらない。ビールが空になってるのも忘れて読み耽った。
「……ふぅ」
自己最速記録で1巻を読み終えた。そして煌梨から貰った歌詞を見る。
「……なるほど、作品を読むと歌詞の意味がよく分かるな」
確かにチート能力だろう。最強武器にもなれるしキュアオールみたいな万能薬にだってなれる。だがその度に死ななきゃならない。何度も何度も自害する。そして時には殺されて……。
それと、この主人公には好きな子がいて――正確には転生先の世界で知り合った子だが――その子のためなら能力を惜しまないと決めた。
だからって、死ぬのは怖いだろうし辛いだろう。それに、目の前で自分のために死にまくる男の子を見て、ヒロインはどう思うだろう?
「……めちゃくちゃ重い話じゃねぇか」
これは確かにダークなロックになるわ。ていうかこれって主人公目線の歌詞なんだよな?
「……」
気づくと魔法少女専用スマホで煌梨に電話していた。
『もしもし、かえで? どうしたの?』
「遅くにごめんね。あのさ……。この歌詞って主人公目線なんだよね?」
『そうよ。主題歌なんだし』
「作品を読んでて思ったんだ。主人公の文字通り血が滲む努力はすごいし尊敬する。けど、女の子からしたらどうなんだろうって」
『女の子?』
「主人公が好きな女の子いるじゃない?」
『ああ、いるわね』
「その子は、自分のために死にまくる彼を見て、どう思うんだろうって」
『……』
「作中ではヒロインの詳しい心情は書いてないけど、絶対苦しいと思うんだよ。主人公が自分のことを好きだっていうのは感づいてるはず。ヒロインは奥手でその気持ちに応えられてないけど……。そんな彼女が、自分のために死ぬ彼を見て冷静でいられるとは思えないんだ」
『確かにそうね。もし私だったら、そんな捨て身の献身は要らないって言っちゃうかも』
「私も耐えられないと思う。だからヒロインのこともすごいって尊敬できるんだけど……。あのさ、この子の気持ちも歌にできないかな?」
『歌に?』
「そう。作中では埋もれてるヒロインの気持ちを歌詞に表せないかと思って」
『そうね……かえでの想いは分かった。でも、どういう形で発表するの?』
「え?」
『作るなら世に出すんでしょ?』
そういやそうか。そこまで考えてなかったな……。
「えーと……。エンディングとか?」
『エンディング……今からは難しいわね』
「そっか、そうだよね。ごめんね、ただの思いつきだから気にしないで」
『ダメよ、かえでの感性は見過ごせない。それに難しいってだけで、不可能じゃない』
「え?」
『考えがあるの。また連絡するわ』
「う、うん。分かった。おやすみ」
……自分で言っといてなんだが、とんでもない注文してしまったのでは?
煌梨は考えがあると言ってたけど、どうするつもりなんだろうか?
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
自分で自分の首を絞めるのが得意な楓人。またとんでもないアイデアを思いつきました。すでに決まってるエンディングを変更するなんて、リアルでやったら下手したら訴訟問題になるのでは……。




