久しぶりの深夜会議
「なにを言っているのか、分かっておるのかお前は」
久しぶりの深夜会議はマンションで行われた。久しぶりに樋山楓人としてビールを堪能しながらぷに助と話し合う。
「サラリーマンと魔法少女という二足のわらじですら騒いでたお前が、アイドル活動追加でいっぱいいっぱいになってたお前が、この上さらに三ツ矢女学院の生徒として通うだと? 正気か?」
「分かってるよ。俺だって無茶なことだと分かってる。それでも、通ってみたいと思ったんだ」
「……それだけか?」
「え?」
「女子耐性0のお前が三ツ矢女学院に通いたいと言うからには、よほどの事情があるのだろう? 本当に通ってみたいだけなのか?」
流石に鋭いな。さて、中原理事長の話を伏せてどう相談したものか。
「理由はある。中原悠月って知ってるか?」
「もちろんだ。中原理事長の孫娘だな」
「その悠月が、俺を――姫嶋かえでをリリウム・ガーディアンとして指名したらしいんだ」
「なんだと? あの姉妹制度か」
「それも、姫嶋かえでが転校した日の翌日に指名したんだと」
「翌日だと? 姫嶋かえではトップシークレットのはずだぞ。それに最初は人形だから器も魔力も分からないはずだ」
「気になるだろ? 中原理事長が伝えるとは思えないし」
「当たり前だ。口が固く信用できるからこそ中原理事長にだけ事情を伝えたのだ。孫娘に話すとは思えん」
「だから、悠月が姫嶋かえでを指名した理由、その思惑を調べたい」
「なるほど、そのためには本人が通う他はないというわけか」
「それに、俺が通えれば人形も温存できるだろ?」
「ふむ。マキハラの負担も軽減できるというわけか」
「本業のほうはマキハラと天界のおかげでリモートワークできるし、今後はもっとやりやすくなる予定だから、学業の合間でなんとかなると思う」
「一応考えてはいるな」
悠月の件は本当だし、マキハラの負担軽減は大きいはずだ。代わりに俺の負担が増えるが、それはもういつもの事だ。
「良かろう、北見校長と中原理事長と調整してみよう」
「よろしく頼む」
「他にはあるか?」
「うーん、他にか」
「ではその前に、一つ確認したいことがある」
「なんだ?」
「この前、中原理事長に会いに行ったな?」
「ああ」
「その時、なにか言われたか?」
「なにか?」
『いいか、次にスレイプニルに会うことがあれば、どんな質問をされても白を切れ。私と天界について話したことは決して悟られるな』
「いや、元の姿を見せたり学校のこと教えてもらったり、あとは悠月を紹介するとか、それくらいだぞ」
「なにか妨害魔法を使ってはないか?」
「妨害魔法?」
『魔法少女の器は、伏せ状態ではノイズが乗りやすいのだよ』
『そうなんですか!?』
『これはごく一部の魔法少女しか知らないことだ。他に漏らすなよ』
「そんなの使ってないと思うぞ? 俺もそんな魔法持ってないし」
「ふむ……そうか。で、なにがあった?」
「そうだな……」
魔物については話すなと言われたし、話せる事と言ったらカレー事件と新人研修くらいか?
「カレー事件とか」
「はぁ? なんだそれは」
事件のあらましを説明すると、呆れたようにため息をつく。
「なんとも身勝手な理由だな。どうせ中学生相手なんだ、多少の誤魔化しでなんとでもなるだろう」
「いや、そうでもない。あの学校は食育も進んでるから舌が肥えているんだ。中にはラーメンのスープを一口飲んだだけで出汁の種類や隠し味まで当てられる子がいるくらいだ」
「なんと……。三ツ矢女学院はグルメ集団でもあるのか」
ま、カレー食べた時に聞いて俺も驚いたんだけどな。熊谷店長があのままじゃ提供できないって言ってた理由も少し分かったよ。何人かには「これじゃない」とか言われるだろうしな。
「お嬢様教育の一環だそうだ。本当に美味しいものを食べてもらいたいってさ」
「そういうものか」
「そういや、ぷに助は食べ物とかいらないのか?」
「スレイプニルだ。私には基本必要ない」
「なんだ、人生損してるな」
「ふん。お前ら人間の価値観で測るな。逆に私から言わせればよく食べ物のことで熱くなれるなと思うぞ」
「そういうもんか」
「さて、他にはないか?」
「あーいや、カレー事件について妙なことがあって」
「妙なこと?」
「北見校長にも言ったけど、カレーを載せたトラックに融合した魔物を倒したんだけどさ、浄化のアナウンスが流れなかったんだ」
「なぬ? 魔物を浄化しました。とかいうあれか?」
「そうそれ。そのアナウンスがあってMPが入るだろ? それがなかったんだよ」
「なら仕留めきれてなかっただけだろう」
「それが、メイプルに確認してもちゃんと浄化されてるって」
「なんだと?」
「コアを一撃で破壊するとこうなるんですか? って北見校長に聞いたら、そんなことはないって言うし」
「それはそうだ。コアを一撃で破壊しても浄化のアナウンスは流れるはずだ」
「やっぱりそうだよな? ……ん?」
「どうした?」
なんだ? 今なにか引っ掛かって……。
「……そうだ。考えたら出来すぎてる」
「どういうことだ?」
「カレー事件があって、俺がマハラジャに到着して、間もなくだぞ? カレーのトラックに魔物が融合したのは」
「むむ……」
「そのトラックに撥ねられた魔法少女が救援要請してくれたから、俺はカレーを発見できたんだ。じゃなきゃカレーは三ツ矢女学院に届けられてたはずなんだ」
「お前は今回の事件に何者かの意図を感じるのだな?」
「ああ」
「うーむ。考えすぎではないか?」
「そうか?」
「例の宮根事件については聞いている。あれはお前の気づきがあったからこそだ。だが今回のはたまたまだろう」
「うーん、でもアナウンスなかったのだけ気になるんだよなぁ」
「やれやれ、仕方のない奴だ。それなら技術班に言って杖のデータを解析してもらえ。ちゃんと浄化できているならデータに残っているはずだ」
「あ、そうか。その手があったのか」
「他にはあるか?」
「うーん、あとは新人研修のトラブルとランク報酬のことくらい……か?」
「それはどちらも報告が上がっている。ラジオネはワュノードに次いで事故率が高い魔物だからな、今後も気をつけろよ」
「分かった」
「他はあるか?」
「そうだな……。じゃあランク報酬について聞いていいか?」
「ああ、あれか。天界では賛否両論だったようだな」
「そうなのか?」
「報酬が少ないというのは前から言われてはいたのだ。特に高位魔法少女からな。だからといって報酬を上げれば無茶をする輩が必ず出てくる。
そこで、今回試験的に高位魔法少女限定でのランク報酬を用意することにしたのだ。高位のモチベーションが上がるのは良いことだからな」
中原理事長は美味しい話には裏があると言っていたが、思ったよりちゃんと議論した上で決まったようだな。
「おかげで俺も高位を目指すモチベーションになったよ」
「そうだ、大事な話があったのを忘れていた」
「なんだ?」
「すぐにでも50キロメートルエリア担当になれるとしたら、どうする?」
「……え? 今なんて言った?」
「もう一度言おう。すぐにでも50キロメートルエリア担当になれるとしたら、どうする?」
「いや、そりゃあ……すぐにでもなれるなら、もちろん嬉しいけど、どういうことだ?」
「実は50キロメートルエリア担当に欠員が出てな」
「まさか……」
「ん? いやそうじゃない。引退者が1名いるというだけだ」
「なんだ、そうか」
「ところがこの引退話が唐突なものでな、欠員が続くのはマズいということで、急遽10キロメートルエリア担当から1名を選ぶことになったわけだ」
「それって、昇格の条件を満たさなくてもいいってことか?」
「うむ。もちろん、ある程度の実力と実績は必要になる。それが今回の条件といえばそうなるな。お前は十分満たしていると判断したため、話をしている」
マジかよ。あれだけ悩んでた問題を解決する最短ルートがいきなり現れた。
「それに落ちても、また正規ルートで昇格はできるんだよな?」
「もちろんだ。今回は特例措置と言っていい」
「よし、ならやるぞ! なにをすればいいんだ?」
「試験については公平を期すため私にも知らされていない。試験日は今から1週間後だ」
「1週間後か。……1週間後? ちょっと待て、1週間後ってことは……」
「なにかあるのか?」
「HuGFのミニライブの日だ!!」
「ふむ。これはまた難儀だな」
「おいおい、他人事みたいに言うなよ!」
「ライブは何時からだ?」
「まだ分からないんだよ」
「なら、明日にでも東山に確認しておけ。では、私はそろそろ行くぞ」
「ちょっと! おい!」
ミニライブと昇格試験が同じ日だと!?
どうすりゃいいんだよ……。
To be continued→
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突然開けた昇格への道。しかしその日はミニライブが……。




