久しぶりの全力
いったい、何が起きたのか理解できなかった。
生島の投げた大剣が魔物の砲撃に止められたと思うと生島が詠唱を始めて、それが終わると魔物が雷に包まれた。
「今のって……詠唱魔法ですよね?」
「へぇ、妙な言葉知ってんな」
「つい先日教わりました」
「あん? あたし以外に使ってるのは3人くらいだぞ」
「風間水鳥さんです」
「風間だぁ!? あの野郎、諦めてなかったのかよ」
「え? それはどういう……」
「説明面倒くせぇから本人から聞けや」
「はぁ……」
「それと、あたしのは詠唱魔法とは少し違う」
「でも、詠唱してましたよ?」
「あれは後述詠唱つってな、術式を追加するもんだ」
「魔法ではなく……術式の追加?」
「詠唱つっても色々あんだよ。それこそ師匠にでも聞きやがれ」
「それと、デュプリケート使ってましたよね?」
「おめぇは変な言葉ばっか知ってんな。デュプリケートなんざ高位じゃ珍しくもねぇ」
やっぱり。高位では当たり前の戦術か。
「変な野郎だぜ……。と、まだ終わってな――」
生島の渾身の一撃を受けてなお、ポラキオノゥスはそこにいた。さすがに外殻のほとんどは崩れ落ちていたが、やはり角は残っている。
そして、その角から再び砲撃を撃とうとしていた。それも、さっきのよりも魔力反応が強い。
「どういうことだ? 雷霆斬空と雷火槍を喰らって生きてるのも解せねぇが、どこにそんな魔力隠し持ってやがる。……ハッ、ここまでか」
なんだ? 急に諦めたようにやる気を失くした?
それより、なんとかしないと……。
「――!」
そうか、そういうことか!
あの角はただ砲撃するためのものなんかじゃない!
「生島さん! あの角です!」
「あん?」
「あの角はただの砲身なんかじゃない。あれは魔法攻撃を吸収する役割もあるんですよ!」
「なんだと!?」
その証拠に体には傷一つ付いてない。外殻が壊れたのは攻撃でじゃない。吸収した魔力で大きくなった体が外殻を割ったんだ!
「生島さんの魔法攻撃、雷霆斬空と雷火槍を全て吸収しているとしたら……」
「吸収したあたしの魔力を使って攻撃だ? 舐めた真似してくれるじゃねぇか!」
「駄目です! これ以上刺激しては!」
「あぁ!? ならどうするっつーんだよ!?」
どうすればいい? 攻撃しても吸収されるだけだし、かといって生島の魔力を吸収した攻撃を防御できるとは思えない。
〈一つだけ、方法はあります〉
〈メイプル?〉
〈あの魔物の魔力より、マスターの魔力のほうが上回っています。マスターの魔法であれば相殺できるはずです〉
「それだ!」
「あん? なんだ、良いアイデアでも浮かんだか?」
「はい!」
「ハッ! バカ言ってんじゃねぇよ。てめぇみたいな実力もねぇやつが」
「なら、このまま負けていいんですか?」
「……あ?」
「今の生島さんには、あの魔物を浄化できる決定打がないんですよね?」
「てめぇ……」
「でも、魔力が尽きた魔物なら、どうですか?」
「なんだと?」
「魔力は魔物にとっても生命線です。その魔力が枯渇した状態の魔物なら、生島さんの物理攻撃で浄化できるんじゃないですか?」
「……ハッ! 生意気言いやがって。そりゃあてめぇがあの攻撃を防ぐって言ってるようなもんだぞ」
「はい」
「……できんのか?」
「できます」
「……チッ。しくじったらぶっ殺すからな」
生島にも、今のままじゃ勝機が無いと分かってるんだ。だったら、俺が勝機を作り出す。
「さーて、久しぶりにやるか!」
抜き打ちでも行けるが、より確実に勝つため意識集中で魔力を集中する。
「全力全開!」
魔物が砲撃を発射するそのタイミングに合わせて俺も魔法を放つ。
「ピュアラファイ!!」
超特大の白銀の閃光が魔物に向けて放たれる。
「なっ! なんだこりゃ!?」
俺の全力ピュアラファイを初めて見る生島は驚いていた。だが今はそれどころじゃない。
「くっ!」
思ったより魔物の魔力が強い。押し負けることはないが、意識集中しないと均衡が崩れる。
「どんだけ吸収したんだよ……!」
それでも、少しずつ手応えが弱まってるのを感じる。向こうの魔力が尽きかけてるんだ。
「もう少し!」
次第に優勢になり、行ける! と思ったあたりで攻撃を止める。
「ふぅ」
最後、残り火のような魔物の攻撃は簡単に防御できた。
「生島さん!」
「行くぜ! 雷神の鉄槌!!」
いつの間にかまた別の、さらに大きい剣に切り替えていた。それを魔物の真上から自由落下そのままに振り下ろすと、一刀両断した。
「やった!」
「……まったく、大した奴だぜ」
「なにか言いました?」
「ちったぁやるじゃねーか!」
「ありがとうございます!」
少しは認めてもらえたかな? 北見校長に良い報告ができそうだ。
To be continued→
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