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第二話

とりあえず、ストックを放出します。あと、中の人の趣味がダバダバ漏れ出していくんで注意です。黒苺君とは多分良いお友達になれるんじゃないかな。まあ僕はAndroid過激派なんですけど。Xperiaはいいぞ。

 御茶ノ水を出発したところで俺は強い違和感に襲われる。


「次は、浅草橋、浅草橋。お出口は右側です」


 秋葉原はどこへ行ったんだ。もしかしてこっちの世界じゃ総武線にも区間快速があるのか?半睡状態だった目を何とか開き路線図を見やると謎が深まる。素人目にもわかる異常な路線図がそこに広がっていた。


 秋葉原駅が黒く塗りつぶされていた。いたずらかと思い他のドアの路線図も見てみるが、やはり明らかに手書きで一つ一つ秋葉原駅の部分だけが黒く塗りつぶされていたのだ。


 元々京浜東北線や山手線、つくばエクスプレスなんかとも接続する割と大きな駅だったと記憶している。そう簡単に潰せるほど小さな駅でもなければそもそも路線図そのものは張り替えずに油性マジックの様なもので手書きで塗りつぶされているのが不思議でならない。


「この先揺れますのでご注意下さい」


 運転手のアナウンスが入る。まるで地下鉄だ。


 …何て思っているのもつかの間、電車はいきなりスピードを上げ始めた。そして次の瞬間、外の景色が暗転する。はて、こんな高架線にトンネルなんて…と思っていると、急に車外から光が漏れる。そこには自分の知っている秋葉原の町並みは広がっていなかった。


 そもそもトンネル自体仮設のもののようだが、その形状を保つのすらギリギリのラインと言わんばかりにひしゃげ、変形していた。さっき差し込んだ光はそのトンネルにできた外傷による穴からだったというのだ。そして何より、その穴の外は、建物こそ見覚えのある景色だが街を歩く生き物に見覚えがない。人間に混じって、所謂「獣人」や「竜人」と呼ばれる人外が街を闊歩する姿は改めて異世界に来たという実感をわかせる。秋葉原駅そのものは建物として残っているらしく、駅ホームは消灯及び封鎖こそされているが治安が回復したらまた整備して開業するつもりなんだろう。


 秋葉原地区を抜けると電車は減速し始める。トンネルを抜け、浅草橋駅が見えてくる。これはアレか、歩いて戻るんだったら御茶ノ水から歩いたほうが早かったんじゃないか?


 …とは言いつつも、俺の居た世界ほど総武線のダイヤは多くないらしく、戻るのにも20分待たなければならない。浅草橋から徒歩決定。


 駅から出て、俺はまたすぐに度肝を抜かれることとなる。…駅前には闇市のようなものが開かれているのだ。


 食品がべらぼうな価格で販売されているかと思えば、犬獣人の子供が本物の仔犬よりずっと低価格で投げ売りされている。首から下げられた値札には「純秋葉原産」と書かれている。なるほど、密輸でもされているのか。


 物価の崩壊。いや、完全に行政が機能していない証拠だろう。JRも民営化しているからかろうじて運転していて、いつ使えなくなるか分からないと思っていたほうがいいかも知れない。


ドンッ


「あ、すみません」


 走ってきた狐の少年にぶつかったらしい。少年はこちらを見向きもせずに走り去ってしまった。


 …何かから逃げてるんだろうな。そもそも秋葉原周辺が壁で囲われている辺り、本来獣人は隔離されるべき存在かと勝手に思い込んでいたが…。


 しかし喉が乾いた。何だろう、やっぱり常識が通用しないとなるとこんなにも疲れるものなのか。


 財布を取り出そうとして気がつく。あれ、財布どこにやった?鞄の中、無し。横ポケット、無し。尻ポケット、無し。


「…」


 あれ、携帯も無い…。どこやった?というかWhiteBerryだし俺今生命の危機なのでは?


「待てコラ異端者この野郎!!」


 あああああバレた。最悪。え、どーすりゃいいの?俺浅草橋とか初めてだよ?


 とりあえず声の主の方を見る。いや、だってムキムキだったらとりあえず抵抗はしないじゃん?


 しかし、声の主はこちらなど全く見ていなかった。異端者と呼ばれていたのは、さっきぶつかってきた


 狐の少年だったのである。


 あ、アイツにスられたのか俺。んで、俺の携帯が見つかった訳ね。自業自得じゃん…いや待てじゃあ俺まずいじゃん!


狐は一目散にこちらへ向かってくる。あいつ俺から携帯と財布スッた挙句告発する気か!?


冗談じゃない!そもそもなんで異世界転生して一瞬でピンチに陥ってんだよふざけんな。


 とりあえず狐の首根っこを掴んで近所の放棄された工事現場のフェンスの下に転がり込む。狐は目を白黒させているが知ったことではない。幸運にもそとの自警団らしき集団はこいつを見失っているようだ。工事現場を通り抜け人気のない裏路地に逃げ込む。


「……で、とりあえず俺に何か言うことあるでしょ君」


「…」


「まあいいや先に盗品返却でも」


「お前だって異端者じゃないか。なのになんでそんなに堂々としてられる」


 あーこじらせてますねこれ。うっせぇまだ何も知らないんじゃこの野郎。


「異端者だが何だが知らんが盗みは良くないよな、盗みは。返せ俺のWhiteBerryと財布」


「…」


 しぶしぶといった様子で狐は俺から盗んだ物を返す。危うくここから動けなくなるところだった。


「居たぞ、あそこだッ!」


まずい見つかった。え、どうしてくれよう。


「お前何ボーッとしてんだ。隠れないと今度こそ殺されるぞ」


「殺…は?」


「なんでその年になってまでそんなに世間知らずなんだよお前。WhiteBerry持ってて安息の地を得るなんてこの世界じゃ不可能…まあいいそんな事喋ってる暇無いッ!」


 次は狐に引っ張られる番だった。だが、痩せこけた狐に引きずられるほど俺は軽くない。


「何処に行く…てかちょっとまってなんで俺まで?」


「いいから走れッ!!」


 何かすげぇ怒鳴られた反射で走り始めてしまった。え、怖っ。


 あれおかしいな、浅草橋降りてからまだ数分の出来事なんだけど。まだ秋葉原にすら着けてないんですけど。



「はぁ…はぁ…なんでこんな目に…」


 高架下に転がり込んでやっと狐は俺の手を離した。今思えばもふもふだったな。つーか当たり前に獣人いるもんなんだな。


「ったく…今日に限って稼ぎは少ないし…やっと行けたかと思えば異端引くし…」


「おいこらお前ちょっとは反省しろやボケナス」


「あんなところで無防備な格好してる方が悪いだろ」


「徹底的な自己中心主義やめろ」


はぁ、と狐は溜息をつく。そして一言。


「まあ、お前は訳ありらしいからな。ちょっとタグ見せろ」


「タグ?」


「"まともな"民間人ならみんな持ってるんだろ?yTag」


「…わいたぐ?」


「…なるほど、異世界人って訳ね。そりゃ何も分かんないか」


 yとついてるあたり、pippin製品なのはまあ間違いないだろうが…。そもそもyPhoneの非接触決済システムすら日本におけるHumanoid搭載のケータイがおサイフ機能との互換性はないというのに、なぜそこで何かタグっぽいものを出すのか理解に苦しむ。


「yTagってのは、そもそも行政が発行してたオウンナンバーカードの次世代モデルだ。互換性はないが、日本pippin支部が国より強大な力を持ち始めた頃から、"よりセキュアに、より便利に"をスローガンに置き換え作業を始めていった」


「…おうおうおう?なんかとんでもねぇ話になってないか?」


「事実とんでもない話だから笑えないんだよ。で、まあ大体浅草橋を呑気に歩いてるやつなんて世間知らずのぼんぼんか身よりも人づてもない異世界人ってわけだから、スるとなるとどちらに転んでも旨味が多いんだよ。まさかHumanoid持ちですらないとは思わなかったけどな」


 …なんか壮絶すぎて話についていけない。いやまあそもそも新宿にいた段階で頭おかしい世界だとは思ってたけれども。


「…悪いとは思ってる。でも、やっと六本木から逃げ出してきたんだよ。僕だって生きていくには金がいる。秋葉原に行くために貯金もしなきゃならない」


「pippinそんなやべー企業じゃないはずなんだけどなぁ。つーかこの世界がやべーだけなんだけど」


「…pippinだって最初は自社のファンの暴動ってことでマカーを抑えようとはしてた。でも結局は無駄だった。結局は全世界でのスマートフォン産業が衰退。pippinも生き残るためにこのyOS一強状態に便乗するしかなかったみたいだな」


「だれも得しない争いの代表例みたいなもんだな。いやまぁ結局pippinは日本内では成功してる感じあるけど。…ん、そういえば秋葉原に行くのに金がいるって言ったか?」


「僕ら獣人は基本的に秋葉原内とその外の種族で分けられている。基本的に行き来するには秋葉原内外で商売をする商人に頼み込むしかないんだよ」


 なんだか不思議だ。別に獣人は色々な地区で生息しているみたいだが、秋葉原の獣人だけは何か特別なのか?


「人間は自由なのか?」


「さぁね。でも毎回ある程度のセキュリティチェックはされてるみたい。スマホのタッチを毎回強要してるからプロテスタントのギルドに用がある人間も苦労してる」


 …こいつこんな身なりだが、この世界のことについては詳しいらしいな。それにお互いお尋ね者ってわけだ。あとエキノコックスを心配せずにもふもふできる。


「…なぁ、お前の秋葉原密入、手伝ってやろうか?」


「は?」


「そのかわりこの世界について教えてくれ。俺もとりあえず秋葉原に行く必要があるしな」


「…信用に値しないな」


あら、だめだったか。いやはや困ったな。行ける流れだと思ったんだが。


「そもそもお前は取引許可書を持った公式商人じゃないだろ、どうすんだ」


「話を聞く限り、その関門を設けているのはpippin派連中なんだろ?だったらちいとばかりシステムを落としてやればいいんじゃないか?」


「やめとけ。死にたいのか」


「至って真面目だぞ。だってアレだろ、WhiteBerryにはもともと高い水準のセキュリティソフトがインスコされてる。だったらXIUベースで動いてるマシンに面白いもん投げ込んでそっからすぐ手を引きゃ良い。どうせこの調子だったら電源関連すらpippinシステムに制御されてそうだし、復旧までには時間がかかりそうだな。その頃にはこっちのスマホは対策万全」


「…バカバカしい。そんなの誰ができるって言うんだ」


「俺」


「…」


「普及してるってことはそれだけXIUの脆弱性も突かれやすい。でも、すべてのデバイスがアップデートされてるとも考えにくいだろうさ」


「でもバレたら殺されるぞ」


「プロテスタント的には大喜びの事例になる筈だ。匿ってくれるんじゃないか?」


「…」


 じれったくなってきた。悪いが君はまだまだ利用価値がある。あとモフらせてほしい。


「行きたいんだろ?秋葉原。それともお前にとっての秋葉原はその程度で諦められるものなのか?どうせ密入んときにバレても殺されるんだろ?」


 正直な話、獣人目線で見た秋葉原がどういったものなのかはよくわからない。でも…多分こいつの必死具合からしてそんなに単純に諦められるものでもないみたいだ。


「…どうせ一生お尋ね者…か。こっちは体が資本なんだ。守ってくれるよな?」


「任せろ。人生どーにかなるもんだよ」


俺は、狐に手を差し出す。狐も迷うことなくこちらの手を握り返す。

ここまで読んでくださりありがとうございました。なんとですね、ここでストック分がなくなりました。びっくりだね。ゆっくりと更新していきたい所存ですのでどうぞよしなに。

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