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MARBLE 序章  作者: 窓井来足
8/12

07

ジュンがホテル跡地の調査をしている頃。

怪物討伐の任務を終えたカイは、組織の一室でとある人物と会っていた。


さて、その人物とは。

 07


 組織ラトムスの一室。

 怪人達の王である存在、カイのために与えられた特別室で。

 カイがアイス珈琲を飲みながら、部屋の出入り口の方を眺めていると、ベルが鳴ると共にモニターに来訪者を知らせるメッセージが映し出された。

 カイはタッチパネルを操作して、部屋のロックを解除し、「入りな」と指示する。

 すると開いた部屋の出入り口から、白衣を着た男が入ってきた。

 その男は、無精髭を生やしている事と、歩くとき多少前のめり気味になっている事以外は特に個性のない、こういった組織なら何処にでもいそうな風貌をした人間である。

 だが、そういった無個性な容姿風貌こそ彼には必要なものであった。

 何故なら彼は。

 ラトムスに敵対する組織のスパイであったからだ。


「で、予定は計画通りに実行されるんだろうな?」


 男の顔を見ず、手にしたグラスの中の氷を眺めながらカイは問う。

 するとスパイは、頭を掻きながら、


「まあな。予定通り二時間後に実行する」


 と軽い調子でカイに告げる。

 彼らが話しているのはラトムスを壊滅させる計画についてである。

 無論、二人がそんな話を堂々としているのは、この部屋に仕掛けられている盗聴器とカメラには既に細工が仕掛けられており、警備室のモニターには単にカイが一人でくつろいでいる様子が映し出されているためである。

 まあ、それはともかく。

 スパイの言葉を聞いてカイは頷いたものの、


「しかし、こんな真っ昼間に計画を実行しようなんて、本当に大丈夫なんだろうな?」


 と疑問を口にした。

 また、その疑問か。

 スパイはそう思いながらも、


「この組織の警備システムのプログラムにある穴がつけるのが、丁度二時間後なんだから仕方がねぇだろ」


 と既にカイにしていたのと同じ説明を繰り返し、


「大体、この穴を作るのにこっちは研究員のふりして五年も潜り込んでいたんだぜ?」


 と付け加える。

 それを聞いてとりあえずは納得したカイは、「まあ、いい」と呟いてから、


「で、計画が実行されている間、私は組織に一切関わらない。それだけでいいんだな?」


 と確認する。


「まあな。ホントならこっちの仲間として戦って欲しいところだが、それじゃお前は協力してくれねぇんだろ?」

「当たり前だ。私は組織から解放されて、自由になれる時間が得られるというからこそ、お前の誘いに乗ったんだからな」

「はいはい、わかってますよ」


 男はそう口にしてから、ちょっと考えて、


「でもよ。お前さん。自由に動ける時間に何したいわけ?」


 と問う。

 するとカイは、口元に笑みを浮かべながら、


「勿論、アイツを苦しめるのさ」


 と宣言したのであった。


 ☆ ☆ ☆


 あの日。

 カイがたまたまジュンを助けたあの日。

 カイの方もまた、ジュンに何かを感じ取っていた。

 もっとも、フルフェイスの兜を身につけたカイを見たジュンと違って、カイはジュンの顔をはっきりと見ているので、仮に何も感じ取っていなかったとしても、自分とあまりに似ている顔つきの相手に何かを思ったのだろうが。

 まあ、ともかく。

 カイは自分と助けた相手には、何かがあると感じ取ったのだ。

 しかし、ジュンの場合と違ってカイには周囲にそのことを訊ねる相手がいなかった。

 なのでカイはラトムスのコンピュータに密かにアクセスし、自分の造られた時の状況について独自に調査を開始した。

 しかしカイは戦闘は専門だが、ハッキングに関しては未熟である。

 当然、彼女がラトムスのコンピュータに不正アクセスしていることは即座に発見されてしまった。

 だが、カイは運が良かった。

 何故なら、その不正アクセスを発見したのは、研究員としてラトムスに潜り込み、当時警備部に配属させられていた、スパイだったからだ。

 スパイにとってラトムスに属する怪人達を束ねる王であり、自身も圧倒的な戦闘能力を持っているカイは早めに対処しておきたい相手であったので、彼女のこの不正アクセスは何かに利用できないかと考えた。

 結果、スパイは他の職員に気がつかれないように不正アクセスの痕跡を抹消してから、カイに接触して不正アクセスの件を利用して脅迫し、交渉しようと企てた。

 だが、スパイが実際にカイと話してみると、彼女は決して組織に忠誠を誓っているわけではなく、むしろ自身を道具として生み出した組織のことを憎んでいるということが明らかになった。

 それを知ったスパイは、カイに自分たちの組織の仲間にならないかと持ちかける。

 カイはスパイの属する組織が、ラトムスよりは待遇の面で優れていると判断。

 結果、彼女は自分の出生についての情報の提供を条件にスパイの側につくことを決心したのであった。

 さて。

 こうしてスパイと協力することにしたカイは、彼から自身が誕生した時にもう一人人造人間が誕生していたこと、そしてそのもう一人の人造人間は「頂点が二人いては混乱が起きる」ということと「王の育成に二人分のコストをかけることはできない」という理由で処分されていた事、更にその人造人間を生み出したミナヅキ博士は爆発事故で亡くなっており遺体が発見されていないことを知らされる。

 そこからカイは、ミナヅキ博士はもう一人の人造人間を密かに逃がしており、その後死亡事故に見せかけて行方を眩ませたのではないかと推測。

 そしてその組織から逃がされた人造人間こそ、以前の任務中に偶然遭遇したあの女ではないかと考えたカイは、今度はスパイに夜宵市に住む、自分と顔つきの似た女性を探させた。

 数日のうちに、スパイはジュンという最近この町に引っ越してきた女性がおそらくその人間であることや、ジュンにとって義理の祖母にあたるオオイシ教授が大学時代、ミナヅキ博士と同じ研究室に所属していた事を突き止める。

 その情報から、カイの推測はほぼ確信に変わった。

 そしてそれと同時に。

 カイの中で嫉妬のような感情が湧き上がってきた。

 何故、自分は組織に道具として使われているのに、同じように生まれた妹分であるジュンという女は自由に生きているのか。

 何故、自分には家族と呼べるような存在がいないのに、ジュンにはアヤという親が存在しているのか。

 自分とジュンで一体何が違うというのか。

 ジュンの中で芽生えた嫉妬心はいつしか増幅し、気がつけば復讐心に近いものに成長していき。

 そしてカイは、スパイに新たな取引を持ちかけたのであった。

 自分に、一時でいいから自由な時間を与えろと。

 そう。

 その時間は、憎き妹に復讐するための時間である。


 ☆ ☆ ☆


「で、あいつ等に関してのデータはあるんだろうな?」


 カイはスパイの男の方に手を出しながらそう訊ねる。

 するとスパイは「ほらよ」といいながらメモリを差し出された手に乗せた。

 カイはすぐさま、メモリを自身の持っている携帯端末に差し込み、中身を確認する。


「ジュンって女の方は別に経歴を隠しているわけでもなかったから、結構色々情報が出てきたぜ」

「ほう……」


 言われて、ジュンに関するファイルを開くカイ。

「……四歳の時にタイ、インドネシア、フィリピン、インドにそれぞれ二ヶ月間滞在、八歳の時にイタリアのフィレンツェに一年、九歳で中国の河南省に半年滞在。それから十歳から十三歳まではこの国に戻っていて、十三から十五はハワイ、更に十六までテキサス州ヒューストンで過ごす……か。まったく恨めしいな。私は今までこの町の周辺ぐらいにしか行ったことがないというのに」

「どうやら、育ての親のアヤってのが武術研究家とかで、その関係であちこち連れて行かれていたみたいだな」

「なるほど、そうなのか」


 スパイがアヤの話題を出したので、カイは今度はアヤの方のファイルを開き、経歴を確認する。

 しかし、その経歴は〇歳の時に夜宵市で誕生という項目の次が、いきなり二十二歳になっているというものであった。


「おい、これはどうなっているんだ?」


 疑問に思ったカイは携帯端末の画面を指さしながらスパイに問う。

 するとスパイは、頭を掻きながら、


「それが、そのアヤっていう女に関しては二十二歳まで何処で何をしていたのか、全くわからなかったんだな。これが」


 と返した。


「何? そんなことがあるのか?」


 スパイに言われても納得がいかないカイは再び聞き返す。

 するとスパイは、


「んな事言われてもな。ジュンとアヤについて調べているのは、うちの組織の命令じゃあねぇから、あくまで俺の独力での調査になっちまうんだよ。で、俺一人の力じゃあアヤってヤツの過去に関してはそこまでしかわからなかったってわけだ。現在に関しちゃ好きなジャズピアニストとか、お気に入りの花の種類とかまで分かっているのによ」


 と言い訳をしてから、


「ま、でも逆に言えば俺の力でも、それぐらいしか情報が出ないくらいに何か訳ありってことだから、用心した方がいいぜ」


 と忠告をした。

 だがカイは、


「まあ、いい。いくらアヤってのが謎の人物だとしても、生身の人間なんだろ? ならば、戦闘用の人造人間である私が負けるはずがない」


 とスパイに言って、その助言をろくに相手にしなかったのであった。

 ちなみに、これを聞いたスパイは。

 世の中にはお前の常識の範疇におさまらないような達人も存在するんだがな、と思ったが。

 その点を忠告したところで、カイが素直に聞くはずもないかとして、その意見は口に出さなかったのであった。

 さて、一通り二人の経歴を見終えたジュンは、次にターゲットを確認する為に、二人の顔写真のファイルを開く。

 まずはジュンの方。

 自分と同じ顔なので見間違えるはずはないとは思ったのだが、一応確認しておく。

 そして確認しながら、カイは前から思っていた疑問をふと口にした。

 それは、


「そういえばこいつ、私と違って茶髪なんだな」


 ということだった。

 それを聞いてスパイは、


「染めたんだろ? あんたみたいに黒白にはっきり分かれた髪なんて目立つからな」


 と返事をする。


「まあ、そうだろうな」


 カイとしても、スパイの言うとおりだと思っていたのでここは素直に同意。

 そしてそのまま、今度はアヤの方の写真を眺める。

 しかし、その写真はどう考えても三十代前半、いや、場合によっては二十代後半の顔つきをしたものだった。


「おい」

「なんだ?」

「何故、アヤとかいうヤツの写真は昔のものなんだ?」


 アヤの経歴を見たところ彼女の年齢は四十二歳のはず。なのに何故こんな写真がスパイの用意したファイルに入っているのか。不思議に思ったカイが彼に尋ねる。

 するとスパイは、


「いや、それは数ヶ月前の写真だ」


 とごく普通に返事をした。


「数ヶ月前って……おい、これでこの女、四十超えているっていうのか?」


 組織内の人間としかろくにコミュニケーションを取ったことのないカイは他人の年齢を顔から推測することはあまり得意でない。

 だが、そんな彼女の感覚でも写真の女の顔は明らかに四十代ではないものだったのだ。


「……本当にこのアヤとかいうヤツ、普通の人間なんだろうな?」


 もしかしたら、この女は自分と同じような人造人間だったり、あるいは何らかの特殊な体質の持ち主ではないのだろうかと疑い、カイはスパイに確認する。

 それに対してスパイは、


「多分そうだろう。確かに二十代前半までの経歴は不明だけどよ。もし、何か特異な存在ならむしろうちの組織の方からも何らかの報告が入っているはずだしな」


 と返事をした。


「そうか、ならいいんだが……」


 スパイにはそう言いながらも、カイはアヤは本当は警戒するべき人物ではないかと考え、彼女を普通の人間として侮っていたその態度を改めたのであった。

 カイのこの、アヤを外見的年齢によって常人ではないと判断したことは完全に的外れな推測であったのだが。

 それでも、この時に彼女がアヤを軽んじるべき相手ではないと判断したのは、結果的には正しい判断であった。

 無論、この段階でそれを知る者はいないのだが。


「さて、それじゃあ報告も済んだし、渡すものも渡したから俺はそろそろ計画の為に動くとするぜ」


 そう断ってからスパイはカイに手を差し出し、握手を試みる。

 だが、カイはその手を無視して、


「ああ、よろしく頼む」


 と言葉だけ返した。

 そういったカイの態度はいつものことなので慣れているスパイは、特に不快になったりはせず、


「じゃあな、せいぜい頑張りな」


 と言いながら出入り口の方に向かって歩き、そしてそのまま部屋からて行ったのであった。

 そして、そんな彼を見送ってからカイは、冷蔵庫からよく冷えたジンジャーエールを取り出し、それをグラスに注いで飲みながら。

 ゆっくり、そしてじっくりと二時間。

 時を待つことにしたのであった


 ☆ ☆ ☆

 

 さて、この二人の会話から二時間後。

 スパイと彼が属する組織によるラトムス壊滅計画が実行に移された。

 そして、それと同時に。

 カイの復讐もまた、開始される!

こうして、予定通り自身の逆恨みにも近い復讐を実行することにしたカイ。

だが、果たしてそれは上手くいくのか……。

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