06
前回。力を手に入れたジュンですが。
その後、意識を失ってしまい――。
果たして彼女はどうなったのか。
そしてその後、どうしたのか。
06
さて。怪物との戦いの後、意識を失ったジュンは、少年がジュンの持っていた携帯電話を使って呼んだアヤによって道場に担ぎ込まれ、そして道場に呼ばれたアヤの知り合いの医師に診察された。
結果として、医師が告げたジュンの症状は「疲労と腕や肩の筋肉痛」というものであった。 医師は特に筋肉痛が酷いので、当面は無理をしないようにと意識を取り戻したジュンに念を押したのだが。
ジュンはアヤの目を盗んで、自身の手に入れた「剣を召喚する力」を試し始めたのであった。
ジュンは道場の庭に出て、手の平を見つめ、剣の形を思い浮かべて、それが具現化するようにイメージする。
すると、剣は案外簡単に生成された。
しかし――。
「…………………うっ!」
剣を持ったジュンに前回同様、異様な感覚が襲いかかる。
ジュンはその異様な感覚に耐えきれず、剣を手放した。
その途端に身体の状態が元に戻ったため、ジュンはやはり剣が自身の身体能力を向上させているのだということを確認したのだが。
さて、この力を自分はどう使いこなすべきだろうか?
いや、その前にこの力は果たして一体、何なのだろうか?
落ちた剣を見つめながらジュンは思う。
すると、そんな彼女の背後から。
「おいおい、無茶してんじゃないよ」
とアヤの声が聞こえた。
「師匠。見てたのか?」
「まあな」
アヤはそう言いながら、ジュンの側に行き、落ちている剣を拾い上げる。
「へえ……これが例の剣か。かなり重いな」
そう言いながら剣を振るうアヤ。
「師匠はそれを持っても何ともないのか? それと、例のって言うのは?」
「ああ。怪物のことも、剣のことも事情はあいつから聞いたよ」
ジュンに訊ねられてアヤはまず、自分が道場生の少年からおおよその話を聞いたということを話し、それから、
「どうやらこの剣を持つと、お前は身体的に変化が起こるらしいな。私は別に何ともないが」
と剣に関して言う。
それを聞いてジュンは、
「ああ、何かそれを手にすると感覚とか力とかが数段跳ね上がったみてぇな感じがするんだ」
とアヤに説明。
アヤはそれを受けて、少し考えてから、
「なるほど。だから、これを使ったお前の腕や肩がそんなになるわけか。剣ってのは斬ることより、自身への負担を軽減させる方が難しいからな」
とジュンの腕から肩を指さして告げる。
ジュンはアヤの意見に納得して頷きながらも、
「でもよ。この力を使えるようにならねぇと困るしな」
と意見する。
「ん? 困るのか?」
「だって、怪物が実在したんだぜ? それと戦うためにはこれを使いこなせるようにならねぇといけないだろ?」
「まあ、そうだな」
アヤはジュンの意見に同意する。
ただし、この段階ではアヤはジュンが怪物と戦えるようになろうとしているのは、あくまで今回のようにそういった事件に巻き込まれたときの為だと思っており、自ら怪物を討伐しに迎えるようになろうと思っているとは考えていなかったのだが。
まあ、それはともかく。
アヤに自分の意見を同意されたジュンは、アヤの持っている自身の剣を見つめながら、
「……ところで師匠?」
と訊ねた。
「なんだ?」
訊ねられたアヤはジュンの目を見て返事をする。
ジュンはそんな師匠に対して、まず一呼吸してから、
「何であたしはこんな力を手に入れられたんだ? どうも怪物を倒しているっていう鎧の戦士ってのがあたしに何か関係あるっぽい気がするんだが、どうなんだ?」
とここ数日考えていた疑問をぶつけた。
「どうなんだ……か」
「いや、前からあたしは何か、周りのヤツより傷の治りとか早ぇし、普通じゃねえ気がしているんだがよ。やっぱ、あたしの生まれとか、その辺りに何かあるのかな……なんて」
ジュンにそう言われて、アヤは、
「なるほどね。いい線いっている」
と言ってから、空の方を見ながら少し考えて、
「お前ももう、いい歳だし、その上妙な力まで目覚めてしまったんだ。そろそろ、お前が何者なのか話してもいい頃かもな」
と続けた。
「何者か、ねぇ……」
「そう、何者か、だ。まあ、簡単に言うとお前は――」
☆ ☆ ☆
ジュンの正体。
それは、ジュンをアヤの母、オオイシ教授に預けたミナヅキ博士が、組織ラトムスの命令により、夜宵市の地下にある高エネルギーを利用して生み出した人造人間である。
ただし、ジュンはラトムスの計画では生まれてくる予定はなかった人造人間でもある。
ラトムスは本来、高エネルギーの放出が増加する時期に、その力を使って一体の人造人間を生み出し、それをラトムスに属するタイプのキニスを支配するための王として育てる計画を立てていた。
だがミナヅキ博士達が活性化したコアを上手く制御できなかった結果、その人造人間は双子として誕生してしまったのだ。
その報告を受けてラトムス上層部は、王が二人いては混乱が生じることと、王を育成するためのコストや設備、人材に二人分の余裕はない事を理由に、一方の人造人間を処分するようにとミナヅキ博士に指示を出したのだが。
以前からここ最近のラトムスの方針に危険性を感じていたミナヅキ博士は、ジュンをいざというときにラトムスに対抗できる力になると判断し、知り合いであったオオイシ教授に密かに預けたのであった。
そして、その数ヶ月後。ミナヅキ博士は実験中に起きた爆発事故により死亡してしまうのだが。
この事故はラトムスによる計画的なものだったとも、あるいは逆にミナヅキ博士が死を装って自身の行方を眩ますために起こしたものだとも噂されているのであった。
なお、ラトムスによって生み出された人造人間のうち、王として育てられることになったもう一人の存在。
それが例の黒白の騎士ということになる。つまり、騎士は――
☆ ☆ ☆
「あたしの姉ってことになるのか」
「まあ、そういう言い方もできるな」
自身が人造人間であったことや、騎士が自分の姉であったことを知ってもジュンはいたって冷静であった。
これは既に、騎士との間に特殊なものを感じたり、あるいはその後自身に剣を生み出すという奇妙な能力が目覚めた段階で、大抵のことには動じなくなっていたためである。
そして、そんな精神状態のジュンは、アヤに言われたことを自分の中で一通り整理してから、
「じゃあ、あたしに突然剣を生み出す能力が目覚めたのは、その姉ちゃんに影響を受けたからってことでいいのか?」
とアヤに訊ねた。
「まあ、そうなんだろう。私は別にそういう方面に詳しいわけじゃあないから何とも言えないが」
ジュンに問われて、返事をするアヤ。
それを聞いてジュンは「まあ、そうか」と呟きながら、アヤの方に手を伸ばし、剣を受け取ろうとする。
だが、アヤはその剣を渡さず、
「今のお前がこれを使ってもまともには振るえないだろう」
と告げる。
「ってもよ、それないとあの感覚に耐える練習はできないぜ?」
ジュンがそう反論すると、アヤは首を横に振って、
「そうだが。お前はそれ以前に体力つけるのと、筋肉痛を治すのをしないとならないだろう?」
と指摘し、それから少し間を空けて、
「まあ、体調が万全になったら私がこの剣の使い方を教えてやるさ。だから今日のところは大人しくしておけ」
と諭すように言う。
それを聞いて、ジュンはとりあえず今は師匠の言うことを聞いて無理をするのはやめ、具合が良くなったら師匠に色々と教わろうと決めたのであった。
さて、それから数日して。
体力もつき、筋肉痛も完治したジュンは、約束通りアヤから剣を使えるようにするために稽古をつけてもらう事になるのだが――
☆ ☆ ☆
師匠から与えられた稽古ってのは二つ。
一つは能力であたしが創ったのではなく、普通の剣を使って一から剣術の基礎を見直すってもので。
もう一つは能力で創った剣を帯刀した状態で日常生活を送るってものだったわけだが。
どっちの稽古も予想以上に厳しいものだったな。
閉鎖されたホテルの地下駐車場で、ジュンはそう思い出しながら剣を生成し、それを握る。
するとジュンの五感が研ぎ澄まされ、身体能力も一気に向上する。
ジュンはこの状態をコントロールするために、先に彼女が思い出していた稽古を三ヶ月程度毎日行っていたのであった。
実のところアヤの予測では、突如身体のあらゆる能力が急上昇するという現象に耐え、更にそういった身体状態で剣を振るうためには、二つの稽古を一年は続けないとならないと考えていたのだが。
ジュンはアヤの予想を遙かに上回る速度で、超感覚と超身体能力に対応する術を身につけていったのであった。
それだけの速度で能力に対応できるようになった理由は、ジュンが能力に目覚める前から武術の稽古を積んでいた為か、それとも彼女に武術の才能があった為か、身体能力の向上はあくまでジュン自身の能力であった為なのかはわからない。
ただ、仮にジュンに「どうして、そんなに早くその力を使いこなせるようになったのか?」と訊ねたら彼女はこう答えるだろう。
それは、怪物から人々を護っている姉ちゃんみたいな存在になりたかったからだ、と。
そう。
ジュンにとってあの騎士、つまり彼女の姉は人知れず怪物を倒し、人々を護っている尊敬すべき対象になっていたのである。
勿論、それはジュンの勝手な思い込みであり、ジュンの姉、つまりカイは単に与えられた仕事だから怪物を倒しているというのが真実なのだが。
この段階では、ジュンにとって姉は〈不審な組織に創られたため、仕方なくそこに属してはいるものの、それでも人々のために戦っているヒーロー〉なのである。
そして、どうやら先ほどまでこの駐車場でそのヒーローである姉が、怪物達と戦っていたらしい。
彼女はそう判断し、ならば怪物はもういないだろうと予測した。
ジュンは今まで何度か、おそらくは姉が怪物と戦ったような痕跡の残る現場に足を踏み入れた事があるのだが、毎回怪物は一体も残らず倒されていたので今回もそうだと思ったのだ。
ちなみに、最初に姉と遭遇したとき、姉は一体怪物を見逃していた件に関してジュンは、姉の方も突然双子の妹である自分と出会ったことで動揺していたためなのだろうと推測していた。
この推測に関しては実際正しく、カイはあの場で自分に顔つきがそっくりなジュンに出会い、更に何かを感じ取った事で集中力を欠き、結果一体怪物がまだ残っていることに気がつかなかったのだが。
まあ、それはともかく。
そんな感じで、姉の事を仕事は確実にこなすと信頼しているジュンであった。
だが、だからといって一応の確認はしないわけにはいかない。
ジュンは剣を構え、精神を集中させ、怪物が残っていないか気配を探る。
すると――。
いる。
物影に一体ずつ……合計二体か。
しかし、弱っているな。
ジュンは怪物の気配を察知するなり、そう判断した。
そして。
怪物が潜んでいる物影のうち、一カ所に向かって瓦礫を蹴飛ばし、相手を威嚇する。
結果、威嚇された怪物は自身が潜んでいることがばれたことで、逃げ場がないと思ったのか、ジュンに向かって飛びかかってきた。
それとほぼ同時に、もう一方に潜んでいた怪物も姿を現し、ジュンに襲いかかる。
ジュンはそれら二体のうち、自分が威嚇した方だけを見ながら剣を振るい。
端から見ればほぼ同時と思えるほどの速度で、両者共を横一文字に斬り裂いた。
斬られた怪物は、黒白の炎を上げて燃え上がり、灰と化す。
「ふう……」
一呼吸して、肩の力を抜き、自身の生み出した剣を消滅させたジュンは、降り積もる灰を見ながら考える。
自分の姉は何で、今日に限って怪物を打ち損ねていたのかと。
しかも、弱っていたところから考えると、怪物を見逃していたのではなく、倒さずに去っていったようだが、果たして姉は何でそんな事をしたのかと。
実際、この問いの答えはカイが仕事に対して手を抜いたからなのだが。
カイの事をヒーローだと思っているジュンの頭に、そういった類の答えが浮かぶわけもなかったのであった。
そして結局、ジュンは何かのトラブルに自分の姉が巻き込まれたのではないかと推測し、念のためにと今回の廃ホテルの怪物騒動について詳しい調査を始めてしまった。
それが予定より帰宅時間を遅らせる事に繋がってしまうのだが。
その遅れがジュンの運命に大きく影響を与えるとは、この時の彼女は当然思っていなかったのであった。
さて、姉であるカイが怪物を倒し損ねたことで。
結果的にその現場を調査することにしたジュン。
一方その頃カイは……次回に続く。




