04
ホテル跡地についたジュンは。
その様子から、とある過去の事について思い出す。
さて、その過去に一体何があったのか……。
04
ホテルに着いたジュンは早速、怪物が一番いる可能性の高い地下駐車場に入り込んだ。
そこで彼女が目にしたものは多数の瓦礫や壁や床に穿たれた穴。そして床中に散らばっている大量の灰であった。
どうやらここでかなりの数の怪物が何者かに倒されたらしい。しかもつい最近に。
今までの経験から、倒された怪物はおおよそ六体、倒されてから経過した時間は約二十分と判断したジュンは、おそらくここに来たという数人の集団が怪物を倒したのだろうと推測した。
「数人か……」
果たしてその程度の人数で怪物を六体も倒すことは可能なのだろうか?
疑問に思ったジュンは一体ここでどのような戦闘が行われていたのかということを知るために現場を詳しく観察することにした。
すると。
「ん? これは」
まず最初に気がついたこと。それは怪物を六体相手にしたにしては周囲に残っている弾痕の数が少なく、しかもそれらは同じ辺りに集中しているということだった。
灰に埋もれている弾痕もあるのだと考えても、その数と場所の偏りはやはり不自然である。
「つまり、銃を使っての戦闘はほとんど行われなかったということか?」
普通の人間が安全かつ確実に怪物を始末しようとするのなら、銃による遠距離攻撃が最も効果的なはず。それなのに何故、彼らは銃をこれしか使わなかったのか?
疑問に思ったジュンは今度は床に散らばった灰を足でどかして、床を調べる。
するとそこには。
コンクリートの床にも関わらず、刃物によってつけられたと思われる無数の切り傷が存在していた。
それを見てジュンは理解した。
コンクリートにこんな傷を残せるところ、そしてこの傷の形状。
こんな傷を残せる刃物を自分は二つしか知らない。
そして、そのうち一つはあたしと共にある。
つまり、ここに来たという集団の中に、もう一つの方を所有する者がいたのだ。
そう、あの黒白の騎士が。
確かに黒白の騎士なら、一人であっても怪物六体程度、手にした剣で易々と打ち倒すだろう。
彼らがほとんど銃を使わなかったのも黒白の騎士が他の人間が銃を使う暇もなく、怪物を始末したからに違いないと。
そしてそう気がついた時、ジュンは思わず呟いていた。
「なるほど、姉ちゃん……か」
と。
☆ ☆ ☆
三年ほど前のある日。
ジュンはこの日も街の治安の悪い一角を歩いていた。
それは怪物を探し出し、退治するため――ではない。
そもそもジュンはこの時、まだ怪物の存在をネット上で広まっている噂話としてしか知らず、実在するかは怪しいと考えていたのだ。
なので当然、怪物討伐なんて考えるはずもない。
にも関わらずジュンが何故治安の悪い地域に足を運んでいたかといえば。
それは迷子を捜すためであった。
この時より一時間ほど前、道場生から弟がいなくなってしまったと連絡があった。
情報を受けたジュンは道場生と弟がはぐれた場所に向かって、そこで聞き込みを行った。
そしてその結果、どうやらその弟はこの治安の悪い路地に迷い込んだ可能性あると睨んだので、そこに乗り込んだのだった。
壁に珍奇なデザインのステッカーや、何の宣伝なのか分からない、知りたいとも思わないような張り紙が張られた店舗の並び、今はもう販売されていない飲み物の錆びた空き缶などがポイ捨てされている路地を一人進むジュン。
すると彼女の目の前に。
「ん? あなたはいったい誰です?」
と声をかけてくる者が現れた。
それは一見するとこの場に不釣り合いな容姿をした真面目そうな少女であった。
この少女は三年後、ジュンに怪物討伐に向かった怪しい集団の情報を与えたあの少女である。
彼女は三年前、既にこの辺りの縄張りを仕切っていたのだ。
「あたしか? あたしはオオイシ・ジュンだ」
真面目そうな少女に声をかけられたジュンはとりあえず相手に対して名乗る。
そして、即、警戒する。
もしも、普通の人が彼女に声をかけられた場合、その大人しそうな容姿から油断をするか、あるいは彼女はこんな場所にいて大丈夫だろうか? などと心配するかするのだろうが。
ジュンがとった行動は彼女に対して構えるといったものだったのだ。
「あれ? 何でそんなに警戒するんですか?」
すっとぼけた感じでジュンに訊ねる少女。
問われてジュンは彼女の背後の物陰を指さし、
「そこに物騒なものを持ったヤツが二人ほど隠れているからだ」
と返す。
「あれ? 気がつかれちゃいましたか」
「大方、大人しそうなあんたで油断させておいて、そこの二人が襲いかかるんだろうが、ちゃんと気配を殺しておかねえとバレバレだぜ――おい、そこの二人。出てこいよ」
ジュンがそう言うと、物陰から明らかに不良と分かる容姿の男が二人現れた。その手にはそれぞれ武器として使うために加工された鉄パイプと金属バットを持っている。
ジュンは彼らはそれらの武器の他にナイフの類も所持していると推測していた。それも簡単な細工をして、すぐに刃が出せるようにしたものだ。
さて、どうするか。ジュンが考えていると、
「まあ、ばれたところで大した問題じゃあないですけどね」
と少女が呟くように言った。
「ん?」
「だって、あなたこの二人を相手にして勝てるんですか?」
「あ? 勝てるよ。勿論、三人の内で一番強いあんたにもな」
訊ねられてジュンは迷わず、さも当然といった様子でそう告げる。
「流石。そこまでお見通しですか」
少女は後ろにいる二人の不良より自分の方が強いことを見抜かれても大して驚かず、先ほどまでと変わらない口調でジュンに対応する。
「あんたが囮――と、見せかけて実は怖そうな後ろの二人の方が囮って策だろう? あんた大人しそうに見えて相当喧嘩慣れしているみてえだしな」
ジュンはそれぐらい当然気がついているぜということを口調と態度で示す。
ちなみに、二人の不良が気配を隠していなかったのは彼らが囮だったからである。
この辺りはジュンも彼らの存在に気がついた時点で当然分かってはいたのだが、先ほどはスムーズに二人を自分の前に登場させるためにあえてあのような言い方をしたのだ。
一方、少女の方もジュンがただ者ではないこと、そしておそらく自分より強いということにはとっくに気がついていた。それは彼女の後ろに立つ不良二人も同様である。
にも関わらず、自分たちに勝てるのかとジュンに訊ねたのは、その対応を見ることでジュンが自分たちにとって危険な存在かどうか把握するためだったのだ。
「そんなことまでわかるんですか。でもよく見ただけで分かりますね」
「伊達に海外で喧嘩ばかりしていた訳じゃあねえぜ」
まあ、その海外で喧嘩ばかりしていた時期は今じゃいわゆる黒歴史なんだが。と、ジュンは思ったが、そんなことを言う必要性はないと考えたので口には出さないでおくことにした。
「へえ、海外……この辺りじゃあ見ない顔だと思ってましたけど、もしかして」
「おう、ちょっと前までアメリカの方で暮らしていたからな。この街に来てまだ三ヶ月ぐらいだ」
「アメリカですか」
「その他にも色々なところに行っているぜ」
「例えばどんなところに行ったんですか?」
少女のこの質問は先ほどまでのジュンを試すためのものとは違い、単なる興味、好奇心からのものである。
彼女は既にジュンは自分たち以上の実力を持っているが、敵ではないとして認識したのだ。
「そうだな……まずガキの頃にタイとかマレーシアとかフィリピンとか……あと、インドとか中国にも行っているし、ヨーロッパだとイタリア辺りに結構長くいたな」
ジュンの方も少女を、喧嘩慣れした不良ではあるが悪人ではないと判断したため、単なる世間話としてその質問に受け答える。
「へえ。本当にあちこち行っているんですね。詳しい話を聞きたいなあ」
「ああ、あたしも色々話したいところだ……が、今はそんな話ししている場合じゃあねえんだ」
「? 何か急ぎの用でもあるんですか?」
「ああ、迷子捜しだ。この辺りに迷いこんだっぽいんだが」
ジュンは情報収集をする目的も込めて少女に事情を打ち明ける。
「なるほど。それは急いだ方がいいですね。この辺、ガラの悪い連中も多いですし」
そのガラの悪い連中というのに自分たちを含めているのか、それともそうではないのか。曖昧な感じで少女は言い、そして声のトーンを落として、
「それに。なんか最近、出るらしいんですよ」
と続けた。
「出る?」
「ほら、ネットとかで噂になっている怪物」
「あん? あんなのただの都市伝説だろう? お前、あんなの信じているのか?」
ジュンは都市伝説について少女が声を潜めてさも重要なことのように話したので、あんな子ども向けのフィクションみたいな話を彼女は信じているのかと意外に感じ、思わず訊ねる。
訊ねられて少女は「まあ、そうなんだと思いますけど」と前置きしてから、
「でも、火のないところに煙は立たずっていいますから」
と返す。
それを聞いてジュンも彼女の言いたいことを理解した。
「つまり、何かヤバイことがあるってことには変わりがないってことか」
「ええ」
頷いた少女は、そこであることを思い出し、
「あ、そういえば」
と呟く。
「ん?」
「あの噂、ネットだけじゃなくこの街の子ども達にも広まっているらしいんですよ」
「そうなのか……ってことは」
「もしかしたらその迷子っていうのも、噂に興味を持って見に行ったんじゃないですかね?」
「確かに、あり得るな」
ジュンは迷子が何故、こんな子どもからすれば危ないだけで何の面白いこともない所に入り込んだのか気になっていたが、噂になっている怪物を確かめるために、怪物が目撃された現場に向かったのだとすれば説明がつく。
ここでジュンが、子どもは怪物の噂を恐れて現場に近づかないだろうとは考えず、怪物に興味を持って見に行くだろうと考えたのは、ジュンもかつて幼い頃に海外でお化けの噂を聞いて好奇心を持ち、確かめるために治安の悪い地域に入り込んだ経験があったためである。
「で、その怪物ってのはどこに出るんだ?」
ジュンはとりあえずはその現場に向かってみることにして、少女に尋ねる。
すると少女は、
「ええと、ここの先にある廃屋……子ども達が幽霊屋敷って噂している建物ですね」
と指をさしながらジュンに場所を教えた。
「そうか。じゃあ、ちょっとその屋敷の方の様子を見てくるぜ」
「ええ、気をつけてくださいね」
声をかける少女を背にして、ジュンはその屋敷の方へと駆け出す。
(続く)
こうして屋敷に向かったジュンですが。
その屋敷で、一体何を見て、何と出会ったのか。
それについては次回に。




