02
黒白の騎士の都市伝説で登場する怪物。
それと戦うのは騎士……だけではないようで。
02
この街の治安と平和を護る。
そんなことは私にとってはどうでもいいことだ。
私はこんなことがしたくて生まれてきた訳じゃあない。
何で私はこのような使命を与えられてしまったのか。
いつものように、そんなことを考えながら。
カイは部下を引き連れ、指示された場所へ向かっていた。
彼女はラトムスという、夜宵市の裏社会を牛耳る組織によって造られた人造人間の戦士である。
生まれたときに彼女に与えられた使命は二つ。
一つはラトムスに属する改造人間の戦士達を束ねる王となること。
そしてもう一つの使命は――
夜宵市に出現する怪物、キニス……通称〈灰〉を討伐すること――か。
全く、くだらない仕事だ。
大体、〈灰〉はこの街の地下に存在する特殊なエネルギーが原因で発生しているらしいが。
そのエネルギーに刺激を与えて、〈灰〉の発生を増加させているのは、現在エネルギーを独占利用しているラトムス自身だというじゃあないか。
確かに、組織は独自の技術によって〈灰〉共をまだ成熟しきっていないうちに発見し、討伐しているので世間一般に被害はほとんど出していないようだが……それでも、自分たちで怪物を生み出すようなことをしておきながら、それを倒すことを「街の治安と平和を護る」と表現しているとは。組織は勝手な連中だ。
まあ、道具として利用するために私を生み出したような奴らだ。勝手は今に始まったことじゃあないか。
と、そんなことを考えながらも足を進めていたカイは、予定通りに目的地にたどり着く。
そこは閉店し、閉鎖され、何年も放置されているホテルの地下駐車場。
人の気配はおろか、鼠一匹の気配さえない。
だが――
いる。
そして――
くる。
長年の戦いの経験から、自分に向かってまず一体、キニスが音もなく急接近していることを感じ取たカイは、剣を持っているかのような構えをとり。
タイミングを見計らって、動く。
すると、次の瞬間。
そこには、黒白の剣を手にしたカイと、傷を負った怪物の姿があった。
「やはりいたか、〈灰〉め」
カイの引き連れてきた部下の一人がそう言って、傷を受けてうめく怪物に向かって銃を向け、発砲。他の部下もそれに合わせて攻撃を開始する。
攻撃を受けたキニスは断末魔を上げ、黒白の炎の塊となり、最後には通称通りの灰と化した。
「隊長、次はどういたしましょうか?」
キニスが完全に倒されたことを確認してから、部下のうちカイの部隊に本日配属になった者が問う。
「余計なことをするな。お前達は手を出さなくていい。自分の身でも守っていろ」
問われてカイは、部下に向かってそう指示を出す。
「はい?」
カイの命令を聞いて、訊ねた戦士は思わず声を上げた。
カイの部隊では新人とはいえ、彼もまた今まで別の部隊でキニスを相手に何度も戦ってきた戦士である。先ほど倒した一体の他にまだ複数のキニスがこの地下駐車場に存在していることぐらいは感覚で察知できる。
だというのに、次の命令が「手を出すな」とはどういうことなのか?
疑問に思う、新人の戦士。
一方、前からカイの部隊に属している戦士達は「またか」といった表情を浮かべる。
「まあ、見ていろ」
そう言って、剣を構えたカイは。
いつの間にか、剣と同じ色、同じ質感の黒白の鎧を身に纏っていた。
そんなカイの前に現れる複数のキニス。
その数、ざっと七体。
「ふん。それなりの数だな」
カイはそう呟くとともに一番近くのキニスに向かって駆け出した。
鎧を纏っている以上、常識的に考えれば纏う前より速度は遅くなるはずなのだが、どういう訳か彼女の動きは鎧を纏った後の方がより素早いものになっている。
「まず、一体――」
超高速でキニスの前に移動したカイは、目の前の敵をを剣で斬る。
斬る斬る。
斬る斬る斬る。
容赦なく斬る。
滅多斬りにする。
その太刀筋は剣術といえるものでは全くない。ただ力任せに相手を打ちのめそうとしている、そんな感じのものである。
いや、事実。カイはそのように剣を振るっていたのである。
敵を仕留めるためではなく。
単に自身に与えられた使命や任務からくるストレスを発散するために暴力を振るっているのである。
本来なら一撃で倒せるはずのキニスを何度も斬りつけているのも、勿論。そのためである。
「まあ、こいつはこの程度でいいか」
一体目のキニスを攻撃する手を止めたカイの元に、二体のキニスが同時に迫る。
カイはその二体のうち一体を蹴り飛ばし、もう一体を剣で一刀両断にする。
そして蹴り飛ばした方に駆け寄り、倒れている相手を今度はひたすら刺す。
刺す刺す。
刺す刺す刺す。
躊躇なく刺す。
滅多刺しにする。
無論、この攻撃にも術や技と呼べるようなものは皆無である。ただ感情に任せて溜まっているものをぶつけている、そんな感じのものである。
――と。
今度はキニスを滅多刺しにしているカイに向かって、更に別のキニスが同時に三体、攻撃を仕掛ける。
これに対してカイはキニスに突き刺した剣を引き抜かず、そのままにして手を離す。
そして三体のうち二体に拳を打ち込み、残りの一体には回し蹴りをたたき込んだ。
拳を打ち込まれた二体は、体を貫かれて倒れ、燃え上がる。
そして回し蹴りを受けた一体は吹っ飛び、駐車場の壁に激突。瓦礫の中に埋まった。
三体のキニスを蹴散らしたカイは再び、剣でひたすら刺していたキニスへの攻撃を再開しようと剣の柄に手をかける。
が、そこにまたキニスが現れる。この場にいる最後のキニスである。
「邪魔だ」
そう呟くが早いか、カイは剣を引き抜き、最後のキニスを叩き斬る。
斬られたキニスは攻撃による衝撃で倒れ、そのまま動かなくなった。
カイは敵が倒れたことを確認したりせずに、先に中断したキニスへの滅多刺し攻撃を再び開始しようと試みた。
だが、その刺されていたキニスの肉体には既に限界が来ていた。
そのため、そのキニスは剣を突き降ろそうとするカイの前で発火し、灰と化していく。
「ふん……今日はここまでだな。おい」
カイは先に指示されたように何もせずにただ、自身の身を守ることのみに集中していた部下達に呼びかける。
「はい」
「撤収だ」
「え?」
カイの下した命令を聞いて新人戦士は再び驚いた。
確かにカイは五体のキニスは始末している。
だが、瓦礫に埋まった一体は倒したかどうか不明であり、更に傷を受けて倒れている一体はまだ肉体が形をとどめている状態である。
本来、キニスの討伐はその肉体が灰と化したのを確認しなければならないため、このまま撤収などありえない。
だというのに何故カイは撤収という指示を出したのか。
「こいつにとどめを刺さないのですか? あと、まだ始末したか確認していない奴も……」
疑問に思った新人戦士はカイにそう訊ねた。
「何、その二体はどのみち助かるまい――ということで、撤収だ」
部下の質問に答えながら、駐車場の出口の方へ向かっていくカイ。
以前からカイの部隊に所属していた戦士達もカイの行動に特に疑問も持たず従って撤退を開始する。
「本当に撤退して大丈夫なんだろうか……」
現場を見ながらぼそりと呟く新人戦士。
そんな彼の様子に気がついた先輩戦士の一人が、新人戦士に近づき、
「何、心配するな。隊長がキニスを仕留め損なったことなんて今までに一度もないんだからな」
と小声で話しかける。
「そうなんですか?」
不安そうな顔をして先輩に尋ねる新人戦士。彼に対して先輩は自信ありげな表情を浮かべて、
「ああ。大体、仕留め損なっていたら、隊長だって組織のお偉いさんから罰を受けるんだ。いくら仕事に対していい加減なところのある隊長だって、そんなことになるようなヘマをするわけないだろう?」
と答えた。
「まあ、確かに……」
新人戦士は先輩にそう言われてもいまいち納得がいかなかった。
だが結局、手負いのものとはいえキニスを相手にするのは、自分一人では危険と判断したため、彼らの行動にあわせてこの場を離れることにしたのだった。
さて。
この新人戦士と先輩の会話。
カイに聞こえていなかったわけではない。
いくら二人が小声で話していたといっても、戦闘用人造人間であるカイの聴覚は常人のそれより遙かに優れているのだ。側で会話をされて、それが聞こえないなどということはあり得ないのだ。
勿論、長い間カイの部隊に所属している先輩戦士がカイの聴覚のことを知らないわけもないのだが、彼は同時にカイが部下に大した興味を持っていないことも知っているので、彼女に聞こえていても構うまいと思って後輩に話しかけていたのだった。
だが。
この時カイが二人の会話に対して何も言わなかったのは単に部下に興味がないからというだけではなかった。
この日のカイは部下はおろか、組織自体にもさほど興味がなかったのである。
実のところ、カイは今回、キニスのうち二体を確実に仕留めたとは思っていなかった。
普段ならそのような状況での撤収など、いくら戦うことにストレス発散以上の意味を見いだしていないカイでも部下の戦士が言っていたように組織上層部から罰を与えられるため、指示しないことである。
が、カイはこの時、既に知っていたのだ。
組織上層部が彼女に罰を与えることなどできないということを。
何故なら。
組織ラトムスは後数時間の内に壊滅することになっているからである。
さて、果たしてこの物語冒頭の冬のシーンで戦っていた騎士は。
このカイなのか……それもまた後程。




