透明な装い
ぺしゃぺしゃぐしゃ
舌で胃の中に詰め込む音
見えてはいない視界
先日、お湯を掛けられてから、前は見えなくなった
数日焼け付くような痛みに苦しんで
朝起きたら其処は闇だった
ふらふらする身体
張り付いた黄色い毛
揃いの金の眼はへばり付いた瞼の下
匂いだけが頼りで
久方ぶりのご馳走を見つけたのは自分の縄張りの中
冷たいボウルの中に焼いたさんまが無造作に入れられていた
ご丁寧にその傍には冷たい水の入った容器も置かれている
「可愛そうに、この猫、きっと父さんがお湯を掛けた猫よ」
はっきりとした口調で、少し声を濁らせた少女の声が聞こえた
カサカサとした衣擦れの音
少し遅れて、毛を触られる感触
鳥肌が立ったが、じっと食事に集中する
耳だけを立てて
「姉ちゃん、こんなところ父さんに見られたら」
少し甘えたような声 声変わりはしていない掠れた少年の声
「でも、この子をこんなにしたのは父さんよ、」
少女の濁ったような声が更に酷くなった
「私、見ていたもの」
「、でも、止めなかったのは姉さんだろ」
「同罪じゃないか、それなのに、こんなことして偽善だよ」
「野良猫に期待させるような真似、無視するよりもよっぽど酷いよ」
「…」
話の内容はあまりよく解らなかった
其れよりも、お腹が満たされて幸せな気持ちになる
残ってしまったさんまのお腹から下を尻尾を口で咥えて運ぶことにして
カランと水の入った容器が毀れた
後ろには水仙の花が数多く植えられていて
さんまのいい匂いと水仙の嫌な匂いが混じって頭がくらくらした
丁度このあたりで、お湯を掛けられた
水仙の匂い
熱いお湯
思い出した途端
鳥肌に我慢が出来なくなり思うさまその嫌な場から駆け出した
キーッと、何かを引きずるような音がして
身体が宙に抛りだされた