第49話 才女、戦術士と会う
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フィーラス殿下と一緒に私の元へやって来たのは、一人の男だった。
「初めまして、貿易都市ノアークの領主、ヴェナー家が長子、マルス・ヴェナーだ。
聖女様に勇者殿、そして、共にこの世界へと召喚されたお二人も、気軽にマルスと呼んでくれ」
「初めまして。改めて名乗る必要もないかも知れないけども、聖女なんて呼ばれている相澤才華よ。
聖女って呼ばれるのは好きじゃないの。普通に才華って呼んで頂戴」
「ああ、分かったよサイカ」
あら、呼び捨てね。
でも、殿下より歳が近いみたいだし、殿下や来斗たちが遠慮しすぎなんだと思うのよね。
私、彼らより年下なのよ?
まぁ、呼び捨てにしてふんぞり返ってる自覚は無きにしもあらずだけども、もう少し年下っぽく扱ってくれてもいいんじゃないかしら?
そんなことを考えている私を他所に、マルスは他の面子とも個々に挨拶を交わす。
恵子ちゃんや鎮ともしっかり挨拶をしてくれる所には好感が持てる。
ルカから聞いた話じゃ、貴族の中には恵子ちゃんや鎮を軽視する阿呆もいるって話だし、きっとこういう真面目さが殿下の信頼に繋がっているのでしょうね。
「それで殿下。どうしていきなりマルスを私たちに?」
「流石に気になりますか。
実は久々にマルスと話していて突然思い立ったのですが、マルスを使者団の一員として同行させようかと思いまして」
「本当に突然ですね」
殿下曰く、マルスと殿下は幼馴染らしく、殿下が親書を渡したりとかしている間の私たちのフォローを任せたいのだとか。
確かに、気の利く殿下の幼馴染で、真面目な彼なら安心してお願いができる。
勿論、理由はそれだけじゃない。
彼はカルディア王国でも指折りの戦術士なんだそう。
「戦術士?」
確かに戦術士に関してはミナカタ先生の授業ではまだ扱っていない。
恵子ちゃんが知らないのは当然だ。
それは、鎮や来斗も一緒で首を傾げている。
でも、騎士団で訓練してるなら騎士団の人たちも教えておきなさいよって話よね。まぁ、いいんだけど。
戦術士については殿下が説明してくれるのかと思ったけど、「知ってるでしょ?」とでも言いたげにこっちを見ているから、一つため息をついた後、私は仕方なしに戦術士について説明をする。
「戦術士は言い方自体は聞かないかも知れないけど、簡単に言ってしまえば軍師のことよ。
似たような物なら私たちの世界にも戦術航空士と言う物があったわね」
戦術士の仕事は幾つかの戦況を予測すること。
チェスや囲碁、将棋と言ったボードゲームも先読みして駒を動かしたり、石を打つ。
相手の動きに合わせて他の攻め方をしたりとね。
問題は、戦況とはボードゲームのように中々視覚化出来ないということ。
これを的確に認識し、不測の事態が起きても瞬時に行動を変えられるよう、幾つかの作戦プランを用意するのが戦術士というわけね。
「彼の推測は結構当たるんですよ。
だから、訪問中に不測の事態が起きても対処出来るかと思いまして。
皆さんを危険な目に合わせる訳にはいきませんから」
「まぁ、皆ほどではないが、多少は魔法も扱える。
現場に居合わせられる分、その場で新しいプランも用意できるから、選択肢も増える」
確かにそれが本当なら魅力的な話ではある。
でも、こっちの了承を得るということは、何か理由があるのかしら?
そう迷っていると横槍が入った。
「連れて行ってもいいじゃないか?」
アビスだった。
隣にはエルもいる。
二人とも私をほっぽり出して今の今まで何処にいたのかしら?
「何処行ってたの?」
「ん? ああ、王国の医療課は各領に支部を設けていてな。
ついでだから支部長に挨拶がてら、仕事状況の確認をしてきたんだ。
エルさんの方は教会に挨拶していたらしい」
「ご、ごめんなさいサイカ様。
一言言ってから行ければ良かったんですけど……」
「別に構わないわよ。必要なことだものね」
少し不安そうだったエルの顔が途端に笑顔に変わる。
本当に起伏の激しい子ね。
ルカの指導で多少マシにはなったけども、まだまだ鈍くささは残ってそうだ。
「それは、そうと。貴方が連れていけば?って好意的に言うのも意外ね」
「いや、これから海を渡るし、魔族がこっちの動きに警戒していたりなんかすれば、戦術士なしには厳しいものがあると思ってな。
なら、一緒に来てくれるって言ってるんだから来てもらった方がいいだろう?」
なるほど、確かにあんまり考えてなかったけど、場合によっては魔族と接触する可能性も十分にあるのよね?
その時に戦術士がいるのといないのとでは、状況が全然違うでしょうね。
それに、海の上では不利に事が進んでしまいかねない。
一度流れが傾けば、それを元に戻すのは中々難しい。
何せ地に足が付いている訳じゃないんだから。
「そうね。私も付いて来てもらって良いんじゃないかと思うわ」
「なら、決まりですね」
殿下がそういうが、返事をしたのは私だけなんだけど?って言おうかと思ったら、三人共うんうんと首を縦に振っている。
流石に人任せすぎない?
「サイカが良いと言ったのに、何か不服そうだ。
やっぱりやめとくか?」
「問題ないわよ。単に私に任せっきりじゃないかと思っただけだから」
そう言ってマルスから三人へと視線をずらす。
恵子ちゃんと来斗はそっぽを向き、鎮は苦笑いを浮かべている。
これじゃあ、今後も私に決定権が与えられそうね。
あまり、責任重大な役割は担いたくないのだけど、上二人がやりたくないとか言ってほっぽり出すと、下に恵子ちゃんしかいない私はほっぽり出せないのよね。
なんてズルい。
「それはそうと、サイカはともかく、クルト、マモル、ケイコの三人は戦術士をあまり知らないのだろう?
だったら一つ滞在中に手伝ってくれないか?」
「手伝う?」
「あまりここで詳しい話をするわけにはいかないが、領主家らしく不正検挙ってやつさ。
いつもは父上お抱えの揉め事処理班が対処するんだが、今回の相手は結構面倒な相手らしいとかで、戦術士として検挙に参加して欲しいと言われている」
入り口であった通行証絡みということだろうか?
殿下は定期的に監査を行っているから問題ないと言っていた。
検挙までしっかりと行っているのであれば、確かに問題ないというのにも頷ける。
でも、問題は処理方法よね。
私は少し興味がある。
それに、カルディア王国指折りの戦術士の戦略を間近で見られるのは、非常にいい経験になるはず。
これは、断る理由がない。
「数日中に終わるのかしら?
あまりかかり過ぎると、書状渡しを優先しないといけないから付き合いきれないけども……」
「何事もなければ明日中に、何かあっても四日ほどで片付く目算だ」
「ならお願いするわ。私も文献で戦術士のことを知っているだけで、実際にどんな感じのことをしているのかは見たことないもの」
というわけで、滞在中は暇になるだろうと思っていた数日は、マルスと共に調査をするということで埋まった。
監査で移動する傍らで名所を教えてもらいつつ、幾つかピックアップして最終日に案内して貰おうかしら?
マルスならそのくらい頼めばしてくれそうだしね。
その後、ヴェナー卿の仲介でノアークの貴族たちと挨拶を交わした。
親の七光を使えば恵子ちゃんに近付けるとでも思ったのか、何人か当主である親に同伴するものもいたけど、私はそう易々と近付けさせる気はない。
表には私と殿下とヴェナー卿。側にはルカとアビス。少し後ろに離れたところに恵子ちゃんと囲むようにエル、鎮、来斗が待機している。
結局、誰一人として一言も声をかけることが出来ず、私の評判が一部で落ちたのは言うまでもない。
一方、私は私で堂々とし過ぎたのか、貴族たちの受けが良かった。
何人かは私に息子を押し付けようとしてきたから、きっぱりと断る。
後ろ盾なしでは難しい振る舞いではあるけども、はっきりとさせておかないと変に期待されて押し付けられかねない。
残念そうにしているのは、私がきっぱりと拒絶したからか、恵子ちゃんに近付けなかったからかは分からないけども、一人前の当主を目指すなら顔に出さない方がいいんじゃないかしら?
そんなこんなで、歓迎会は特に問題なく終わった。
皆さん、こんにちは。初仁です。
先週に引き続きの一日延期すみませんでした。
来週は月曜日におやすみ貰えたので、何事もなければ問題なく16時に投稿できるかと思います。
更新進んでいませんが、「才女の異世界開拓記(カクヨム版)」もちまちま更新しています。
カクヨムコンも来月から始まりますので、お時間ある方は是非、遊びに来てください。
そこそこ、加筆修正を加えています。
それと、毎日更新止まってますが、新作の「近代魔術のレッツェルシーカー」も更新しています。
こちらもカクヨムコンに出す作品です。合わせて応援よろしくお願いします。
では、また次回。




