第42話 ポンコツ聖職者の転機
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カルディア王国の教会に併設された宿舎で私は目を覚ましました。
その先には大きな森が広がっていて、窓を開ければ緑の香りが流れ込んできます。
起きて支度をしないと!と思って起き上がった瞬間――
「痛いっ!?」
バランスを崩してベッドから落下してしまいました。
幸い背中からだったため特に怪我はないですが、痣にならない程度とは言え打ち身は打ち身、自己回復が勝手に発動して起き上がった時には痛みは引いていました。
ーー治癒魔法
神聖魔法の中でも限られた者にしか扱えない特別な魔法。
魔力の消費が馬鹿にならない魔法ですが、魔力さえあれば殆どの症状を軽減、あるいは完全治癒することが出来ます。
例えば、外傷は大抵治ります。
あくまで練度によるところはありますが、アル司祭くらいの練度になると、風穴を開けられても一瞬で治せるくらいになります。
ですから、その有用性は国外でも注目されています。
神から力添えを受けて発動する神聖魔法ーー流石、神の御業と言ったところでしょうか?
まぁ、とはいえ、治癒魔法師の体に神格を降ろす訳ではありませんから、魔物に喰われて片腕を失った――みたいな欠損は流石に治せません。代償があれば出来ないこともないらしいですが……
欠損に関しては更に面倒なことに、完全再生を除き治癒魔法を不用意に掛けてはいけなかったりします。
というのも、治しても塞がるだけで再生する訳ではありませんから、変に治してしまうと、後になって腐ったり――なんて事態になるそうです。
なので、傷口を塞がない程度に応急処置を施して、後は医療課に緊急手術を施して貰ってから治癒魔法で治療するというのが一般的なのです――滅多にあることではありませんが……
私、エル・グラビは自分で言うのもなんですが治癒魔法の使い手で、治癒魔法師歴四年になります!
基本的に移動がない職種なので、ずっとカルディアにいて、アル司祭の計らいから、今いる宿舎の一階で診療所を開いていたり……
王宮から医療課の方も派遣されているので、大抵の治療をここで行えるようになっていて、街の人たちが連日訪れます。
今日も支度が済んだ後、下の診療所の準備を始めました。
医療課の方もやって来てそろそろ開けようか――というところで珍しくアル司祭がやって来ました。
「おはようございます。エル」
「おはようございます! 何かありましたか?」
「一つ頼まれごとをしてはくれませんか?」
アル司祭が頼み事とは、これまた珍しい。
自分で言うのも何ですが、私は所謂ポンコツというやつで……
治癒魔法はアル司祭に引けを取らないどころか魔力保有量で勝っている分、私の方が優秀なわけですが、他のことになるとてんで駄目で、自己回復が発動するのは毎朝の日課どころか、一日に両手両足では足りないほどに発動します。
無意識の内に治癒魔法が発動して自己回復なんて普通ではありえないのですが、私は昔から鈍くさかったので神様が不憫に思ったのかも知れません。
流石、神様です。
とは言え、神様も私のポンコツぶりを治せるはずもなく、頼み事の内容によっては断らないと逆に迷惑を掛けてしまいかねません。
内容を聞いて決めようと思い聞いてみるとーー
「聖女様に私が治癒魔法についてお教えすることになったので、教会に近々来て頂けるようご挨拶に言って貰いたいのです」
とんでもない内容でした!
むしろ、このタイミングでよく私を抜擢したなぁ……とすら思ってしまいます。
少なくともカルディアでは国賓よりも聖女様や勇者様、稀に現れる賢者様などの方が待遇が上になっています。
王族に不敬を働くだけで死刑になりかねないこの国で、王族よりも丁重に扱われる国賓より、更に丁重に扱われる聖女様に不敬など働いた時には一体、どんな重刑が待っているのでしょうか?
想像したくもないです。
「わ、私には荷が重すぎるように思うのですが……」
この時、私は苦笑いを通り越して顔が引きつっていたんじゃないかと思います。
だ、だって! いきなり聖女様に会いに行けって唐突すぎませんか!?
「そんなことはありません。
それに聖女様はとてもお優しい方と聞いています。
多少、ヘマをしたとて問題はありません」
そのヘマが多少で済まないのが私のはずなのですが……
とは言え、アル司祭にここまで言われて出来ませんとは流石に言えません!
なら、腹を括りましょう!
「承知しました! 私で良ければ誠心誠意、聖女様にご案内を申し上げてきます!!」
気合一ついざ聖女様の元へ!と部屋を出て王宮へと向かうことにしました。
そして、現在――
「いえ、それは大丈夫だけども――怪我してない?」
私は案の定というか何と言うか……
気合が空回りして倒れていました。
ここで心配してくれる辺り、聖女様はアル司祭の言う通り優しい方のようです。
ところで、さっきから聖女様と及びする度に後ろで控えている侍女さんが睨んでくるのですが、私何か失礼なことをしているのでしょうか?
ちょっと、怖いです……
そして、そのまま要件を噛み噛みながら何とか伝えた私は宿舎に戻ろうとしたのですが……
「そう。なら、今から行きましょうか」
え? 今から?
ということは、今から教会までの距離を聖女様と歩くんですか!?
何たる試練……
とはいえ、断ることなど出来るはずもなく、一つまた気合を入れる。
あ、気合入れたらまた空回りしてしまうかも知れません。気をつけないと。
† † †
先程の気合は何だったのか……
今の私は緊張でガチガチです。
……。
もう、驚きません。
ええ、驚きませんよ! 聖女様と二人っきり程度では!!
というより! ただ挨拶に行くだけのはずが何で聖女様と二人っきりになるなんて超展開になるんですか!?
これもあの侍女さんが付いて来てくれないからだ。
『ルカは申し訳ないけどお使いを頼まれてくれるかしら?』
聖女様のその一言で侍女さんはお留守番が決定してしまった。
怖い人だったけど頼みの綱にしていたのに……
それに、聖女様はこれから治癒魔法を学ぶのに、何故、音楽まで学ぼうとされているのでしょうか?
全く理解出来ません。
こんな事なら、アル司祭にもう少し聖女様について聞いておけば良かったと今更後悔。
教会に着くと聖女様は洗礼を受けるということで準備が始まる。
私はアル司祭の用意した聖女用の正装を着付ける役でした。
聖女様はスタイルが良いので、何となく役得。侍女がいればこの役を取られていたのかと思うと、ある意味ラッキーだったと言えます。
「肩が出ているとは言え、こんなに暑苦しい恰好なのに、むしろ涼しい気がするわね」
「本当ですか!?」
ふと、着替え終わった聖女様にそんなことを言われ驚きました。
この正装はアル司祭が聖女様用に特別にこしらえた物で、当然というべきか精霊の加護が付与されています。
風の精霊の加護が付与されている正装は、風の精霊に気に入られることによって効果を発揮するのです。
普段の力を貸してくれるとはまた違い、気に入られる必要があります。
全ての魔力を持つ者は全属性の精霊魔法を扱うことが出来ますが、得手不得手というのは存在し、それは精霊に好かれているかによって左右され、数値的に見れば適性という形で現れます。
聖女様の場合は既に適性なしには有り得ない規模の地精霊による魔法をダムで使っていると聞いていたので、正直なところ風の適性はないのではないかと思っていたのですが、どうやら、風の適性もあるようです。
確かに複数の適性を持つこともありますが極めて稀です。
実際、文献によれば初代聖女様も風の適性と神聖魔法による救援活動が主だったようですし……
挙げ句、ハンドガンまで所望されれば、どちらかと言えば前線に出て戦う人という感じです。
聖女様って後方で治癒活動をするもので、死の淵に立った戦士たちに希望を与える存在だと思っていたのですが、異世界では全くの別物と言うことなのでしょうか?
アル司祭には服を渡された時に、『色々と規格外な人なので、あまり気にし過ぎないように』と言われていました。
聖女様は一体どこへ向かっているのでしょう?
私の中の理想の聖女様像はもはやズタボロです……
でも――
「おお! 後光が差して見える」
「流石、聖女様だ」
いざ、洗礼の儀を執り行って見ればご覧の通りでした。
何でしょう? 普通であれば、人から目に見えるほどの霊気を放出することなど有り得ないはずなのですが、湧き水のように霊気が溢れ出してきています。
そのまま無事に洗礼の儀は終了。
後に霊刀を手にした聖女様がカルディア最高戦力と謳われるミカヅチ様に勝利したという噂が診療所でも囁かれました。
流石に簡単に信じる者はいませんでしたが、洗礼の儀を見ていた私は「さもありなん」と思っていました。
アル司祭に聞けば本当のことのようで――いえ、もう驚きません。驚くだけ無駄だと悟ったので。
そんな聖女様ですが、何食わぬ顔で教会には二、三日に一回というペースで訪れて、神聖魔法とは何かを学ばれていました。
そして、聖女様御一行が旅に出ることが決まった後、最後の講義を――と聖女様がやってきました。
いつも声を掛けてくれる聖女様に最後のご挨拶をと思って駆け寄ると、スカートの裾を踏んで転んでしまいました。
本当に情けない……
結局、まったく緊張することなく聖女様と話すということは叶わず、講義も終わって聖女様とのお別れの時間になってしまいました。
まぁ、でも暫くすれば帰ってこられますし、神聖魔法に関しても全てを学ばれた訳ではありません。
となると、帰国後はまた教会に通われるでしょうから幾らでもチャンスが――
「ところで、アル司祭。エルを借りていってもいいかしら?」
ありましたね――ハイ。
どうして私なんでしょう?
さっきだって鈍くさく転んだばかりなのに!
という訳で、何だかんだで私も旅に同行することになりました。
鈍くさいからと言ったのですが、侍女が面倒見るから問題ないとかで……
ルカさんってアレですよね? あの私を何度か睨んでた――
先行き不安です。
ともあれ、アル司祭からは神聖魔法関連の知識を持つ者が同行者に私しかいないとかで、戦闘面では出しゃばらず知識面で大いに貢献してくるといいと言われましたからポンコツイメージ払拭のチャンスです!
診療所は知り合いの治癒魔法師にお願いしておきましたし、明日からは聖職者としての本領を発揮してみせます!!
皆さん、こんにちは。初仁です。
9日ぶりの更新です。大変おまたせしましたm(_ _)m
予想通りというか何と言うか、エルは出たて(といいつつ、よく考えたら20話も前で登場してたよ……)なために、それほど書くことがありませんでした。
1話で完結して一安心です。
次回からは「見習い侍女とポンコツ聖職者」の最終局面スタートな感じです。
1話で終わると信じてます。何書くか決めてないので何ともな感じですけど(汗)
その後は才華に視点が戻っていよいよ旅の準備です。
何と言うか感慨深いですね……気がつけば42話です。
週3更新に変えてからは1話あたりの文章量が少ないので、連載開始当初に比べればポンポン出せるのも当たり前な話なのですが、それでも週に1万文字弱は書いてますから、連載当初の週に4000文字強と比べれば頑張っている方かと。
これも一重に皆さんの応援あってこそ(コメントは貰ってないけどね)。
本当にありがとうございます。
というより、ここまで書けると思ってなかったので、かなり驚いてます。
書き始めてみると内容と出来はともかく意外と書けるもんだなぁという感じです。
今後も頑張っていきますので、よろしくおねがいします。
前の部分で書きましたが、カクヨムがさっぱり進んでいないので、更新が火、土曜の週2に変わってます。
時間は変わらず18時です。よろしくおねがいします!
では、また次回。




