第41話 見習い侍女の手記【Ⅴ】
ブックマーク登録ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします。
それからのサイカ様はやはり凄まじかったとしか言いようがない。
ミナカタさん本人が想像していた通り、ミナカタさんは被召喚組の指導役として部屋を出入りするようになった。
しかし、サイカ様は声に耳を傾けるだけで延々と本を読み進めていく。
気がつけば、まだミナカタさんが触れていない精霊魔法を平然と使い、挙げ句の果には精霊視なんて異能まで発現させてしまった。
課外授業が始まり料理を始めたサイカ様。
今では数日に一回のペースでサイカ様の手料理が振る舞われ、もはやどっちが従者か分からないような状態だ。
流石に洗い物は買って出ているから、従者としての面目は保てていると思いたい。
そして現在――
「あ゛あ゛あ゛ぁ ぁ ぁ ぁ …………」
私の膝の上でサイカ様は絶叫していた。
サイカ様のいた世界にはクルマという物があるらしく、長距離移動でもここまで揺れないらしい。
「まるで加減を知らないロデオマシーンの様だ」みたいな事を言っていた。
ロデオマシーンというのが何なのかは分からないけども、取り敢えずこの揺れが異世界人に取ってありえないくらいに酷いということだけは表情を見て察した。
私は……まぁ、見習い侍女ということもあってサイカ様付きになるまではよく乗っていたから、特に気になる要素はない。
結局、サイカ様は気を失ってしまった。
意外な所に弱点があったなと思いつつ、到着したから起こす。
喉が乾いたというサイカ様に水を勧める。
ここの水は精霊が多く住む川から引いてきたもので、そこらの水よりも断然美味しい。
樽に詰められて王宮に献上されるほどなのだから、その美味しさは王家のお墨付きだ。
久しぶりに見た建物に入ると早速、親方に挨拶をしに行く。
親方は引きこもりだけども人見知りという訳ではなく、サイカ様とも普通に話をしていた。
驚いた点はサイカ様が用意した設計図を褒めていたことだ。
比較的優しい性格の親方だけど、ものづくりには人一倍の強い信念を持っている。
平凡な能力程度では褒められないどころか駄目出しされてしまう。
そう考えると、サイカ様は鍛冶の方面でも遺憾なく力を発揮したということである。
私なんか給仕くらいしか取り柄がないから、この職を失えば路頭に迷うことになるというのに、サイカ様なら幾ら職を失ってもすぐに次の職にありつけるということだ。
つくづく規格外な人だ。
だけど、特筆したいことはもっと別のことだ。
サスペンサーと呼ばれる何かが完成するまでの間、時間を潰す必要があった私たちは川へ行ったりしていたのだが、そこに来たのが騎士隊の中でも有名なティシャ・ユートリーだった。
自分が任されているダムへ行かないか?という誘いをしに来たのだ。
私はこれに賛成した。
サイカ様が興味を示していたこともあるが、何より、この国の水源を見ておくのはいいと思ったからだ。
カルディアの水源はただの水源ではない。
精霊が多く集まる霊気を帯びた霊泉と言ってもいい。
せっかく、精霊視を持っているのだから見てみるのもいいというのと、魔物の危険性も極めて低いという観点から出した結論だ。
その事をティシャさんに話したところ、急な申し出にも関わらず天馬を用意してくれた。
曰く、異世界において天馬は架空の動物であり、召喚された人間は皆、翼の生えたその姿に驚くのだそう。
とは言っても、私の様な侍女には馴染みのない存在で、乗馬経験もなかったから一人では乗れない。
さて、どうしたものかとサイカ様を見れば、平然と馬に跨っている。
そのまま、事もなさげに数歩歩かせた後、私に後ろに乗る様に言った。
乗馬まで出来るとは、もう知識欲で片付けられないのではないかと思う。
「さて、普通に地面を歩く分には問題なさそうなんだけど――アレはどうしたらいいのかしら?」
そう言ってサイカ様の視線の先では、護衛で付いて来てくれる事になった小隊の馬が翔んでいる。
基本的に魔物の出ないこの地域は魔力の通り道である地脈の状態計測や、紛れ込んできた魔物がいないか監視することが主な仕事だ。
そのため、翔んでいるのが彼らに取って普通であり、必然的に私たちもダムまで飛んで行くことになる。
初めての天馬で翔び方を知らないサイカ様にティシャさんが翔び方をアドバイスする。
どうやらこれもいい経験になるだろうと、飛べる様になるまである程度は時間を取ってくれるつもりらしい。
もしかしたら、ダムの偵察は最初からものの次いでだったのかも知れない。
「ああ、聖女様は天馬が初めてでしたか。
天馬は人語が分かりますから、話しかければ翔んでくれるはずですよ」
そう言われたサイカ様は天馬にそっと話しかける。
声を掛けられた天馬は、次の一歩から空を翔けるように空中を蹴る。
初めて乗ったというのに、サイカ様はあっという間に小隊メンバーに追いついてしまった。
「凄い。正直、どんな感じで飛ぶのか不安だったんだけど、景色が変わっただけで地面を歩いているのとさほど変わらないのね」
「そうですね。ただ、飛べた方が直線的に進めますから、移動は何かと便利ですよ。
それにしても、流石ですね聖女様。まさか、一言アドバイスをしただけで簡単に飛んでしまうとは……」
「え? お願いすれば飛んでくれるもんじゃないの?」
そこら辺は流石に私も詳しくはないが、少なくとも言われて直ぐに出来るほど簡単なものではないはず。
噂によれば哨戒を主な仕事とする騎士団は天馬に乗れないと入れないんだとか。
そのため、所属する騎士たちは皆優秀だと言う。
優秀な騎士を集めた騎士団の入団基準になるくらいなのだから、簡単ではないのだろう。
活き活きと飛び出した私たちの乗る天馬は、気がつけば隊列の比較的前の方にいた。
今回は新人が多いと言う事もあり、今日初めて天馬に乗ったというサイカ様に呆れる者もいたものの、一応は感心している様だ。
しかし、彼らの驚きはこれだけで終わらなかった。
ダムに着いた私たちに待っていたのは災害級の魔物だった。
飛び跳ねた怪魚は水面に落下し、大きな水柱を立てる。
押し寄せる高波。逃げても逃げきれそうにない。
護衛に付いていた騎士が危険だから下がれと言う中、サイカ様が何やら口にした後、右足を踏み鳴らした。
もう、波が到達する――と思った時、目の前に大きな土の壁が出現した。
「サイカ様、今のは?」
「何って? ただの精霊魔法よ?」
確かにあの状態であんな事が出来るとすれば精霊魔法だけだろう。
しかし、この規模の壁を作ろうとすれば、とても一人で構築できるものではない。
「サイカ殿。精霊魔法とて万能ではありません。
一人で発動した程度ではこれ程立派な壁を造り上げることなど到底不可能です」
「それは言霊のせいじゃないかしら?」
「コトダマ……ですか?」
曰く、言葉には何かしらの力があるんだとか。
確かに、侍女長に面と向かって怒られると気をつけないと!って思う。
きっと、そう言う事なんだろう。
そして、この怪魚はサイカ様が魔法を使ってトドメを刺した。
正直、魔導砲なんてものを見せられて驚いていたのに、「してやったり」とドヤ顔をしていた騎士たちも目を見開いて驚いている。
何人かは顎が外れかけたみたいだ。
無理もない。
いきなり、鼓膜が破れるかと思う様な轟音とともに雷が落ちてくれば驚きもする。
この噂は瞬く間に広がり、更に王宮に戻った後、教会で洗礼を受けた事により、サイカ様は聖女としての地位を確立した。
それだけに留まらず、当初、回復要員としての意味合いが強かった聖女が、自ら戦場を駆けるというイメージが浸透、今では一部で脳筋とまで言われている。
失礼な事極まりないとは思うが、現カルディア最高戦力である武神の一角を倒したとあれば仕方がないのかも知れない。
この人の才能は底が知れない。
次は国を出る。そんな主の隣に私は並んで行けるのだろうか?
否、私は最後まで隣に並び続ける。
――私はこの才女に侍女としてではなく、ルカとして従うと決めたのだから。
皆さん、こんにちは。初仁です。
ギリギリ、時間に間に合ってないんじゃないかとも思いますが、何とか書き終えました。
本当にiPad pro様々です。
とりあえず、強引な気もしますが、これにてルカ編終了です。
正直、一時間前まで、もう一話書かないといけないかもと思ってました。
後で家に帰ってから多少修正しそうな気もします。
土曜の更新の時に後半部分だけでも読み直してみてください。
では、また次回。




