第40話 見習い侍女の手記【Ⅳ】
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結局、ミナカタさんに全てを任せて用意した精霊魔法に関する書籍を、数人の部下を使って部屋へと運び込んだ。
これだけ運び込んでおけば、数日はサイカ様のお世話に集中できるはずだ。
戻って来たらお茶を飲むだろうと考え、先に幾つかお茶菓子を用意しておく。
勿論、今日は同郷の方と会ってるはずだから、場合によっては部屋に連れてくるかも知れないと多めに用意した。
そして、その予想は的中した。
「ただいま」
サイカ様の声が聞こえる。
私は頭を下げてサイカ様を迎え入れた。
「おかえりなさいませ」
顔を上げた時にはサイカ様の連れてきた方が全員、部屋の中へと入ってきていた。
一つ予想外だったことがあるとすれば、それはフィーラス殿下がいたことだ。
王宮は部屋同士が遠いこともあり、備え付けのキッチンで用意できるお茶の類いは幾らでも追加で用意できるが、お茶請けに関しては部屋に置いておくわけにもいかず、外の調理場まで取りに行く必要があるため追加の用意には少し時間を要する。
ただ、今回は余分に用意していたもので間に合いそうだ。
不測の事態が起きては困るからと、少し多めに持たせてくれた料理長たちに感謝しないといけない。
「ごめんねルカ。殿下から既にお話があったと思うけど、明日からのスケジュールの話を改めてして貰うことになったの。
だから、お茶の用意をお願い。勿論、六人分ね」
スケジュールに関しては確かに別の連絡係から通達されている。
特に変更がなければ私一人で説明が出来るはずなのに、何故、殿下がわざわざここまで出向いたのだろうか?
そもそも、その気なら最初から通達せず、説明しに来ればよかったのではないかとも思う。
それはさておき六人分のお茶を用意は――簡単だけども一つ問題がある。
目の前には、サイカ様、ケイコ様、クルト様、マモル様、殿下の五人しかいない。
つまり、必然的に六人目は私と言うことになる。
朝の件も考えると殿下とお茶を御一緒するのは、一介の侍女としては非常にマズい気がするのは気の所為ではないはず。
しかし――
「大丈夫よ。ここの部屋の主は私だし、殿下はとても理解のある方よ」
サイカ様はそう言って聞かない。
仕方なしに殿下の方を見る。
何となく問題ないと言っているように見える。
それも渋々という訳でもなく、そういう風に表情を作っている訳でもなさそうだ。
ならば、お言葉に甘えさせてもらおう。
実を言えば、異世界人の皆さんとお茶をするのを楽しみにしていたのだから。
お茶を用意し机の上に並べる。
給仕の終わった私はそのままサイカ様の隣に腰掛けた。
お茶は熱々に入れるのが普通であるため、六人分全て熱々の状態で入れた。
コップも温めて置いたものを使ったから、早々冷めることはないはずだ。
ただ、ケイコ様は猫舌らしくお茶が冷めるのを待つことにしたみたい。
今後、ケイコ様の分だけは少しぬる目に入れよう。
「……これ全部、暗記されたんですか?」
私がお茶の出来は悪くないかと確認していると、殿下のそんな声が聞こえてくる。
話を聞いていた訳ではないけど、その目線を追うにあの本の山を見て驚いているというのは分かる。
クルト様が「活字中毒」と言ったり、マモル様が「凄い……」と言ってることから察するに、やはり、異世界でもあの量は異常らしい。
今にして思えば、先日サイカ様に「書庫に連れて行って」と言われた時に断っておいて本当に良かったと思う。
断っていなかったら、今頃、サイカ様は書庫に籠って端から順に読み漁っていたに違いない。
そうなってしまえば、一体どのくらいの間、書庫から出なくなってしまっていただろうか?
想像するだけで少し怖い。
その後、今後の方針を変更したところでお開きになった。
ケイコ様はサイカ様の膝枕で寝てしまっている。
少し羨ましい。
とはいえ、そうなってしまった原因は私の入れたお茶がケイコ様には熱過ぎたからだ。
結局、一口も飲んでもらえなかったが、機会はこれから幾らでもあるはず。その時には必ず飲んでもらおうと考えつつ、机の上を片し、調理室に夕食を取りに行く。
サイカ様の指示で三人分だ。
戻った時にはケイコ様も起きていて、三人で夕食を頂いた。
夕食後は片付けを優先させて、後からお風呂をご一緒することにした。
洗い物をする訳ではなく、下げるだけだからそれほど時間は掛からない。
残りを任せてお風呂場へ行くと、耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
「私も短くしようかしら?」
サイカ様の声だ。
一体何を短くするというのだろうか?
お風呂場の戸を開ける。
二人は髪を洗っているようだ。
一瞬、頭が真っ白になって気がついた時には「毎日、私が洗いますから絶対に駄目です!」と口走っていた。
でも、あの長く艶やかな黒髪を切るなんて言われたら、従者としては慌てて当然だと思う。
あんなに似合っているのだから。
もう一つ驚いたことは、私がハッキリとものを言えたことだ。
少なくとも今朝の私なら口に出して止めるようなことはしなかった。
これも、ミナカタさんのおかげだろうか?
今の私は侍女としてでなく、ルカ・ルーザとして仕えることが出来ていると感じた。
お風呂から上がるとサイカ様から三人で寝ようと提案される。
こればかりは流石に躊躇した。
人が最も無防備になる就寝時間にお邪魔するなど、従者としてあっていい事なのだろうか?
しかし、「今日は恵子ちゃんもいるから」と流されるままに一緒に寝ることになってしまった。
布団に入れば気にならなくなるもので、私は心地よさを楽しんでいた。
特に何も言われないからと、ケイコ様同様にサイカ様の腕に抱きついて眠りにつく。
ここ最近は気が張っていたから、安心して寝たのは本当に久しぶりだった。
何となく気持ちのいい夢も見れたような気がする。
だからだろうか?
ふと、その安心感が消えたような気がして目を開けると、サイカ様が布団から這い出ていた。
「サイカ様どちらに?」
「目が冴えてしまったから少し夜風に当たってくるわ」
「でしたら、私もご一緒します」
「恵子ちゃんを一人に出来ないから出来れば残ってくれないかしら?」
「畏まりました」
そう答える他なかった。
本当は付いて行きたかった。
ようやく分かってきた距離感をより強固なものにするために、たくさんお話がしたかった。
だけど、ケイコ様のことも分かる。
私も両親が死んでいなくなってしまったから。
当たり前の様に顔を合わせていた人と会えなくなることの辛さは知っているつもりだ。
だから、大人しく引き下がった。
外へ出て行くサイカ様に冷えるからとストールを渡し、自分は布団へと舞い戻る。
リビングのベランダではなく外へ向かったのも、ケイコ様が寒さで目を覚まさない様にという配慮なのだろう。
隣ではケイコ様が「お母さん……お父さん……」と呟いている。
この状態で目を覚ませばパニックを起こしていたかもしれない。
やはり、サイカ様の判断は間違っていなかったということだ。
敵わないなと思いつつ、再び眠りにつく。
明日からは本格的に授業が始まる。
教室はこの部屋ということは、必然的におもてなしという意味で私の仕事は増える。
万全の状態でお世話をさせて貰うためにも、今はしっかりと寝ておこうとそう思って――
皆さん、こんにちは。初仁です。
今回、少し短い(汗)
プラス諸事情(昨日、ひたすらゲームやってただけ)で今日になって書き上げた&ipadで書いていたということもあり、帰ってから一部書き直すやもしれません(多分、大丈夫だとは思うけど……)。
というわけで、書いてる本人は楽しい回想編(重複が多かったり、主人公があんまり出ないといった理由で、読む時はつまらなく感じることが多い気がする)も次回で最後になる予定(ルカ編は)。
その次のエル編は登場間もない(?)ので、長くなりません(多分)。
来月の二週目くらいには他国の話を書いていけるかと思います。
では、また次回。




