第35話 才女、神聖魔法を習う
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実はちょくちょく使い始めている治癒魔法だけども、今の所は見よう見まねで行使しているだけに過ぎない。
アル司祭にもそこは呆れられてしまったけども、出来てしまったのだから仕方がない。
取り敢えず、傷の治癒くらいなら知識がなくても問題はないから、それ以上のことは絶対に勝手にやらないようにと釘を刺されてしまっている。
つまり、神聖魔法については勉強中というのが今の現状。
正直に言うともう少し時間をかけるつもりだったのだけど、トト母の試験に関してはこないだの味噌汁であっさりクリアということにしておいてくれたから問題なくなったし、少し本腰を入れられるというのが一つ。
それと、フィーラス殿下の言ってた他国訪問に行く前に神聖魔法の基礎は覚えておかないといけない。
知識もロクにない状態で「聖女です」なんて紹介されたら、何言われるか分かったもんじゃないものね。
別に聖女には興味ないけど、私が無知だと思われるのは我慢ならない。
加えて、旅となれば私はともかく仲間が大怪我をすることも考えられる。
神聖魔法全部は無理にしても治癒魔法くらいはしっかりと覚えておきたいところね。
なら、行く前に全部覚えてしまえばいいだけのこと。
「あ、いらっしゃいませ聖女様」
教会に行くと出迎えてくれたのはエルだった。
いつも通り教会前の掃き掃除をしている。
そのままこっちへ寄って来ようとして……自分のシスター服の裾を踏んで転んでしまった。
会うたびに転んでいる彼女だけど、実はかなり優秀な神聖魔法の使い手と言うのは初めてここに来た時にアル司祭から聞いた。
まぁ、神聖魔法を理解してないから、その凄さは全然分からないんだけどもね。
「大丈夫?」
転んで擦りむいてしまった彼女に近づいていく。
治癒魔法を掛けようとしゃがんだ時、ふいにエルの体が光ったと思ったら怪我が治っていた。
これが自己修復魔法――なんて便利な魔法だったら良かったのだけども、そういう訳ではなく、エル自身が無意識の内に治癒魔法で治してしまうらしい。
つまり、今ので頭の打ち所が悪くて気絶してしまったとしたら、自身の体を治癒魔法で治すことは出来なかったということ。
「すみません。ご心配おかけしました」
「気にしないで。大丈夫なら問題ないわ」
そう言って、エルを立たせた私は二人で教会の中へと入る。
大広間にアル司祭はいなかった。
聞けば執務室の方で書類作業に追われているらしい。
サボってたのかしら?
案内されて執務室に入ると、たしかにアル司祭の座る席には風が吹けばあっと今に崩れ落ちそうな程に高く積み上げられた書類の山、山、山――
アル司祭はと言えば、ここ数日寝ていないのか治癒魔法を自身に常時発動させながら血眼になって内容を確認し、赤ペンを入れたり承認の判子を押したりしている。
これは、日を改めたほうがいいかも知れない。
「ん? 聖女様?」
さて、部屋を出ようと一歩踏み出したときの足音にアル司祭は気付いたらしい。
心臓に悪いから気づくならもっと早い段階で気付いて欲しかった。
「こんにちは、アル司祭。講義を受けようと思ってきたのだけど、日を改めたほうがいいかしら?」
「いえ、是非、やらせてください!」
と思ったら凄い勢いで食いつかれた。
見ている限りでは期限わからないけども、私に時間割く余裕はないんじゃないかと思う。
しかし、これには意外な理由があった。
「実はこれはただのボランティアでして……」
「ボランティア?」
「街側から申請された書類に対しての許可、不許可を決めていく仕事なのですが、当然、国の規則に基づいて判断されるため、本来であれば王宮側で処理されるものなんです」
確かに、司法は裁判所の領分になる訳だし、本拠地が他国にある教会が行政のお手伝いをしているのは不思議ね。
司祭とはいえボランティアの人に見せていい資料だとは思えない。
「そこそこ重要な書類だと思うのだけど、何故アル司祭が?」
「それはですね。司祭様が規則にも詳しいからですよ」
司祭になる前は王宮でこういった事務作業も長いことこなしていたらしい。
その延長で後輩たちに頼られると断りきれず、色々と手を回してしまうんだとか。
流石に量が多すぎて疲弊してきた所に私が来て、断る丁度いい理由が出来たことを喜んでいるみたいね。
「書類を処理していた理由は分かったけども、いくら後輩に頼まれたからって良くやるわね」
「私の性分というのもありますが、彼らは治癒魔法なしに私以上に仕事を消化していますからね。
あの地獄から開放された身としては、可能な限り手伝ってあげたいとついつい考えてしまうんですよ」
という訳で、神聖魔法の講義が始まる。
† † †
書類を運び出し終えて綺麗になった執務室には私とアル司祭が向かい合って座っている。
エルがお茶を持ってきたところで講義は始まった。
「さて、神聖魔法の基本情報は以前お話した通り、四属性からなる精霊魔法と違い、神の御業によって発動する魔法です。
強力であるが故に代償を必要とします」
多くの場合は魔力を対価に支払う。
その量は精霊魔法とは比べられない。それほどに多い。
「治癒魔法も治す対象の状態によって対価が変化しますが、全体的にみて燃費の悪い精霊魔法という風に思って頂ければ問題ありません。
そのため、戦場においては治癒魔法の使い手の管理は非常に重要となります。
治癒魔法の使い手がいるからと怪我をしすぎれば、あっという間に魔力が空になってしまいますからね」
「治癒魔法で治せる対象の状態って具体的に何処までなら可能なのかしら?」
私も怪我くらいなら治せるけども、病気とかも治せるのかまでは試せていない。
「そうですね……過去には欠損部位の再構築を行った治癒魔法の使い手もいました」
「欠損部位の再構築? それって、魔物とかに食べられた腕を再生させたってこと?」
「その通りです」
その人はアル司祭の弟子だったらしいのだけど、十数年前のとある遠征で大切な仲間が足を喰われ移動不能になり、お弟子さんが足を再生させない限り連れ帰るのは難しかったらしい。
ただし、肉体の再構築となればかなりの代償が必要となるのは明白。実際、彼女は寿命を大きく削ることになり、数年前に亡くなったそう。
「死に際に彼女はそのことを知ってもなお『後悔はしていない』と言っていました。
なら、寿命を削る結果になってしまったとしても良かったのかも知れないと私は思っています」
つまり、治せるからと過信は出来ないし、いざ実行するとなると対価に何を要求されるか覚悟しないといけないということね。
それを見よう見まねで使ってた私って、随分と浅はかなことをしてたのね。
もう少し、魔法関連には慎重にならないといけないかもしれない。
「他にも効果を抑えて範囲的に使用したりすることも可能です。
切り傷くらいなら範囲回復の方が全員まとめて出来るので便利ですよ。
普通は魔力管理が必要ですが、聖女様はその心配も必要なさそうですしね」
確かに、アビスの定期検診を受けているにも関わらず、私の魔力上限は未だに分からない。
限界を感じたことがないから、一回の戦闘で遠慮なしに使用しても枯渇するほど普通ではないことだけは確かだと思う。
「という訳で、神聖魔法はまず神の洗礼を受けていることを大前提として、浄化や治療を代償を払って行使する魔法ということですね。
同時に通常は連発出来ないので使い所の難しい魔法とも言えます」
この教会に所属する治癒魔法の使い手たちも戦場のけが人を治すなら精々一人あたり十人がやっとなんだとか。
となると、トト顧問率いる医療課の物理的な治療と治癒魔法とどっちを使うかは非常に重要な選択と言える。
そこに私情を挟み込めないのは使い手たちにとっては辛いかも知れないけどね。
浄化に関しては神聖魔法の中でもかなり上級に当たるらしく、ぶっちゃけ治癒魔法より圧倒的に扱いが難しいらしい。
大体が範囲浄化になるから、浄化を学ぶ前に範囲治癒で範囲魔法の扱いに慣れおくといいとアル司祭からアドバイスを貰った。
これにて、神聖魔法の初級編は終了。
中級編以降は帰国してからでしょうね。
それと、もう一つの用事を済ませないと――
「ところで、アル司祭。エルを借りていってもいいかしら?」
私がお供に連れていきたい候補の最後の一人、エル・グラビの引き抜き交渉を私は始めた。
皆さん、こんにちは。初仁です。
今回は20話と若干内容が被ってる気もします。
カクヨム版では修正入れるかも。
というわけで、カクヨム版も加筆修正しつつ取り敢えず1話を公開してます。
お時間ある方はよろしくおねがいします。
「二度目の人生は〜」は来週辺りから更新再開するつもりです。
それと、新作のローファンタジーはもう少しお待ちを……
多分、過去の作品の中で一番力入れています(出来は別としてw)。
一応、予定では「小説家になろう」「カクヨム」同日公開の予定。
新作の詳しい情報はまた詳しい内容が決まったら(ゲームで言うところのマスターアップ)、その際に別途項目を用意してお話します。
では、また次回。




