第3話 才女、王に会う
「RelicCode」毎週月曜日 午前6時更新中。
ブックマーク登録ありがとうございます。まだの方は是非。
謁見の間にはフィーラス殿下が連れて来てくれた。
気を使ってくれる彼には最初と違い少し好感が持てた。断じてイケメンだからではない。
「待たせて悪かった異世界から来た者達よ」
いや、その自身の意思でふらっとやって来たみたいな言い方はないんじゃない?
あんたが連れてきたのよ。あんたが
「我が名はオスカー・カルディア。カルディア王国の国王だ。見知り置き願おう」
一体なにがあってフィーラスの様な美形が生まれるのか疑問に思うほど、”これぞ国王”みたいな渋いおじさまが座っていた。
隣には長い髭を下げた腰の曲がった男が立っている。多分、あれね宰相とかね。
「私が宰相のガウル・ガロワだ」
一歩前に出た男がそう告げる。やっぱり宰相なのね。
二人はこっちをずっと見ている。どうやら次は私達が名乗れってことみたい。
最初に挨拶したのはしっかり者の鎮だ。
「お会い出来て光栄です。陛下、宰相閣下殿。日本より召喚されました私の名前は夕霧鎮と申します」
「同じく日本より召喚されました島根恵子と申します」
ゆるふわ系の恵子ちゃんもそこは鎮に倣って丁寧に頭を下げている。
でもね、私この人に凄い文句言いたいのよね。それに――
「日本から連れてこられた澤入来斗だ。ま、よろしく」
来斗が爆死してるのよね。ガチャだったら全て星二とかってレベルでやらかしてるよね。
だから来斗に倣っちゃおうかと。
「相沢才華。この国に拉致された今この国で最も憐れな被召喚者の一人よ」
あぁ、来斗は爆笑してるし、鎮は頭を垂れてどう収集をつけようか考えてるし、恵子ちゃんは尊敬の眼差しを向けてくれる。
え? 来斗とそんなに変わらないと思うんだけどやらかした?
「拉致か……確かにそうだな。だが、こうでもしなければ国が保てん。最後の手段だったのだ」
「私達には関係ないじゃない。それに、呼ばれた人間が必ず味方になるわけでもないでしょ?」
「確かにお主は保留にすると聞いている。だが、他の者達は前向きなようじゃぞ?」
まぁ、怒ってるの私だけだしね。恵子ちゃんは待遇を変えてくれればいいって感じだし、鎮は真面目そうだからほっとけないだろうし、来斗は暇潰しに手伝うかもしれない。
でも、私は関係ないしね。三人が怪我したら治療くらいはしてあげるけど。
ただ、本当にそう思ってるのかな? ちょっと聞いてみるくらいいいよね?
「って陛下が言ってるけどそうなの?」
「無駄な悪あがきを」と陛下はほくそ笑んでいる。これは本当なのかもしれないなぁと思ったけど、杞憂に終わった。
「え? 保留に出来るの? サイちゃんが保留にするなら私も保留にする〜」
「なら二人の御守りでもするわ」
「僕も保留出来るなら保留かなぁ……役に立たないかもしれないからね」
なんと全員保留と答えることになってしまった。
あーあ、陛下が固まってるよ。石みたいだよ。ちょっと、大人気なかったかしら?
でも、自業自得よね。私は悪くない。
「ということらしいですが?」
あ、陛下崩れ落ちちゃった。まさにorz。灰色になっちゃったわ。黒い複数の平行線がお似合いね。
というより、お隣の宰相も陛下にジト目向けてるけど腹心があんなんで良いのかしら?
なんというか、魔王襲来を待つまでもなく滅びそうよね。
「まぁ、よい。どちらにせよこの世界について学ばねばお主らも動けまい。暫くの間、専門の教育係を用意する。それから決めればよい」
「ええ、そのつもりよ」
まぁ、学んだところでどう動くか何だけどもね。別に国に同情して守るにしても、王に従う必要はないし。
取り敢えず、部屋に帰りたい。この時間だとルカなら本用意し終えているはずだしね。
「講義は明日からということでよろしいのでしょうか?」
「ああ、鎮殿の言う通り明日から執り行う。と言っても全員一緒に受けて貰うからそう身構えなくともよい。スケジュールは既に従者に伝えてある。詳しく聞きたければ従者に確認してくれ」
来斗はその従者と話せないのではなかっただろうか?
まぁ、あとで教えて上げれば問題ないわね。私が言わなくても鎮が教えそうだし。
「では、各自明日に備えるといい」
王との謁見はこれにて終わりを告げた。
部屋を出た私達を待っていたのはやっぱり殿下だった。
「父様はどうでした?」
「何か、堅物そうに見えて意外とお茶目な人だったわ」
「ははっ、そうですね。確かにその表現が似合うと思いますよ」
「殿下は何で入ってこなかったのかしら?」
「ああ、それは明日からのスケジュール調整を私がしていたからですよ。今、従者全員を集めてスケジュールに関しても話してきました。良かったら皆様にもご説明しましょうか?」
殿下は今回の召喚の件にかなり深く関わっているようだ。
ただ、あの頼りないようなそうでもないような、微妙な感じの陛下に決められるよりはよっぽどいい。
折角なので殿下の言葉に甘えることにする。
「そうね。皆、私の部屋に来なさい。たまには大勢でお茶会でもしましょ?」
「サイちゃんの部屋? 行く行く〜。お泊り道具持っていっていい?」
「ええ、恵子ちゃんは泊まっていってもいいわよ」
やったー!って隣で恵子ちゃんが喜んでいるが、鎮と来斗の二人は少し悩んでいる。
「どうしたの二人とも。別に借りている部屋だから女の子の部屋って感じでもないわよ?」
「とはいえ、一週間は才華さんが過ごしていたんでしょ?」
鎮って匂いとかに敏感なんだろうか。無害そうな外見は偽物なのかな……いや、流石にそれはないか。
「気にする必要はないわ。そんなこと言ったら、過去にはどこぞの御曹司が過ごしていたかもしれないでしょ?」
「それもそうだな。それに、王子様自ら説明してくれるっていうのに俺たちが行かないわけにもいかんだろ」
「了解。お言葉に甘えさせてもらうよ」
渋っていた鎮もようやく納得してくれたところで、早速、私の部屋に移動することにした。
† † †
「ただいま」
というわけで、全員引き連れて帰還。
「おかえりなさいませ」と言ってくれたルカが顔を上げて驚いている。まぁ、朝出ていった時より人が多いからね。
「ごめんねルカ。殿下から既にお話があったと思うけど、明日からのスケジュールの話をまたして貰うことになったの。お茶の用意をお願い。勿論、六人分ね」
「サイカ様、今日は殿下もいらっしゃいますし、私は……」
「大丈夫よ。ここの部屋の主は私だし、殿下はとても理解のある方よ」
ちょっと、朝のこともあったので殿下に釘を刺しておこう――と思って言ったのだが、特に気にしていない様子。朝のあれは何だったんだろうか……
結局、六人でお茶を飲みつつ明日からのことを話すことになった。
私の右には恵子ちゃん。左はルカ。正面に殿下。その両サイドに来斗と鎮が座っている。
こうして見ると見事なまでに美形揃いね。
殿下と来斗は同じくらいの背だけど、鎮は少し高い。こうして並ばせると本当に王子と騎士みたいだ。
対して私は……左から少し私に寄りかかるように座るルカ、お茶が冷めるまで時間つぶしに私の膝を枕にする恵子ちゃん。なんだろう、この仲良し三姉妹みたいなノリは……
まぁ、二人とも可愛いから良いんだけどね。
「さて、明日からなんですが、最初はカルディアの歴史や礼儀作法を覚えて頂きます」
「それ、私が受ける意味ないんじゃないかしら?」
「あはは――サイカさんはそこら辺、一通り勉強済みでしたか?」
「ええ、暇だったからあそこに積まれている歴史書と礼儀作法の指南書は一通り呼んだわ」
私が指差す方向には山のように積まれた本がある。ルカに頼んだら知り合いの執事に手伝って貰って持って来たものだ。当然、台車を使って。
殿下が席を立って背表紙のタイトルを確認する。
「……これ全部、暗記されたんですか?」
「一週間もあったから割りと簡単に覚えられたわ」
「あれ、一週間で読んだのか……才華って活字中毒?」
流石に興味を持ったのか、来斗が積まれた本の冊数を数えながら聞いてくる。
「人一倍、知識欲が強いだけよ。講義がなかったから本を読んだだけで、普段からこんなに読んでいるわけではないわ」
「それにしても、すごい量だと思うけどなぁ……」
鎮もちょっと呆れ顔だ。
私の周りにいた本当の活字中毒者は一週間あったらこの倍は読んでいるはずだから、私なんてまだましな方だと思うけど……私の周りが変だったのかしら?
ちなみに、相変わらず恵子ちゃんは私の膝に頭を乗せてる。そろそろ寝息が聞こえてきそうだ。
「そしたらどうしましょうか? サイカさんだけ別の教育係を用意しましょうか?」
確かに、私個人としてはそれの方がありがたい気もする。ただ、折角、仲良く慣れそうな御三方を放置して一人寂しく授業を受けるのも何か違う気がする。
そこで、一つ提案することにした。
「この部屋で講義するっていうのはどう?」
「この部屋でですか?」
「そう、私の部屋は寝室が別だし、ここはただのリビングだから構わないわ。三人に中心的に教えて、私はその話を聞きながら別の本を読んで一人勝手に勉強する。それでどうかしら?」
それなら別の部屋でもいいのではないか? と言われたが、大量の本の移動と給仕のことを考えたら、くつろぎやすいこの部屋を使った方が効率的ということで収束した。
「では、私は明日の教育係にもこの旨を伝えてきます。明日からは教育係と話し合って行動して下さい」
「殿下はこちらにいらっしゃらないのかしら?」
「ごめんなさい。顔を出そうとは思っていたんですが、隣の領で魔物の大量発生が確認されたとかでてんやわんやしていて、暫くは隣の領の応援に行かないといけないんですよ」
「公務があったのね。魔物がどんなものかは本だけでは分からないけれども、危険な存在であることに変わりはないんでしょうから気をつけて行ってきて下さい」
殿下は「ありがとうございます」と笑顔で言うと部屋を出ていった。
残された私たち五人もそろそろお開きにしようと思う。
「さて、二人はどうする? ご飯もここで食べていくというなら五人分用意させるけど?」
「いや、遠慮しておくよ。僕も部屋に戻って明日の準備をしておこうかと思うしね」
鎮は見た目通り真面目みたいね。正直、高校の授業と違うのだから準備するほどのことではないと思うけど。
来斗も今日あったことを整理したいとかで部屋に戻るらしい。個人的には残って色々と聞いてみたかったのだけれども仕方ないわね。
「ルカ。三人分の夕食を用意してもらってきて」
「畏まりました」
そうして、それぞれがそれぞれの目的に向かって散っていく。
ーーあ、恵子ちゃん、眠っちゃった……ま、いっか。
数日ぶりです。他の書いてたら日曜になってました。
気持ち短いですが明日の「RelicCode」も準備できたので予約入れとくだけですね。
毎度言っていることですが、「RelicCode」を優先に考えているため、こちらは隙間時間に執筆(?)しています。
結果的に連日更新したり、今回のように数日空いたりって感じの不定期更新になってます。
なので是非ブックマークの登録をお願いします。
下のURLの説明を参照に通知ONにして貰えれば、私が更新する度にトップ画面に通知が行くようになりますので何卒よろしくお願いします。
http://syosetu.com/man/favnovel/
では、また次回。