第1話 才女、異世界にて
「RelicCode」毎週月曜日 午前6時更新中。
こちらは完全な新作です。詳しくは後書きにて
その日。
その日、私は全てが振り出しに戻った事を悟った。
ーー異世界転移
転生よりタチの悪い冗談だ。
例えばそれが死んでしまった私に再度神様がチャンスをくれて転生したというならば、私は神を信じ神を敬うだろう。だが、私は神など信じないどころか居たら思いっきり殴ってやろうと思うほどに酷い仕打ちを受けていた。
それは、家で寝ていただけなのに起きたら異世界なんてフザけたことをされれば当然だと思う。
しかし、それは実際に起きていて、私はそこに座っていた。
周りを見れば豪華な服に身を包んだ男女が複数いる。その側には侍女服や執事服なんかに身を包んだものも控えている。
まるで、本に出てくる貴族の屋敷みたいだった。
これだけの人員がいるのは召喚されたのが私だけではないからだろう。他に男が二人と女が一人転がっていた。
だが、彼らを無視するように私に近づく影があった。
「ようこそ。カルディア王国へ」
そう言って、座る私に手を伸ばすのはキラキラと着飾ったイケメンだった。
歳は少し上かもしれない。
周りの者と違い一際光る装飾品を身に着けている。王子か何かなのだろうか? 周りをよく見れば貴族の屋敷というよりかは、王宮の一室に見えなくもない。
だって、装飾が豪華すぎるんだもの。
だけど、それすら今の私にはどうでもいいことだった。
その手を私は……
叩き落とした
他に言葉は要らない。ただただ、叩き落とした。
私は王子(仮)が驚いて目を見開いている間にも自力で立ち上がり、周りを見て問い質す。
「この状況が分かる責任者! 今すぐここで正座して状況を説明なさい‼︎」
それが、東大受験を目指していた私、相澤才華が異世界に来て最初に発した言葉だった。
† † †
「それで? 元の世界には戻れないのかしら?」
少し苛立ちを含めて責任者の一人を問い詰めるが、返ってきた回答は予想通り「戻れない」というものだった。
確かに、「フォフォフォ。召喚されし勇者よ、我の為に働け。功績を上げれば元の世界に返してやろう」などと言われたら、そっちの方が質が悪い気がしないでもないが、それとこれとは別問題だ。
全く、東大受験のために自由時間を犠牲にして必死に勉強してきた私になんてことしてくれる。なんて言っても始まらないので要件を聞く。
「さて、私をこんな変なところに呼び出したってことは当然、それ相応の要件があるのでしょう?」
「ええ、実は山奥での魔物の活動が活発になっており――」
? 魔物?
「観測班から魔王復――「さようなら」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「待つも何も真面目に話さないなら出ていくわよ?」
しかし、このお偉いさんは何も悪戯にそんなことを言っているわけではないと必死にアピールしている。
あれ? もしかして、真面目に魔王復活とか言ってらっしゃるのだろうか……
でも、魔王の討伐って普通は勇者がやるもんじゃない? 私関係ないと思うんだけど。
やたら、格好いい感じの男の子を二人も召喚してるんだし、私より聞き分けの良さそうなもう一人の女の子をお供に付ければ私いらなくない?
「兎にも角にも、魔王復活の兆しが出ているのです。召喚された男の一人が勇者でしょう。貴方には聖女としてこの国を守って頂きます」
「……そんな力が本当にあると思う? 聖女? 私は神を信仰したりしていないわよ?」
信仰していないどころか現在進行系で恨んでいる。いるなら報復したいくらいに。
「文献通りであれば貴方は間違いなく聖女なのです。ですからどうかこの国を……」
「いやいや、もう一人女の子いたじゃない。男の子も二人いてどっちかって言ってるのに、私だけなんで限定出来るのかしら?」
聞かれたお偉いさんはキョトンとしてる。まさか、もう一人召喚されていることに気付いていないなんてことはないだろうし驚く要素がどこにあるのか分からない。
「聖女があんなに頼りない訳ないじゃないですか」
いや、そんな真顔で言われても……確かに彼女はちょっとオドオドしてたけど、いきなり異世界に呼ばれたのよ? 寧ろ普通の反応よね? 私が擦れてるだけで。
「結論から言わせて貰うとお断りするわ。そもそも、この国のこと知らないし、守る理由もないもの。ただ、暫くここに残ってこの世界について学ばせてもらうわ。場合によっては返事を変えるかもしれないしね。それでもいいかしら?」
「分かりました。取り敢えず、この国に留まって頂けるのならそれで構いません」
お偉いさんは一安心したかのように一息ついている。
まぁ、他の三人と比べると一番の難関は私であることは間違いないだろう。王子――本当に王子様だった――の手を叩き落とした挙句、「説明しろ!」って怒鳴りつけたのだから。
完全にお偉いさん方の中じゃ貧乏クジ引かされた感満載よね。
少し同情するわ。原因の私が言うのも何だけど……
「結局残ることになったわけだけれども、これからどうしたら良いのかしら?」
「そうですね。まずは部屋にご案内します。日用品の用意もしないといけませんし、兎に角、体を休めて頂かないといけませんから」
お偉いさんは廊下に向かって声を掛ける。どうやら、ここからは案内が変わるらしい。
「お初にお目にかかります聖女様。私はこの度、聖女様のお世話をさせて頂くことになりましたルカ・ルーザと申します」
入ってきたのは侍女服に身を包んだ少し幼さの残る女の子だった。しっかりしていそうだが、どう考えても私より年下に見える。
不審に思いお偉いさんを見ると慌てた様子で説明してくれた。
この国では十五歳で成人になるそうだ。そして、ルカ・ルーザは今年で十五になるらしい。
下っ端とはいえ既に侍女として働いて実績を積んでいる侍女長お墨付きの優秀侍女なんだとか。
まぁ、別に使えなくても自分で全部やればいいし、固っ苦しい年上の侍女が来るより、愛でれる可愛い侍女の方が精神衛生上はいい。
そう思い、自身も自己紹介をする。
「よろしくねルカさん。それと、聖女はやめて頂戴。私のことは才華でかまわないわ」
「畏まりました。それでは、サイカ様とお呼びさせて頂きます。サイカ様の国の文化を知らない為、至らない点もあるかと思いますがどうかよろしくお願いします」
そう言ってルカさんを先頭に移動をした。
† † †
案内された部屋は私専用の個室となるらしい。
実家のリビングの十個分くらいの部屋に、五倍はありそうな浴室、七倍はありそうな寝室と真ん中に鎮座する部屋の三分の一は占める巨大なベッド――どう考えても一人用じゃない――などなど、誰がどう見ても規格外過ぎる部屋だった。
これは、使用人必要になるわとしみじみ思った。
「今は何時かしら?」
「丁度、十二時になりますね。お昼にされますか?」
「いえ、私の感覚だと丁度、朝なのよ。ほら、寝ている間に気付いたらここに居たから……でも、何もないとお腹すきそうだし、軽く食べられるものを用意して頂いてもいいかしら?」
「畏まりました。準備に少々お時間を頂きますので今の内に部屋の備品で足りない物を確認しておいて下さい。足りない物は後日、王宮の者に用意させますので」
「分かったわ」
と言っても、部屋で足りない物は殆ど無い。鏡はあるし、服もある程度用意されているようだ。
生活で困ることはないだろう。
程なくして、ルカさんがサンドイッチに似た何かを持ってきた。
「これは?」
「この国の軽食です。王国自慢のパンに野菜を挟み込んだものです。以前、この世界に呼ばれた聖女様が『さんどいっち』? と言っていたと聞いております」
やっぱり、そうなのか。
見た目はハンバーガーに近い気もしないでもないが、肉を挟んでいるわけでもないし、同郷の人間がサンドイッチと言うなら異世界版サンドイッチなのだろう。
元より普通に美味しそうなので気にせず口にする。
「……美味しいわね」
故郷のサンドイッチよりも遥かに美味しかった。
使用しているドレッシングの味が独特だからだろうか。少し酸味があるが癖になる味だった。
あっという間に完食した私はこの後の予定を聞いた。
「暫くは部屋で待機して頂くことになります」
「どれくらい?」
「申し訳ありません。色々と準備があるからと伺っているのですが、準備が何かもどれくらい掛かるかも分かりません」
「なら、数日は掛かりそうね。その間にこの世界の本を用意してくれるかしら?」
「本ですか?」
ルカさんはキョトンとしてる。
この世界の人はキョトンとした顔が皆可愛いのね――なんて思ったけど、さっぱり先に進まないので口にはしない。
「そう、本よ。この世界の礼儀作法と地理、文化史、歴史書辺りを片っ端から持ってきて頂戴」
「畏まりました」
まずはこの世界を知る。それは私にとってお偉いさん方に会う前に済ませておきたい最優先事項だった。
† † †
そこから数日が経過した。
その間、活字中毒者のようにひたすら本を読んでいた。元々、勉強が得意というのもあるが、ルカが心配するほどのめり込んでしまったのは少し申し訳なく思っている。
でも、仕方ないじゃない。内容が意外と面白かったんだもの。
そうね。世界史で他国の文化を知る時のような高揚感が私を突き動かしたのよ。
私、東大受験なんて目標に毒されたのか自覚していた以上に知識欲が強かったらしいわ――今更ね。
そして、一週間程して遂に呼び出しが来た。
「サイカ様。国王陛下から招集がかかりました。服はこちらに用意しております。今すぐ準備の程をよろしくお願いします」
「招集っていうのが癪だけど仕方ないわね」
「申し訳ありません……」
ちょっとした愚痴だったのに、そんなに落ち込まないで欲しい。
ここ数日で分かったのだが、ルカってしっかりしているようで感情起伏の激しい可愛い子なのだ。所謂ギャップ萌えというやつだ。
「気にしないで、ルカは悪くないのだから」
「ですが!」
「いいルカ?」
ルカに詰め寄り唇に人差し指を当て黙らせる。
「この一週間、貴方は私の我儘に付き合って一生懸命お世話をしてくれたわ。お偉いさん方は貴方を私に割り振ったという仕事はしたけど、それ以外は何もしていないのよ。
私が快適に過ごせたのは全て貴方の功績であって、あのお偉いさん方ではないわ。だから、胸を張りなさい。侍女としての仕事を全うした貴方にはその権利があるわ」
「……ありがとうございます」
ルカは照れたように顔を赤く染める。恥ずかしいのを堪えて数秒間をおいた後にお礼を言うあたりなんて凄く可愛らしい。
このまま見惚れて居たいけどそうも言ってられない。支度をして早く王のところへ向かわなければ、この侍女に災厄が舞い降りてしまう。
ならば彼女のためにも早く着替えて王の元へ急ぐとしましょう。
服は見慣れないものだったけれどもルカが手伝ってくれる。文化史の情報を鑑みるに王国の伝統衣装なのだろう。
客人に伝統衣装を着させるのは全世界共通なのだろうか?
だけど、西洋ぽい服は思いの外、気に入った。だって、日本に居たって西洋の服なんて着ないわよ? コスプレっぽいし……
そして、着替えた私は扉に手を掛ける。これが異世界生活の大事な一歩になると信じて――
皆さん初めまして。「RelicCode」読んでくれている方ーーいないと思うけどーーは昨日ぶりです。
三日坊主です。
本を読めば読むほど色々なものに影響されるクソ野郎です。
え? はい、野郎です。正真正銘の男です。
そんなこんなで、「Relic Code」書き終わってないどころか、ロクに書いてない分際が新作出します。
才華じゃないけど、書いてたら興が乗っちゃって(*´ー`*)
あっちをメインで更新してる関係でこっちは気まぐれ更新です。
手が動けばポンポン出しますし、動かなければたまーに出します。
まだ、一部ですが興味を持ってくれた方は是非ブックマークを……
よかったらRelicCodeも読んでやってください。
こっちと違って、普通にライトノベル風な男主人公ですがね(笑)