殺すのに!?
最後の晩餐は彼の大好きなモノを並べた。
そして、彼の好きなワインを毒入りで。
「おっ……うまそうだな」
夫が椅子に腰かけてつぶやく。
今更、なにを。
一度だって私の料理をおいしいって言ってくれたことがなかったのに。
一度だって私に謝ってくれたことがないのに。
一度だって私に感謝の気持ちを述べたことがないのに。
一度だって私たちの結婚記念日を祝ってくれたことがなかったのに。
一度だって私に甘い言葉をかけてくれたことなんてないのに。
この十年間……一度だって……
「うん……おいしい」
「!? ……初めて」
「ん? なにが」
「料理。今まで褒めてくれたことなんてなかったじゃない」
もう今更だけど。
私はあなたを……殺すんだから。
「……今まで、照れくさくて言えなかったんだ。ほんと、ごめんな……」
!?
「……困るよ……そんなの……」
殺すのに……今日、あなたを殺すのに。
「俺、今までお前に甘えてた。話さないでも、お前に伝わるんだって。でも、言わなきゃ気づかないこともあるってこと……わかったんだ。今まで、本当にありがとうな」
「困る!」
殺すのに! 今日、あなたを殺すのに!?
「そうだよな……いきなりは……あっ、これ」
!?
「これ……もしかして……」
「うん。結婚記念日のプレゼント」
いやああああああっ!
「こんなの……困る……」
殺すのに! その毒入りワインであなたを殺すのに!
「今日……10周年だろう? コツコツ……貯めてたんだ」
こ――ま―――る―――!
「そんな! 今までそんなこと一度だって……」
私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。
殺すの! もう、遅いの!
「俺……不器用だからさ……今まで、言えなかった。でも、俺……やっぱり……お前を世界で一番愛している。世界中の誰よりも!」
あま―――――――――い! こ―――ま―――る――――!
「今更……今更なによ!」
もう、準備しちゃってるのよ! アリバイ工作とか保険金とか! 入念にいろいろと入念に……ちょっと気になる人も……
「でも……まだ十年じゃないか。俺たちにはあと何十年以上も残されてるじゃないか」
「……」
正論――――――! ぐうの音もでな――――い!
「俺たちの十年とこれから過ごす幾十年に……かんぱ――「ダメ―――っ」
パリ――ン
「なっ、なにするんだ!?」
「ひっく……ひっく……」
「お、お前……まさか……」
「ひっく……ごめん……なさい……」
「……もしもし、けいさつです――」
ガッ!
……
……殺せたっ♪