三話
まだ、日の光すら昇らない早朝。
アリスは遠くから近づいてくる悪意を感じ、目を覚ます。
「・・・嫌な目覚めの仕方ですね。悪意で目を覚ますなんて。」
「その気持ち、よく分かる、と言うか良く気づいたわね。」
「昔から人の憎悪とか悪意には敏感なので?」
アリスは自分の〘すぐ隣〙から聞こえた声の主の方を見る。
「おはようございます、お嬢様。」
「もう少し驚いてもいいのよ?ウェルカムなのよ?」
「いえ、なんとなく予想出来てましたので。」
「貴方のような勘のいい子は好きよ?でも、驚いて欲しかったわ。」
起き上がって身体を伸ばしながらアリスはベットに腰掛けているエリスに問う。
「で、この気配は敵ですか?それとも敵にも値しないゴミですか?」
「どちらかと言うとゴミよりだけど、結構辛辣ね。そんな見た目なのにそんなこと言うとギャップで私が落ちるわよ?」
「ゴミ寄りですか、なら始末するのはここより先の森の中かな。ここだと脳漿とか血液とか飛び散って掃除が大変なことになりますし。」
「お願いするより先に本人が片付けを決行しようとするとは思わなかったわ。たぶん人族よ?相手は。平気なの?」
「人も何も全ては等しくお嬢様にとっての敵でしょう?なら、その従僕である、武器である僕はお嬢様のそれに従うだけですよ。・・・殺すのは自分の意思で、ですが。」
エリスは、それを聞いて嬉しそうに笑う。
「そう、最初から気がついてたのね。私が、全てを嫌っている事も、貴方が殺す為に呼ばれたという事も。」
「よく分かりませんね。ただ、お嬢様の敵は僕の敵。お嬢様の嫌いな者は僕も嫌いと言うだけですよ。所でなんで此処に居るんですか?」
「私が居るのは予想出来ていたんじゃないの?」
「予想出来てはいましたが、理由は分かりません。寝起きドッキリの可能性が高そうとか予想してましたが、そうでも無さそうですね。」
屈伸運動をしながらアリスはエリスに顔を向ける。
エリスは肩を竦めながら笑う。
「あの近づいてくる貴方で言うところの悪意が来るより前に必要な知識を与えようとしに来たのよ。あなたのベットに潜り込んだのはつい先程、理由は貴方をからかおうとして。。」
「必要な知識?なんです?それ。」
「その知識なら、『これで知れるわ』。」
そう言いながらエリスはアリスの額に手を当て、小さく呟く。
『神は汝に知を与えたもうた。』
突如としてアリスの脳内に高速で文字の羅列が流れる。
それは、アリスの知っているどの言語にも該当しない文字だった。
否、それは、文字の形をとった魔法陣であるとアリスは『理解させられる』。
頭の中が割るかのように激しい痛みに悶え苦しみながら、その事だけは理由出来た。
痛みの原因は考えるまでも無く脳内に今も流れている文字の形をした魔法陣だろう。
しかし、アリスにとってはそんなことはどうでも良かった。
「この魔法を使うのに魔力の同調が必要不可欠だったのよ。」
「スキル、とは、才能や能力の様なものを神が作り出したシステムで数値化し、固定したもの。」
「そして、ステータスとはそれぞれ個人の能力値を表した物よ。それで、『それ以外』に何を知ったの?」
「・・・この世界の、根底。お嬢様しか、知りえていない、この世界の真実。それ以外にも、この世界についての事です。」
「あら、カデンツァ様はそんな事まで『必要な知識』としてアリスに植え込んだのね。」
痛みが薄れて行くのを実感しながらアリスは唸る。
「今のは、一体何だったんですか?」
「今の?昨日の夜使えるようになっていた魔法よ。魔法名〘神の与えし知識〙、カデンツァ様がその者に必要と判断した知識を与える魔法よ。」
「・・・この頭痛は処理能力のキャパオーバーか。」
アリスに与えられた知識はかなりの容量であり、また、その幾つかはまだ、閲覧しようにも不可能と閲覧が出来ないでいた。
「スキルやステータスについての詳しい解説は・・・」
〘ただ今、知識を最適化しております。詳しい事はこの世界で戦闘、あるいは狩りを行ってからにしてください。〙
「えぇぇぇ。」
「どうかしたの?アリス。」
困惑するアリスは仕方なくエリスにその事を伝える。
「この魔法、そんな事も可能なのね。流石、古代魔法なだけあるわね。」
「お嬢様は魔法に関してはどれほど何ですか?」
「私?世界に二人しか居ない真古代魔法を使える魔法使いよ。もう一人は王国の教会でシスターしてるわ。にしても、戦闘経験を積まないといけない、となると、アリスは知識関連か何かでスキルを持ってるかもね。」
「そんなんですかね?取り敢えず、朝食にしましょうか。アレが来るのは今日の何時頃でしょうかね?」
そう言いながらアリスは窓の外を見る。
そこには森しか見えないが、アリスは確かに近づいてくる悪意を感じていた。
「相手を森の中で待ってるのなら、場所にもよるでしょうけど、ここから近い森の中の開けた場所なら昼頃には来るわね。」
「なら、それでいいでしょう。時に、殺しちゃ不味いですかね?」
「いえ、寧ろ殺して森の養分にしていいわ。」
容姿が美しい少女と少女に見間違える少年はその姿からは想像もつかないほどあっさりと殺すことを前提に話をする。
「お嬢様、取り敢えず朝食を食べたら時間をください。武器の調整を済ますので。」
「私は魔法使いだけど、アリスはどんな武器を使うの?」
エリスの問いかけにアリスはニヤリと笑みを作るとスカートのポケット(に見せ掛けた異空間)から己の武器を取り出す。
「この世界には無い、異世界の戦争の主兵装ですよ。魔法と同等か、それ以上にこの世界で脅威になるかも知れない物です。説明するのは見てから、の方がこちらとしても楽ですので、楽しみにしていて下さい。」
その笑みは、獣のように獰猛だった。
「そう、なら楽しみにしているわ。私の『牙』がどんなものなのか。」
「さて、朝食を作るのでちょっと待っててくださいね。」
そう言いながらアリスはにこやかに笑う。
「・・・もう、今日の夜にでも襲って既成事実作ってしまおうかしら。予想以上に好みだったわ。」
その笑顔を見て、エリスが少し頬を赤らめたのをアリスは気づきながら、気づかないふりをしていた。
勿論、エリスの小声も、キチンと聞こえているが、アリスは使用人として主に不利な事はしないで朝食を作る為に一階に降りていった。
「一目惚れ、とはまた、我ながら乙女チックね。にしても、アリス、可愛すぎないかしら?男であの見た目とか最強じゃないの。」
アリスが降りていくのを確認してからエリスはアリスの寝ていたベットに寝転びゴロゴロ転がる。
「確かに、召喚の時の条件で生涯を共にするって言ったけど、アリスは従僕と主としてと思ってるのでしょうね。」
エリスは起き上がり、アリスの使っていた枕を抱きしめて溜息をついた。
一階ではアリスが朝食を準備しながら静かに呟く。
「・・・お嬢様、この家意外と壁とか薄いの気がついて居るんでしょうか?いや、これは僕の聴力が高いだけか。全く、調整をミスるとこれだからプライバシーはしっかりしないと。」
アリスには二階のエリスの呟きもハッキリと聞こえていたし、〘昨日の夜〙の会話も聞こえていた。
「眠っていても周りの音や声を感知できる能力を身につけたのは失敗だったか。でも、無かったらアッチじゃ、何処かで死んでたしなぁ。」
〘なら、どうするんだい?〙
アリス以外が、居ない場所にも声が響く。
否、それは、アリスにしか聞こえていなかった。
「どうすると言われても、話しますよ。それで?さっきの魔法で与えられた知識をそちらで塞き止めたのは何でですか?」
アリスはその声に驚いた素振りを見せず平然と対応をする。
〘何でって、先にワタシが見とかないと対処も何も無くなるでしょ?それとも、彼女にとって都合の悪いことを化け物がしてもいいの?〙
「基本的に、勝手な事はしない癖によく言いますよ。お前も、僕も、何ら変わらないでしょうに。」
アリスは声の主に溜息をつく。
「それで、何時、お嬢様に姿を見せるんですか?」
〘ん〜。そうだなぁ、アリスがピンチの時?〙
「なるほど、来るのは直ぐですね。」
〘・・・もうじき彼女が降りてくるわ。ワタシは消えるとしましょう。それと、この世界ではそうね、五十口径で敵はオーバーキルよ。ただ、貫通式より炸裂式の方がいい。ぐちゃぐちゃになった方がワタシも食事が楽。〙
「そうですか、なら、そうしましょう。多分、六十口径は使わないで終わりそうですね。」
アリスは遠くに居る殺す対象の気配を感じながら、獰猛に笑う。
そして、その笑みをみて、エリスが鼻血を吹き出しかけたのを見なかったことにした。
丁度いいところで切ったので今回本当に短いです。
一章でアリスについての設定の初期設定は大半を公開するのでアリスは結構急な感じで設定出てきます。
そうしないとストーリー進めにくくなるんです。
許して!
次回、戦闘(戦闘といってない)回の予定です。
だって、アリスの武器的に、ね?