二話
〘フィリア〙は三人の神が作ったと言われている。
三人の神はこの世界の大地を作るとそれぞれが、それぞれ生命を作り上げた。
カデンツァは人族を、そしてその人族を元にしたいわゆる亜人種を作ったとされる。
エルフ、ドワーフ、セイレーン、竜人族、精霊種、人族。
ダートは魔族を作り出したとされている。
そして、三人目の神は他の二神が作り出した生命を気に入らず、自らを分けた異形の化物―――〘落とし子〙を作り出し他の生命を駆逐しようとした。
しかし、他の二神とその二神が生み出した種族達は手を取り合い戦ったが、苦戦を強いられ、最後は二神が力を与えた勇者が現れ、三人目の神を封印する事に成功した。
そのため、三人目の神は今なお邪神と呼ばれ恐れられている。
アリスは読んでいた本を閉じると、エリスの方を見る。
「何と言いますか、御伽噺みたいですね。」
「伝承や神話なんて、そんなものよ。」
この世界の事をエリスが話そうとしたが、面倒くさくなった(本人談)ので〘フィリア〙に書かれている本をアリスに渡し、アリスが今まで読んでいた。
アリス本人は何故に文字が読めたのかが気になったが、その瞬間脳裏におちゃらけた女神様が浮かんだので何となく納得する。
「何か気になったことはあった?」
「そう言えば、三人目の神は名前出てきて無いですけど、なんて言うんですか?」
「ああ、それね。名前はどの書物にも載ってないの。邪神としか書かれていないわ。」
紅茶を啜りながらどうでもいい事の様にエリスは言う。
「そもそも、その本だと邪神の落し子を除く種族全てが手を取り合ったとなっているけれど、今の世界では魔族は人族の敵として扱われているし他の種族も、人族からは化物の様に扱われているの。」
「化物?」
「そう、化物。人族以外の種族はそれぞれ種族特性を持っているの。エルフなら優れた魔法制御技術や弓の才能、ドワーフなら高い筋力や防御力に鍛冶の才能と言った特性。魔族は高い魔力と身体能力が特性ね。それを持たない人族からしたら恐怖なのでしょうね。」
その言葉にアリスはなるほどと呟く。
「人の性とでも言いますか、何処の世界でも人は自分より、強いものを見ると忌避するんですね。」
「そういう事。人が特性を持たない理由も分からないで僻み、恐れているのよ。馬鹿馬鹿しいことこの上ないわ。」
二人は揃って溜息をついた。
エリスもアリスも、どちらもハッキリと人と言う物を理解しているが故の物だった。
「あと話すことはこの世界の主要な国とかかしら、他はその時になったら話せばいいわね。」
エリスはこの世界の大国のことを話していく。
他種族にも比較的平等な認識をする、ここ百年前くらいに出来た国・・・ガリバザル王国。
千年近く続いてきた強固な軍事力を誇るフィリアNo.1の大国・・・帝国。
人族至上主義を掲げる国・・・コザーリュ公国。
その三国以外にも小国が点々とあり、それらはダーディクス大陸にあり、人族は基本的にはダーディクス大陸に。
それ以外の種族の大半―――魔族は除く――はダーディクス大陸と大河を挟んだ向いに存在するマニュリゼラ大陸に居る。
他種族の僅かはガリバザル王国とその近辺に住んでいる。
その為、他種族の技術を身につけガリバザル王国は僅か百年そこらで大国へと成長している。
魔族は何処にいるのかと言えば、暗黒領域と言われているダーディクス大陸とマニュリゼラ大陸の間の大河を降りていくとある終着点に居ると言われている。
最も、帰った者が数名しか居らず、暗黒領域に向かうには、険しい山々を越えねばならない。
「この世界の種族のいる所としてはこんな所ね。あ、あとこの世界には魔物が居るわ。」
「魔物ですか、やっぱりゴブリンとか?」
「何がやっぱりなのかは分からないけどゴブリンとかオーガとかよ。」
「魔物は邪神の落し子とは違うんですか?」
その問いにエリスは一冊の本を渡す。
タイトルは『子供でも分かる、魔物と落とし子の違い』。
「ちなみにそれ、タイトルに反して大人でも学がないと理解に困るわよ。」
「タイトル詐欺ですね。」
「もういい時間ね。続きは明日にしましょうか。その本は明日の昼までに読んどいてね。あと、朝食はある食材使っていいわ。」
遠まわしに朝食を作れと言われているがアリスは気にした様子もなく頷く。
アリスはエリスと二階に上がり、それぞれ部屋に戻る。
「あ、メイド服以外の服がない。」
アリスは渡されたメイド服以外の服がないことを思い出し、どうするか悩み暫く寝るに寝れなくなる。
メイド服脱いで寝て朝エリスが下着だけの状態の自分を見る可能性を考えてだ。
「男が女物の下着だけ着けて寝ているとか、酷い光景ですね。」
蝋燭を消してメイド服のまま寝る事にしたアリスは暗い部屋の窓から外を見て静かに呟く。
「いい月だ。さて、おやすみなさい。」
月明かりのみが部屋を照らすなか、アリスは静かに寝息を立て始める。
◇
月明かりのみが唯一の光源である夜の森に建つ家の前でエリスは月を眺めながら夜風に当たっていた。
その目は何処か遠くを見ている。
「血の、臭いがした。あの子、少なくとも数十人は殺しているわね。」
誰に言うでもなくエリスは呟く。
アリスが、どんな人間かを、彼女は出会った瞬間から理解していた。
「目的の為なら手段を選ばない、私と同じ化物に近い者。いえ、化物なのかしら?」
良心など、目的の為なら捨て去れるタイプ。
自分の目的の為ならそれ以外は気にも止めずにいれるだろう普通の人から見れば異常者。
それが、エリスが初めて見た時に抱いたアリスの感想だった。
それは、エリスにとっても都合がよかった。
自分を決して裏切らないと思ったから。
自分は彼を利用しようと考えている。
「その事に気付いているのでしょうね。」
それでも、彼は自分に仕えることを選んだ。
「私は従僕を、アリスは主を。」
『そう、君とアリスは互いを求め合っているのさ。』
エリスの独り言に答えが返ってくる。
エリスは動かずに月を見ながら問う。
「誰かしら?」
『秘密、いずれ多分少ししたらわかる事だから。』
「人、じゃないわね。化物が何のよう?」
『夜は化物の時間だからね、出てきたの。まぁ、貴方も同類でしょうけど。』
エリスの前に赤黒い霧状の人影が現れる。
目の部分は紅く爛々と輝いていた。
「貴方・・・そう。きっと、そうなのでしょうね。」
『同類同士惹かれ合う理由、分かったでしょ?』
霧状の人影はクスクスと笑う。
「そうね。なら、聞いてもいい?」
『どうぞ。』
「明日、多分人をアリスに殺させるわ。貴方はどう思う?」
『アリスが決めたならワタシは知らないよ。アリスは君に会うために生きてきたんだ、戦えるさ。殺せるさ。エリスの望みは叶うよ。アリスの願いが叶う様に。』
エリスは霧状の人影の〘独り言〙を聞き静かに笑う。
「あなたが何であれ、長い付き合いになりそうね。」
『違いないね。それと、助言だよ。アリスは他人を嫌う。自分が気に入ったもの以外ならあれは躊躇いなく殺す。アリスはマトモに見えるけど異常者だよ。貴方と一緒。』
それを言うと人影は音も立てずに消えていった。
「明日、話さないとね。私の事。そしたら、あれの正体、分かるかしら?」
その言葉に対する返答はなく木々のざわめきだけがエリスに耳に届く。
「・・・寝ましょうか。」
フィリアについての説明とエリスは何かを抱えているし、アリスも普通の学生ではないというお話。
詳しくはいずれ。
そもそも、普通の学生は主なんて探さないしそんな簡単にメイド服と女性用下着なんて着ないけど、そういう事じゃないからね?
多分強引な設定も出てくるかもしれないけど見逃してくれると嬉しいなぁ(明後日の方向を見ながら)
投稿が遅くなったのはリアルが忙しかったからです。申し訳ありませんでした。
次はできるだけ早めに投稿するつもりですので。