一話
異世界に召喚されたとしてまず最初にする事は何か?
それは情報集めだろう。
寧ろそれを怠れば死ぬ事さえあるのだ。
勝てるべき戦いに負けることすらある。
生き残れる戦争で死ぬ事もある。
情報とは何物にも変えがたい生きる上で必要不可欠な物に他ならない。
それ故に、アリスもまた情報を集める。
情報源はこの世界で初めて会った少女―――エリフィアス・ファブロレイルと名乗ったアリスの主。
「ああ、アリス。私の事はエリスと呼びなさい。親しい人達からはそう呼ばれているの。」
「畏まりました、エリスお嬢様。」
互いの軽い自己紹介を済ませたアリスはエリフィアス――エリスにここがどのような世界かを聞く。
それに対してエリスはどうしてここに居るかを理解しているかを聞き返す
アリスはカデンツァに会ってからエリスに会うまでのことを話した。
「この世界のことを、カデンツァ様からはどれ位聞いてるの?」
「この世界が最短で半年後に滅ぶ、とか位しか聞いてないですね。詳しい事はこっちで出会う、主・・・お嬢様に聞けばいいと言われました。」
「・・・そう、ならいいわ。カデンツァ様が話した事も含んで話をしましょう。」
そう言いながらエリスは何処かに歩き出す。
「着いてきなさい。すぐ近くに住んでるから家の中で話をするわ。ついでに、貴方の服もそれじゃ無理でしょ?着替えを出すわ。」
そう言われ己の服装を見たアリスは驚愕した。
着ていた制服が所々破けていたのだから。
「多分、召喚に服が耐えきれなかったのね。」
「お手数おかけします。」
「気にしないでいいわ、必要な事でしょ?その分も働いてもらうわよ。」
そういう割には口元がにやけているエリスを見てアリスは小さく
「・・・何を着させられるんだろう。」
とボヤく事しか出来なかった。
ちなみに、服が破けているのはカデンツァが仕込んだ事だとアリスが知るのはだいぶ先になってからである。
◆
アリスがエリスと出会った時と同じくして、アリスのクラスメート達もまた他の場所に召喚されていた。
先にカデンツァから聞いていた彼等は取り乱すこと無く召喚をした王女と国王の話を聞いていた。
「こちらの勝手で呼び出して申し訳ないが、どうか力を貸して欲しい。我々だけではどうしようもないのだ。」
そう言い頭を下げた国王を前に勇者達の中の一人が立ち上がり言う。
「では、こちらの条件を一つ飲んでいただきたい。」
彼は真月 加地。
彼等、アリスのクラスメート達、勇者達の中で中心的な存在でありアリスの親友であった。
「何かね、その条件は。」
「私は、戦いましょう。ですが、戦いたくないと、そう言う者達には強制はしないで欲しい。それが条件です。」
その条件に、国王は少し考えてから答える。
「その条件を飲もう。済まないな、お主、名は何と言う?」
「真月 加地と言います。」
「勇者カジよ、どうか頼む。この世界を救ってくれ。」
「無論、そのつもりです。」
加地にそう言う国王に勇者達の幾つかが声を上げる。
「俺も戦います。」
「私も。」
そんな言葉が次々と上がり最後にはクラスメート全員が戦う事を選択した。
加地は己のクラスメートを見てため息を付く。
「馬鹿野郎が、せっかく人が親切に戦わなくていい様にしてやったのに、そんなに戦いに身を委ねたいか。」
「馬鹿ね、アンタがそんなんだから私達も選んだのよ。それに、隅っこで存在が薄くなってる先生の事も考えなさいよ。」
「ちょっと〜梨奈さん?先生は女神様に皆さんの選択の邪魔をしちゃいけないと言われるから黙ってただけですよ?」
そこからワイワイ騒ぎたす勇者達を見て国王と王女は、笑う。
「仲がよろしいのですね、皆様。」
「彼等なら救ってくれるだろう。」
それから、国王は加地に声を掛け他の勇者達を部屋に案内させ加地と二人で話を出来るようにした。
「それで、何でしょうか、国王様。」
「いや、何故戦う事を選んだのかを聞きたくてな。」
「そんな事ですか、それは一つです。我が神が私に戦えと仰られたのです。戦う以外に何があるというのでしょうか?」
他の勇者達の前で見せていた笑みとはかけ離れた獰猛な笑みを浮べながら言う加地。
「私は、我が神、カデンツァ様に一度生命を救われているのです。」
彼は、クラスメート全員が知っているが、熱心な信者なのだ。
幼い頃に死にかけた時に己を救い導いてくれた神に信仰を捧げている彼を勇者達の中に居ない彼の親友である少年は笑ってこう言った。
『この狂信者が。』
と。
国王は、そんな加地を見て、心底安心した。
「なるほど、なら大丈夫だろう。他の者はまだ分からないがその彼等のリーダー的立ち位置の君は我々を、この世界を救ってくれる。君と、我々が崇める神、カデンツァ様の為に。」
「私は、神の力ですからね。それは、それだけは誓いましょう。我、神を愚弄する愚者が、この世界の滅びの原因なのでしょう?」
そう言い国王に頭を下げ謁見の間から出ていく勇者(狂信者)を、国王は安心した目で、柱の影にいたこの国の大臣は忌々しいという目で見ていた。
謁見の間から出て他の勇者達の元へ案内されいる時、加地は窓から見える月を眺め前を歩く兵士に聞こえない小さい声で呟く。
「私は、我が神に再会したぞ。お前は、自分の主を見つけたか、我が宿敵にして親友。」
その顔は子供が見れば泣きそうな程には良い笑みを浮かべていた。
多分、皆口を揃えてこういうだろう。
『勇者のする顔じゃねぇ』
と。
◇
「へっくち!」
夜の森に愛らしいくしゃみの音がした。
「あら、随分と可愛らしいくしゃみをするのね。」
「すみません?」
「いえ、似合っているわよ。あなたの容姿や声と相まって、女の子にしか思えないくらいには。」
ここで、アリスの容姿に触れておこう。
銀色の美しい髪をした、少女のような顔立ちに線の細い体型をしているのがアリスの見た目である。
声も男としてはかなり高い女性よりの声。
アリスという名とその容姿が相まって裸にでもならないと普通男とは思えない。
付いている(何がとは言わないが)のを見てようやく男として認識されるのだ彼は。
「それにしても、お嬢様よく僕が男と分かりましたね。」
「あのね?私が呼んだのは従僕なの。従僕。召使の男を意味する言葉よ?」
「ああ、なるほど。で、僕に何を着せる気ですか?男だからって男物の服着せる気無いですよね。」
エリスはバレたかと小さく呟くと笑いながらアリスの方を向く。
「そりゃあ、そうよ。だって私の家男物の服ないし。それに、男物の服、着ても似合わないでしょ?」
「よく言われましたよ。それ。」
エリスの住んでいる家は森の中に建っているそこそこ大き目の二階建ての木製の家だった。
そこでアリスは手渡された服をみて溜息をつく。
「そんな予感はあったんですよ。従僕とか言われてましたし、それは事実ですし、お嬢様は僕の主ですし。それでも、それでも僅かに希望を抱いてたのに渡された服がメイド服って!しかも、なぜに真紅!?」
アリスが手に持つメイド服は総じてシンプルなデザインのスカートは膝ぐらいまであるフリルがほとんど無い物、真紅に染まっているという物だった。
「安心して、それは未使用品だから。家に住み込みでいるメイドが間違えて買ったサイズの小さいメイド服だから。色は私とお揃いでしょ?そういう事。」
「それは、安心ですが、何故に女性物の下着まで!?誰のですかこれ!着ませんよ、流石に!」
さらにそのメイド服と共に渡された物は女性物の下着、パンツだった。
「貴方、多分下着までボロボロでしょう?それに、男物のパンツ履いたメイドって何か嫌じゃない?ああ、それも未使用品よ。私の履いているのの方が良かった?」
「いえ、結構です。」
「大丈夫よ、ブラジャーまで付けろとは流石に言わないから。似合うだろうけど。」
「嬉しくないです。」
アリスは諦めて空いている二階の使っていない部屋に行き、メイド服と下着を履いてエリスの居る一回まで降りてくる。
「恥ずかしいですし、下着が慣れません。」
「大丈夫、似合ってるし、下着は直になれるわ。」
「もう、それでいいです。そう言えば、さっき言ってたここに住んでいるメイドさんは?」
「あの子は街に買い物に行ってるわ。ついでに王国の情報集め。詳しくわ、また話す時が来たら話すわ。」
エリスは日本ではダイニングキッチンと呼ばれるであろうと調理場から少し離れたところに大き目のテーブルと椅子が置いてある部屋までアリスを連れてくると椅子に座る。
「さて、これからこの世界のことを話すからアリス、キッチンから勝手にお茶淹れなさい。棚の二段目に紅茶の茶葉とか入ってるから。」
「畏まりました。少々お待ちください。」
アリスは言われた通りに紅茶を淹れに行く。
そのアリスの横顔は何処か嬉しそうだったが、それは主に仕える喜びを感じているからであり、決して弄られて喜んでいる訳では無い。
ちなみに、彼の淹れた紅茶をエリスはとても気に入ったのだが、それによって買い物に行っているメイドが後に私の仕事が!と嘆く事になるのは別のお話である。
説明とかそう言うのは次回なんじゃ。
アリス君は付いてるんですよ(何がとは言わない)。
勇者達は多分これからしばらく出番ないです。
あ、勇者の加地くんは黒髪にガッシリとした筋肉質の身長190弱です。
多分次出てくる時は神父服きてる。
某神父とか元じゃないですよ?偶然ですよ?
本当ですよ?
Amenとは言わないからね。
言ったらキリスト教の方に殺されかねんし。
武器は二振りの聖剣です。