霊安室
なぜ、こんなことになったんだろう?
あれから、何度同じ事を考えたか分からない。
なぜ、あんな事故が起きたのか、なぜ、今日なのか。
なぜ、よりによって優香が死ななければならなかったのか。
奈津子さんは変わり果てた優香の姿を見て人目をはばからずに号泣していた。
僕は、血にまみれた優香のスマホを握り締めたまま、ただ、歯を食いしばって立っていることしか出来なかった。
「……ゆ、うか……なんで、こんなことに……」
奈津子さんの嗚咽が胸に突き刺さる。
なぜ、こんなことになったんだろう。
僕は顔に白い布を掛けられた優香を見てまたそう思った。
ただ、僕が彼女を美容室に迎えに行ってさえいれば、彼女が母親と一緒にタクシーに乗りさえすれば、もしくはもう一つ早い列車か遅い列車に乗ってさえすれば……ただ、あの列車に乗りさえしなければ、優香は死なずにすんだ。
もしかすると、僕が昨日プロポーズしなかったら、優香が振袖を着ることも、この列車に乗ることもなかったのか。
僕は、布を取って優香の顔を見た。
綺麗な顔をしている。でも、そこには昨日までの生気はない。
ただ、冷たくて、硬い。
生きていないという状態が、本当に空っぽなんだと実感した。
命の宿っていない、ただの人の姿をした肉の塊。
「ゆう……か……」
僕は、こみ上げてくるものを堪えきれずに、優香の抜け殻にすがり付いて泣いた。
僕の涙が優香の頬を濡らしても、優香は何の反応も示さない。
僕と優香が抱いていた夢は粉々に崩れた。
優香がいてくれたからこそ、僕の人生には意味があった。
優香がいなくなった今、僕は生きる意味なんかあるんだろうか?
絶望と喪失感に打ちのめされて、僕は泣き続けた。
いっそこのまま、優香と一緒に死ぬことが出来たらどんなにいいだろう。
僕にとって、優香が一緒にいてくれさえすればもう何もいらなかった。
それなのに、こんなささいな願いさえ叶わない。
僕はもう、生きていたくなかった。