事故現場2
事故車は酷い状態だった。窓という窓は砕け散り、ガラスの破片がそこかしこに散らばっていた。
それだけじゃない。ひしゃげた車体からは赤い滴がしたたり落ちてそこらじゅうの砂利を赤く染めていた。
オレンジ色の制服を着たレスキュー隊員が次々にけが人を運び出し、担架に乗せる。あまりにも出血が酷い人間は、救急隊員がその場で簡単な止血だけをして、搬送役の人間に引き渡す。
僕は自分の体が激しく震えているのを感じていた。歯ががたがたと打ち鳴らされる。
「お、おい、大丈夫か!?」
僕の様子を見た上田が心配して訊ねてくれたが、僕は言葉にならず、ただうなずくしか出来なかった。
その時、振袖姿の若い女性が運び出されてきて、僕は息が止まるかと思った。
「き、君!?」
上田の制止を振り切って彼女のもとに駆け寄ったが、幸いにもそれは優香ではなかった。
とはいえ、あまりにも無残な姿だった。
綺麗に髪を結い上げて、化粧をして、着付けをしてきたであろう彼女は、服装も髪も乱れ、血で汚れ、首はありえない方向に曲がって、すでに事切れていた。
救急隊員が彼女の見開かれたままのまぶたを閉じさせ、そっと毛布に包んだ。
「要救助者の死亡を確認。君、彼女を搬送してくれますか?」
自分に言われていると気付くまでしばらく時間がかかった。
「は、はい」
上田と二人で担架を運んでいる途中で奈津子さんに会った。
奈津子さんは僕らが運んでいる担架を見て固まった。
「ま、まさか優香が!?」
「違います! 優香じゃありません! でも……優香のことはまだわかりません」
「優香と……連絡が取れないの!」
奈津子さんはずっと優香のケータイに電話をかけ続けていたに違いない。
それでも出ない。その理由として考えられる選択肢はそう多くはない。
僕は目の前がすうっと暗くなるのを感じた。
「もしかしたら、ケータイを落としたのかもしれません。いや、もう病院に運ばれていて、治療を受けているので電話に出られないのかも」
精一杯前向きにいくつか可能性を挙げてはみたが、どれも優香が事故に巻き込まれたという前提の上での希望的観測だと口に出してから気付いた。
奈津子さんは、要救助者の応急処置場に優香がいるかもしれないと走っていった。
僕と上田は遺体を一時的に安置している上田の会社の倉庫に向かった。
その途中で上田が言った。
「……優香っていうのは、君の恋人か?」
「はい。婚約者です。……今日、短大の卒業式なんです」
「だから、この人を見て取り乱したのか」
「振袖を着ると言っていましたから」
「……振袖姿の女の子はたくさんいた。もう、病院に運ばれた娘もかなりいる」
彼が何が言いたいか分かった。その優しい気遣いに目頭が熱くなる。
「ありがとうございます」