TEL 優香視点
「あ、もしもし賢斗? あたし」
「え? 誰って……分かってんでしょ!」
「……なに、詐欺なら切るって? もう! 優香だから切らないで!」
「なにがおかしいのよ! もう! からかわないでよ!」
「親しき仲にも礼儀あり!? 分かったわよぅ! じゃあ、これからは名前言えばいいんでしょ! ふんだ。イジワルッ」
「あ、うん。そう、今終わった。今から大学に行くから。賢斗は今どこ?」
「ええ!? 早! あたしまだ列車にも乗ってないよ」
「……あー、えっと、たぶん11時半ぐらいにそっちの駅に着くと思う。ふふ、あたしもかなり化けたからね! もしかしたら気付かないかもよ~」
「ヒント? だめだめ! 教えないよ。彼女の顔ぐらい見分けがつかなきゃ許さないからね」
「あ、そうそう。ママとは駅で待ち合わせてるから、たぶんママに先に会うと思うけどよろしくね!」
「あははは! うっわー、すっごい困った顔してるでしょ今? なんか目に見えるよ」
「大丈夫だって! ママは絶対賢斗のこと気に入ると思うし、賢斗もきっとうちのママのこと気に入るよ」
「ああ、いいよ。……えーと、背はあたしと同じくらい。ぽっちゃり系で紺のスーツに胸にバラのコサージュつけてるから。わかりそう?」
「うん。うん。あ、ところでお昼食べた? 食べてなかったら、駅のロータリーにあるカフェで三人で食べよ?」
「えへへ、お見通しね。うん。寝坊しちゃって朝抜いたからおなかすいちゃった。あ、駅に今着いたからそろそろ切るね。たぶんあと30分ぐらいでそっち着くから」
「うん。それじゃね」
通話を切ったスマホには昨日賢斗が買ってくれた黒猫と古鍵のストラップが揺れている。思わず顔がにやけそうになるのを必死に抑えながら、あたしは通い慣れた駅の改札をくぐった。