扉を抜けて
「……す、すごい」
「それがあなたのおよそ24年分の命に相当する輝きです。……今ならまだこの生命力をあなたに還元することも出来ますが、本当にいいのですか?」
79ー24=55。これから先、どんなに健康に気を遣っても、僕の寿命は55歳で尽きることになる。それでも、優香のいない世界で79歳まで生きるより、優香と一緒に55歳まで生きる方がいい。
「たった24年分の生命力で優香を救えるなら安いものだ」
「分かりました。では、こちらへ」
エステルに手招きされて壁のそばに立つと、そこには突然ドアが現れた。
複雑な意匠をこらしてある古めかしい観音開きのドア。そこには、小さな鍵穴があった。
「これが、メビウスの扉。ここを通り抜ければ、あなたは24時間前に戻っています。さあ、あなたの鍵でメビウスの扉を開けてください」
僕は、鍵穴に鍵を差し込んだ。回すと、カチッと小さな音がした。
軽く押すと、扉はなんの抵抗もなくすっと開いた。
僕はその中に足を踏み入れようとして、エステルの方に向き直る。
「エステルさん。ありがとうございます。あなたが機会を与えてくれたから、優香ともう一度やり直すことができます。僕の寿命は短くなったけど、その分内容のある人生を送りたいと思います」
僕がそう言うと、エステルは優しい笑顔でうなずいた。
「……どういたしまして。優香さんとお幸せに」
「……あなたは、何者なんですか?」
僕の最後の問いには、彼女は笑って答えてくれなかった。
そして、僕はメビウスの扉に足を踏み入れた。
ふわっと浮遊感。
僕の手の中で、生命力の光が急速に衰えていく。
青白い光が徐々に白くなり、黄色くなり、赤くなり、最後に消えた。
そして、僕は意識を失った。




