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白く深い霧の中で優香に出会った。


優香は悲しそうな微笑を浮かべていた。


僕は彼女に手を伸ばしたが、彼女は身を翻した。


僕はあわてて優香を追いかけた。


ほんのちょっとでも目を離したら見失ってしまいそうな深い霧の中を彼女は進んでいく。


僕は必死になって走ったが追いつけなかった。


やがて、優香は鋲の打たれた分厚い木の扉の前で立ち止まった。


僕が隣に立つと、急に霧が晴れた。


僕と優香は、森の中の広場に建つ、古びた洋館の扉の前に立っていた。僕はこの建物を知っている。


優香お気に入りのカフェ兼雑貨屋の『カフェ・アベルトゥラ』


しかし、こんな早朝に営業している筈もなく、案の定、扉にはCLOSEの札が掛かっている。


優香がなにか言いたげな顔で僕の方を振り返った。


優香、こんな早い時間に来てもやってないよ。また昼間に来よう?


優香はただゆっくりと首を振る。


優香が僕の方にすっと右手を差し出してきたので、僕は両手を受け皿のように差し出した。


すると優香は僕の手になにかをぽとりと落とした。


見るとそれは、小さな鍵だった。


僕が再び顔を上げると、そこに優香の姿はなく、僕だけがただ1人で立っていた。


優香? 優香!?


呼びかけても返事はない。


その時、ふいにどこからか聞き慣れたメロディが流れてきた。


優香のスマホの着メロと気付くまでそう時間はかからなかった。


どこで鳴ってるんだ?


慌てて辺りを探し回る。


近くで鳴っているのに、なかなかそれを見つけることが出来ない。


くそ、どこで鳴ってるんだ!?


そう心の中で叫んだ瞬間、僕は目を覚ました。






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