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日も落ちた夜の中央区は、今日も生還できたことを喜び合う冒険者たちとそれらをターゲットにした酒のつまみなんかを主に売っている屋台なんかで賑わう。
そんな歓喜に満ちた笑顔を尻目に見ながら俺は自分の住処兼事務所に帰宅する。
備え付けたポストに入っていた依頼書を取り出し、小屋と呼んでも差し支えないようなボロい二階建ての建物へと入っていく。
ここがこの世界にきてから必死でお金を貯めて買った俺の家だ。
元々は宿屋の一室から始めたこの仕事。辛いこともたくさんあったし、本当に喜びに溢れて毎日が輝いたこともあった。
それでも、だからこそ最近になって思うのだ。本当にこれでよかったのかと。異世界に来てすぐは右も左もわからずにたくさんの人に迷惑をかけた。
自分がどこかの小説の主人公のようにお客様気分であったことについては否定できない。
心の片隅で異世界というものを肯定し切れていなかったのだ。そんな重苦しさをごまかしながら楽観視してこれまで生きてきたし、これからも生きていくのだろう。
異世界にきてから元の世界では考えられない不可思議な現象に沢山遭ったし、死にかけたこともあった。
それでもここまで来れたのは自分の努力なのだろうし、他人の優しさでもあるのだ。
異世界の常識を変えることも魔物相手にチート能力で無双することも、奴隷ハーレムなんてつくったり料理で天下をとることも、取り柄も特技もこれといった必殺技もない俺にはできない。
異世界に来てみても元の日本で読んでいたWEB小説の主人公のように、何でもかんでも実際にはやりたいようにはできない。
……、それでも。俺にしかできないことはあるはずだし俺だからこそできることもきっとこの世界なら存在するはずだ。
常識ではあり得ない。現実でなんて起こらない。理屈なんてわからない。
でも自分の感じた想いを俺は惰性でなんて変えたくない。
これはなんの能力もない男子高校生の異世界での日常の物語。
非日常であることが日常となってしまった上での夢物語だ。
気持ちのいい結末なんてあり得ない。何でもかんでもチートで解決できるほど自惚れられる力もあいにく持ち合わせてなんかない。
ただあるのは自分の感性にとって理不尽なことを見逃したくない。諦めたくない。我を通したい。
これから語るのはそんな我が儘すぎる俺だけのファンタジーだ。