日常と始まり
聖凛高校には
多忙な生徒会役員のための
「パートナー制度」なるものがある
この制度はひと役員につき2人まで
仕事の手伝いをする
パートナーを付けられる
と言ったものである
内申点や役員に近付くきっかけに
なるため毎年希望者が後を絶たない
そのため選考会の
エントリーには条件がある
1人以上の教員に
推薦を受ける必要があるのだ
先生に推薦してもらおうと
生徒が右往左往する様は
一種の名物である
1-Cの扉が勢いよく開かれた
尚「おはよう!」
龍「あぁ、おはよう」
芽「今日も元気だな」
尚「体育祭も生徒会選挙も
終わったんだ
俺たちは自由じゃないか!」
龍「自由なのは良いが
なにか忘れていないか?」
尚「え?」
龍の言葉に考え込む尚
尚「うーん...あっ、しまった!
社会のプリントがまだだ!」
龍「ほらよ」
尚「サンキュー、龍!」
芽「尚も相変わらずだな」
芽羅が呆れたように笑うと
担任の美奈先生が入ってきた
美「HR始めるわよ
パートナー選考会のエントリーは
今週の金曜日までだから頑張ってね
このあと海森くんと光月くんは
永岡先生のところに
プリントを取りに行ってね
それから.........」
2人はHR後に職員室に来ていた
尚「永岡先生
プリント取りに来ました」
永「ありがとう
そこのを持って行ってくれ
......今日は何人に
交代頼まれた?」
龍「7人です」
選考会にエントリーするために
彼らも必死なのだ
永「今年も大変そうだな」
龍「そう思うなら
名指ししないでくださいよ...
俺たちはエントリーには
興味ないんですから」
永「ははっごめんゴメン」
悪いと思っていない顔で笑う
永岡先生の胸元で校章が光った
尚「あれ?そのバッジは
推薦をした証拠じゃないですか
誰を推薦したんですか?」
永「龍弥君だよ」
龍「あぁ、俺ですか...
...て、ぇえ!?」
尚「龍、いつの間に
エントリーしたんだよ?」
龍「してない!
興味ないって言っただろ
...先生、勝手に
エントリーしたんですか?」
永「もちろん」
龍「何がもちろんですか...」
いろいろ聞きたかったが
予鈴が鳴ってしまい
2人はしぶしぶ職員室を後にした
その日の4時限目は
担任の美奈先生による英語だった
美「...となります
では次の文章の訳を光月くん」
尚「はい、えっと...」
龍(そういえば今日は
訳文写していないな)
芽(尚、大丈夫なのか?)
尚(全然大丈夫じゃない!)
そこに救いの鐘が響いた
美「あら、もう終わりね
じゃあ次はここからにしましょ」
尚「ふぅ」
龍芽((やっぱりか))
授業が終わり一気に
賑やかになった教室に
隣のクラスの悠介が入ってきた
悠「おーい、海森いるか?」
龍「ん?吉岡、どうしたんだ?」
悠「これを届けに来たんだ」
そう言って
校章入りの封がされた
真っ白な封筒を手渡した
龍「あぁ、ありがとう」
龍は言葉とは裏腹に
しかめっ面しながら受け取った
悠「じゃあな」
扉が閉じると同時に
教室にいた全員が集まって来た
男「龍、どういうことだ?」
龍「それが...永岡先生が
勝手にエントリーしてたんだ」
全「えぇーっ!?」
女「いいなぁ」
男「永岡先生もダメかぁ」
ほとんどの人は
羨望と落胆の声を
漏らしながら散っていった
龍「はぁ...芽羅
なんか面白そうな話無いか?」
芽「うーん、生徒会室前に
女性の幽霊が出る、てのは?」
龍「よし、今日はそれにするか」
放課後、龍と尚の2人は
生徒会室前にいた
尚「ここか?」
龍「そのはずなんだが...」
見えるものは生身の人間ばかり
龍「ん...力が弱いな
夜に来ないと無理そうだ」
尚「なぁんだ
ならとりあえず帰るか」
帰ろうとしたそのとき
生徒会室の扉が開いた
龍尚「「えっ...」」
紅「あれ?今日じゃなかったよね?」
龍「き、今日は幽霊の噂を聞いて
来ただけです」
紅「あぁ、最近騒いでるもんね
ところで、なんで敬語なの?
あたしたち同級生じゃない」
龍「あ、いや、そのぉ...」
紅葉の言葉に
明後日の方向を見る龍
尚「なぁ、今日じゃない、て
何のことだ?」
紅「エントリー者の招集のことよ
エントリー者に渡してる封筒には
その日時が書かれてるの」
尚「へぇ〜」
悠「紅葉、なにしてるんだ?
......この2人は?」
紅「幽霊の噂を確かめに
来たんだってさ」
悠「ふぅん...
で?なに勝手に
情報バラしてるんだ?」
紅「あはは...聞いてた?」
悠「全く...」
龍「大変そうだな」
悠「すぐに他人事じゃなくなるさ」
龍「...なんでそう言い切れるんだ?」
悠「推薦だけならともかく
教師にエントリーされるなんて
珍しいからな〜」
龍(せ〜んせ〜!?)
悠「ま、今日はとりあえず
寮に帰ったらどうだ?」
悠介に示され時計を見ると
門限五分前だった
龍「あっ、ヤバ!」
尚「じゃ、またな!」
2人は慌てて走り去っていった
金曜日の昼休み
龍、尚、芽羅の三人は
昼食を食べながら話していた
芽「で?その幽霊は
成仏出来たのか?」
尚「いや、それが...」
龍「まだ会うことすら出来てないんだ」
尚「もういないのかもなぁ」
芽「あぁ、それは無いね」
尚「なんでそう言えるんだ?」
芽「まだまだ噂が続いてるからね」
尚「あぁ、なるほど
...て、成仏してないこと
知ってたんじゃないか」
そんな他愛ない会話をしながら
6時限目の美奈先生の授業をむかえた
美「じゃ、この英文を...」
女「...美奈先生?」
急に言葉を失った美奈先生に
女子生徒が心配そうに声を掛けた
美「う...?あら?ここは何処?」
彼女は人が変わったように
辺りを見渡し始めた
龍「...マズイ、みんな後ろに!」
龍の一声で全員が一斉に
教室の後ろに集まった
尚「龍、どうなってるんだ?」
龍「また憑依されたみたいだ」
芽「もしかして...生徒会室前の?」
龍「多分な...芽羅、こっちは任せた」
芽「へ?あ、おいちょっと待て!」
龍はその言葉を無視して
憑依された美奈先生がいる
教壇へと飛び出して行った
芽「いやいや、無視すんな!
どうすんだよ?」
龍「大丈夫、結界は張っておいたから
それを維持をしてくれればいい」
芽「全く仕方ないな...」
これ以上は言っても無駄だと
判断した芽羅は手を前に突き出し
結界の維持に努めた
そうこうしている間に
龍が美奈先生と会話を交わし
情報を集めていった
どうやらとある教師に
会いたいという思いが
この学校に引きつけたらしい
今夜連れて行こうと約束し
幽霊は美奈先生から出ていった
龍「おっと!」
途端に力が抜けた美奈先生を
龍は倒れる寸前で支えた
美「ん...え?私どうしていたの?」
龍「今年三度目の依り代です
その人も解決一歩手前です」
美「良かったわ、頑張ってね
さて、じゃあ授業に...」
龍「すみません、芽羅の後ろに
居てください」
全「えっ?」
全員が疑問の声を上げる
とりあえず言われたとおり
美奈先生は芽羅の後ろに下がった
龍「おい、そろそろ
出てきたらどうだ?」
獣「ほぅ、気付いていたか」
龍の呼び掛けに応じて
扉の陰から狼と熊を
合わせたような獣が現れた
龍「何の用だ?こっちは忙しいんだ」
獣「では手短に済ませるとしよう」
獣はそう言うと
素早く視界から姿を消した
龍「しまっ...ぅぐ...!」
龍の懐に入った獣は
鳩尾に強力な光る球を放った
龍はまともに喰らってふらつきながら
なんとか立ち続けていた
獣「まだ立つか、しぶとい奴だ」
龍「うっ.........」
獣がそう言って
笑いながら龍に近付くと
獣「さぁ一緒に...なっ!?」
急に倒れてしまう
女「龍くん、どういうこと?」
龍「いや、俺はなにも......」
少「いやぁ悪かった
この馬鹿が先走って
忙しい時期に迷惑を掛けたな」
龍「へ?え、あ、ちょ...」
少「こいつは回収させてもらうよ
身体への衝撃も治したから
もう問題ないはずだ
じゃ、またな」
突如現れた着物姿の少年は
つらつらと言葉を紡ぎ
問いかける間も与えずに
獣とともに消えてしまった
尚「な、なんだったんだ?」
芽「さぁ...?」
美「て、ぁあ!授業!」
美奈先生が叫んだ瞬間
終わりを告げる鐘が鳴り響いた
美「あぁ...まただわ......」
龍「なんかすみません...」
美「海森くんの所為じゃないわ」
放課後、龍は生徒会室に来ていた
藤「あれ?龍もエントリーしたんだ
君にしては珍しいね」
龍「永岡先生が勝手にしたんだよ」
女「ねぇねぇ聞いた?
幽霊騒ぎがあったらしいよ」
男「あぁ、あの乱闘のやつか」
女「え?話し合いじゃないの?」
男「両方あってたりしてな」
女「まっさかぁ」
藤「...ねぇ龍
まさかとは思うけど...」
龍「...悪いがそのまさかだ」
藤「"あれ"…まだ続けてたの?」
龍「まぁな」
咲「では全員集まったようなので
これより選考会の
説明会を始めます」
説明会が終わって出てきた龍を
尚が迎えた
尚「で?わざわざここに
待機させたってことは
これから一仕事?」
龍「もちろん
まずは職員室に向かうぞ」
尚「あぁ、例の先生を連れてくるのか
ところで誰なんだ?」
龍「俺らの馴染みの先生だよ」
永「あぁ、その人なら覚えているよ
五月ごろに通勤中
偶然会ってハンカチを
拾ってあげたっけな」
龍「その人がどうしてるかとかは
知りませんよね?」
永「実は交通事故で
意識不明の重体になっている
事故現場が
ちょうど通勤経路だったから
知ってはいたんだが
まさかこんなことに
なっているとはね」
尚「生きているなら良かった」
永「とはいえ早く戻さないと
そろそろ身体がもたないはずだ」
龍「さぁ、ここです
音子さん、連れて来ましたよ」
音「こんばんは、かしら?
あぁ、貴方は...!」
永「お久しぶりです
こんな形で再会するとは
思ってもみませんでした」
龍「音子さん、貴女はいま
意識不明の重体で眠っています
今ならまだ戻れます」
尚「でも早くしないと
手遅れになっちまうんだ!」
永「今度は生身の元気なお姿で
お会いしましょう
そのときはどうでしょう
お茶でも一杯いかがですか?」
音「えぇ、もちろん!
楽しみに待っていますわ!」
そう言って姿が薄くなり
彼女は消えていった
尚「良かったな」
龍「正直、永岡先生で助かりました
おかげで彼女も救えたようですし
本当にありがとうございます」
永「いやいや、どういたしまして
明日にでもお見舞いに
行くとしよう」
翌週の月曜日
永岡先生の机には
一輪の花が飾られていた