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「いつもありがとうございます、ロメリアさん」
カウンターに運ばれてきたお菓子を詰めた袋を渡すと、ロメリアさんは「こちらこそ、いつも美味しいお菓子をありがとう」と頬を緩ませた。「バターたっぷりで甘さも絶妙だよね。ミルクティーと一緒にいただくんだ」
明るいブラウンの髪の女の子。透明感のある琥珀色の瞳が綺麗なひとで、わたしたちよりも一つ年上だ。近所にある雑貨屋で働いている。開店間もなくして、最初に来てくれたのがロメリアさんだった。彼女とは年が近いということもあって、よくこの店を利用してくれている。
「ほ、褒めてもおまけはつきませんよ? 両親に比べたらまだまだなんですし」
今までにロメリアさん含め褒めてくださったお客さんは何人かいるけど、何度そういった言葉を聞いてもくすぐったい気分になる。だから、思わず目を背けた。それでも口元が緩み切るのは抑えられなかった。
ロメリアさんは謙虚だねえ、ところでタメ口でいいんだよ、と言う。ヘラリと笑ったのが、気配で分かった。……相変わらずマイペースなひとだ。ちなみに今日の仕事は休みなのだそうだ。
髪をいじり気分を落ち着かせる。改めてロメリアさんに視線を向けると、彼女はカウンターに右腕をつき寄りかかっていて、わたしから見てもだらしない格好をしていた。ていうかそれは営業中なんだからやめてください。今お客さんが少ない時間とかそういうの関係ない。もしロメリアさんが男性だったら、なんだかよろしくない図に見えるような気がした。
昼時を少し過ぎたころだから、人通りは少ないからいいんだけど。それでもロメリアさんの体勢をじっとりと見つめたら、それに気付いてロメリアさんはちょっと苦笑いをした。そうしてゆっくりとカウンターから体を離す。
「おっと失礼。ところでカエデちゃんさ、今度カラメル入荷できないかな。茶葉の。できたらでいいんだけど」
「カラメル……、考えておきます。すぐには難しいかも知れませんけど」
「いやいやー、無理にとは」
「えー、だってロメリアさんにはお得意様でいてもらわないと。大事なお客様だもの」
ロメリアさんはわたしの言葉に満更でもないような表情をした。
だって、定期的に来てくれるし、よく感想や意見を伝えてくれるし。できれば希望にはそいたい。なにより、友だちが増えたようで嬉しいのだ。それを伝えるのは恥ずかしいから、まだ言うつもりはないけど。
さて、とこぼしてからロメリアさんは紙袋を持ち直して、わたしに手を振る。
「それじゃあまたね、カエデちゃん。モミジちゃんは追加分のお菓子作ってるんでしょ? よろしく伝えておいてね」
「あの子マイペースだから、今ごろ紅茶でも飲んでるかも知れません。それじゃ、またお願いしますね、ロメリアさん」
カウンターを離れたロメリアさんが出入り口の扉を開ける。そこにくくり付けたベルが明るい音を出した。午後一時の日差しが眩しい。
通りかかった女性と挨拶を交わしたあとロメリアさんは、こちらを振り返って少し笑うともう一度手を振った。わたしも振り返す。
ロメリアさんが来ると、いつもほっこりする。