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いつだったか、感情が形をなして人を魅せるのだと、そう聞いたことがある。結晶化し宝石のように煌めく美しいそれは、今日もこの大陸のどこかで生まれているのだそうだ。
晴れ渡った空に、乾燥した空気。窓から差し込む、朝の柔らかい光に目を細め、わたしはリビングのテーブルに用意した朝食を並べた。
卓上には、二人分の食事。トーストにスクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコンとサラダ。それから、コーヒーと小振りのオレンジマフィン。
「さて……、モミジ、何してるの? 早くしないとご飯先に食べちゃうよ」
着用していたエプロンを外しながら、未だ姿を見せない片割れの名を呼ぶ。と、向かいの部屋から気の抜けた声が聞こえた。
まったく、とため息をついて、エプロンを椅子にかけてから腰を下ろす。おおかた、焼き菓子をオーブンに入れたあと、一休みしようとベッドで横になっていたんだろう。朝が苦手な彼女は、きっとそのまま微睡んでしまった、というところか。よくあることだった。
――深く空気を吸い込むと鼻腔をくすぐる、甘い香り。
ひと月半ほど前に、わたしと双子の妹・モミジの志望で開いたのは、焼き菓子専門店だった。充満する砂糖やバターの香りは、店頭に出す商品が発するもの。
元々そこそこに有名な菓子店を両親が開いていて、そこでケーキなどを販売していた。わたしたちはそんな両親に憧れをいだいていた。幼いころから焼き菓子店を開くことを夢見ていて、両親の別の店舗で菓子店を開こうという話をよくしていたのだ。
わたしたちの娘だからといって、あなたたちの店も人気が出るとは絶対に思わないこと――夢がまだ夢だった頃から、そう耳にタコができるほど両親に言われてきたし、わたしたちも覚悟していた。それでも実現させるために努力に努力を重ねたのだ。そうして数年もかけてやっと開けた、小さな小さな焼き菓子専門店。
最近新しい生活に慣れてきたころで、客もそれなりに増えた。このままうまくやっていけたら、きっといくらか親孝行もできるし、なによりわたしたちが嬉しい。
ささやかな幸せと喜びとかみ締め、光差し込む部屋の中、もう一度妹の名を呼んだ。