プロローグ3
しばらく動けないのには理由があった。
ハッキリと彼女の顔を見てしまったからだ。
目は二重で睫毛が長い、そのためかぱっちりしている。
唇はぷっくりとしていてみずみずしいピンク色をしていた。
黒のストレートヘアーは肩より少し下に伸びていて艶やかだ。
可愛い。
その美少女の顔が10センチと隔たっていない。
さっきまでの動悸が違ったものになってきた。
この体勢はヤバい。
急いで体を起こす。彼女とは頭一つ分くらい身長が離れていた。
「ねぇ聞いてた? 」
上目遣いで聞いてくる。
そんな目で見ないでほしい。
おかしくなりそうだ。
「ねぇ、ねぇってば。」
「な、何? 」
「お礼するから、あなたのおうちに連れて行って」
「う、うん」
とりあえず連れて帰ることにした。
「手、つなご」
手を出してくる。
拒否なんてできるわけがない。
手を握った。
しかし不満そうに
「こうじゃなくて……」
と指を絡めてきた。
そうして満足げな顔してこっちを見る。思わず目をそらした。
普通なら信号から家まで5分ほどだが、30分くらいかかったような気がした。
家についた。
「おっじゃましまっす~」
と元気に玄関に入る。
さっき車にひかれそうになったと思えない。
しかし返事がないことが不思議に思ったのか彼女は、廊下を歩きながら聞いてる。
「誰もいないの? 」
「うん、俺一人しかいないよ」
「なんで? 」
「ばあちゃんと住んでだけど、1年前に死んじゃって今は俺一人」
「パパとママは? 」
「父親は海外で仕事してる、母親は俺が産まれたときに死んだよ」
「ごめんなさい」
「別に君が謝ることじゃないよ」
廊下を歩き終えたところで話が止まった。
居間に上がり、堀こたつに向かいあって座る。
「広いおうちだね」
「一人で住んでるから広すぎて寂しいよ」
「そっか……」
「そんなことより聞いておきたいことがあるんだけど」
「何? 」
「まだ名前を聞いてなかったね。俺は松下優莉。君の名前は? 」
「瑠花だよ」
「じゃあ次、どこから来たの?」
「まだ言えない……」
「じゃあ次、なぜ俺が君を助けるとわかったの? 」
「それも言えない……」
「君は一体何者なの? 」
「これ以上は契約がないと話せないの、ごめんなさい」
「君の目的はなに? 」
「あなたと契約すること……」
契約?なんだそれ?
「契約って? 」
「それを説明したら、契約を結ばなきゃいけないの、秘密を知ってしまった人間は契約するか、それとも存在を消すしかないの」
秘密?存在を消す?
「契約の中身も分からないのに契約しなきゃいけないの? 」
「お願い……私を信じてほしい」
「じゃあもし仮にも契約とやらをするとして、なぜ俺を選んだの? 」
「あなたじゃないといけないと思ったから」
理由になっていない。
「理屈じゃないんだね?」
「うん……」
俺は大きくため息をついて決心した
「わかった、契約する。だから全部話してよ」
「う、うん」
彼女は一回うつむき、そしてこちらを見直した。
「まず第一に私は人間じゃないの、信じてもらえないかと思うけど」
人間じゃない?意味が分からない。しかし話を最後まで聞かなければ分からない。
「人間じゃなくてね、私は悪魔なの。」
ますます混乱した。
「悪魔? 」
「うん、見た目は人間とほとんど変わらないからイメージと違うかもしれないけど」
「じゃあ人を呪ったりとか殺したりとか……」
「そんなことしないよ、それに今の私には呪ったりとかそういう力はないから」
「それで悪魔はこっち居るものなの? 」
「普通はいないよ、悪魔は心が空っぽな存在。だから人の欲望を食べて心を保っているの。普段は常闇にいてそこまで届く欲望を食べているの」
「なんでこっちに来たの、常闇でも欲望が手に入るんでしょ」
「暗闇から抜け出したかったから、でもこっちにはそう長くは居られないから……」
「じゃあそれと契約が関係あるの?」
「うん、悪魔は欲望を食べてる、だけどこっちに居ると欲望にさらされ続ける。食欲を止められない。そのうち体が必要以上の欲望を食べ続けたら暴走してしまう。だけど人間と契約した場合その人間からしか欲望を食べることが出来なくなるの」
「それで食欲をセーブするってこと」
「うん」
「わかった改めて契約しよう」
まぁ全部聞いてしまったし、彼女が嘘をついているようにも見えない。
契約することにした。