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短編集

うな旅

掲載日:2026/10/05

うなぎちゃんのカチューシャの短編

 テクテク



 ヒョコヒョコ



 フリフリ



 尻尾を揺らしながら歩いているのは……


 うなぎ。



 カチューシャの上に鰻が乗っている、と言った方が正しいのか。


 尻尾でバランスを取りながら、カチューシャを器用に動かして歩く。


 まるでカチューシャが足の様である。




 そんなカチューシャうなぎ。


 名前は『うな重』。



 ある日空から降ってきて……鰻屋の娘、鰻木みうなちゃんの付けていたカチューシャにぶつかり、くっついてしまったのだ。



 カチューシャと鰻がくっついてしまったものの、本人?のうな重は……歩きやすくて気に入っているみたいである。


 そんなうな重は、蒲焼きのタレが大好物。


「うまい!」

「美味いのじゃ!!」

 口癖の様に叫び、美味しさを体全体で表現するうな重。



 蒲焼きのタレを飲んで、満足気なうな重。

 普段は鰻屋である、みうなちゃんの家に居るのだが……


「……さて」

「今日もうなさんぽ、かの」

 そう言ってうな重は、ドアノブを器用に回して外へ飛び出す。


 カチューシャうなぎの散歩、うなさんぽ……という訳である。


「そうじゃな……」

「今日は趣向を変えて」

「うな旅!」

「と、いきますかの」

 天気の良い空に向かってうな重はそう叫んだ。


 今日は散歩では無く、旅との事……はてさてどうなることやら。




 テクテク



 ヒョコヒョコ



 フリフリ



 尻尾を揺らしながら歩く、うな重。


 いつものうなさんぽコースであれば……みうなちゃんや、その友達であるヒロちゃん、文化ちゃん、嬢子ちゃんのよく居る古墳休憩スペースへとおもむくのだが……今日はどうやら違う様である。


 普段通る商店街から一本外れ、裏道へと入る。


「フッフッフ」

「これぞ新規ルート開拓」

「うな旅じゃ!」

 謎に自信満々に叫ぶ、うな重の声が裏道に響き渡る。



 すると……


「げ!」

 その声を聞き、変な声を上げる……子供。


「姉ちゃんの友達の上に居る、カチューシャうなぎかよ!」

 その子供、魚太郎。

 以前うな重を振り回して遊んでいたり、その仕返しで粘液弾である尾汁玉をうな重に喰らわされたりと、うな重にとっては因縁の相手である。


「また現れおったな、わっぱ!」

 うな重は魚太郎を警戒しながら、そう叫ぶ。


 その裏道に、一気に緊張感が走る。



 先に動いたのは……


 うな重!


「尾汁玉じゃ!」

「くらぇぇい!」

 身体表面の粘液、ムチンを尻尾に集め、それを相手に向かって飛ばす技。



 シュバァァァッ!!


 うな重の必殺尾汁玉が魚太郎に襲いかかる!



「そうそう何度も喰らうかよ!」

 以前もその技を見ていて、前回の反省を生かし、魚太郎は上体を反らしてうな重の粘液を上手く躱す。


 だが……



「おぃ、魚太郎何騒いでるんだよ」

 その後ろから声をかけたのは、その友達のベジ太郎。


 魚太郎は魚屋である、西尾鮮魚店の息子。

 ベジ太郎は商店街内にある、八百屋の息子である。


 二人はよく一緒に連れ歩く仲であったが為に、今回もベジ太郎は魚太郎の側を歩いていたのだ。


 魚太郎がうな重の粘液玉を上手く躱してしまったが為に、その尾汁玉がベジ太郎を襲う。



「はぁ!?」

 魚太郎が死角となり、粘液が見えた瞬間にはもう目の前にあった。


 ビシャァァアアァァァ!


「ぅぼぁぁあ!」

 防御体制も取れず、粘液の直撃を受けるベジ太郎。



「ぁぁぁ……」

 走馬灯が流れ、周りがゆっくりと流れていく感覚だけが頭をよぎる。



「ベジ太郎ぉぉぉ!」

 倒れゆくベジ太郎の身体を受け止めながら、叫ぶ魚太郎。



「……」

「何やってんのよ」

「相変わらず仲いいのね」

 そんな二人を冷静に見て、ツッコミを入れる女の子。

 コロネちゃんである。


 なんだかんだでいつも一緒に居る同級生三人組。



「どうせまた、うなぎさんをイジメてたんでしょ」

「自業自得よ」

 二人に対してちょっぴりクールに、そう言い放つ。



「ぇ〜、だって」

「あいつ、なんかムカつく顔してるじゃん」

 魚太郎はベジ太郎を抱えたまま、言い訳を始める。



「かわいそうでしょ!」

「カワイイものをイジメちゃダメよ」

 コロネちゃんは魚太郎とベジ太郎に、少々強めに言う。



「……はぃ」

 女の子に頭が上がらないのは、姉が二人いるからなのか。

 魚太郎は強めに言われて、シュンとしながら返事した。



 そんな魚太郎が振り向いて裏道を見ると、カチューシャうなぎはもう見えなくなっていた。




 テケテケテケ



 ヒョコヒョコヒョコ



 ……フリフリ



 尻尾を揺らしながら小走りで、裏道の角を曲がるうな重。



「……」

「危なかったじぇ」

「あのわっぱは、危険じゃからのぉ」

 魚太郎から、からくも逃げ出すことが出来たうな重。


 少し息を乱しながらも落ち着いて来たようで、息を整えながら辺りを見る。


 いつもと違う裏道を歩き、新鮮な気持ちで風景を見渡す。


「ふむ」

「なんだか新しい道を開拓していると」

「旅、って感じじゃのぉ」

 冒険の旅なのか、ちょっぴり気分が高揚しているうな重。


 そんなうな重の背後に……



「!?」


 ダッ!!


 危険を察知したのか、うな重は咄嗟に振り向きながら跳ねて逃げる。



「き、貴様は!」

 うな重が間一髪で躱したのは、爪による攻撃。



「……ニャ〜」

 その鳴き声、そう猫だ。


 確か前回のうなさんぽの時にも居た、三毛の猫。


 この猫も、うな重を狙う一人?一匹だ。

 うな重が美味しそうなのか、ニヤニヤしながら見つめてくる。


「次から次へと!」

「モテモテじゃのぉ!ワシ!」

 謎な自信を振りまきながら叫ぶ、うな重。



「だが、そう簡単に……」

「やられはせぬぞ!」

 先程の魚太郎の一件から、テンションが変な方向に上がっているうな重。



「尾汁玉、連弾!」


 ドドドドドッ!!


 うな重の尻尾が踊るように、粘弾を何度も振りまきながら発射される。

 


「ニャ!!?」

 うなぎだからと油断していたのか、大量に襲いかかる粘液に怯む三毛猫。



 ビシャァァアァァァ!!


 身軽にその三毛猫は、粘弾の群れを跳んで躱す。


 シュタッ……



 三毛猫が着地し辺りを見回す……が、そこにはもううな重の姿は無かった。


「……にゃぁ」

 ご馳走を逃したからか、三毛猫は残念そうな鳴き声を上げた。




 テケテケテケ



 ヒョコヒョコヒョコ



 ……フリフリ



 再び尻尾を揺らしながら小走りで、裏道の角を曲がるうな重。



「……」

「ふぃ〜、危なかったじぇ」

「今日はハニーが居なかったから、危うくやられる所だったじぇ」

 以前はお友達である埴輪のハニーの機転で危機回避したのだが、今日はうな重一人旅。


 少し息を乱しながらも落ち着いて来たようで、静かに息を整えながら辺りを見る。



 グゥゥゥ……



「はぅ……」

「調子に乗って尾汁玉を撃ちすぎたじぇ」

「ムチン(粘液)の残量が少なくなっちゃったじぇ〜」

 テンションを上げすぎて、大暴れした反動が来ている様である。



 ……クンクン



「……この、香ばしい香り」

「鼻をくすぐる芳醇な香りは!」

 そう言って見上げると、そこはみうなちゃん家のうなぎ屋さんの前。

 その赤い暖簾がたなびいていた。



「ありゃ?」

「戻って来ちゃったじぇ?」

 そう、闘いながら逃げ回っていたら、いつの間にか出発した筈のうなぎ屋に戻って来ていたのである。



 ガラガラ……


 鰻屋の扉が開き、


「あれ?」

「うな重、お散歩行ってたんだ」

「おかえり〜」

 そう言って笑顔で迎えてくれたのは、うなぎちゃん……こと鰻木みうなちゃん。


 すると懐をまさぐり、何やら取り出すみうなちゃん。

 もちろんそれは……


「蒲焼きのタレ!」

「はいどうぞ〜」

 そう!うな重は、みうなちゃんの家の蒲焼きのタレが大好物。

 しかも今はムチン切れで喉がカラカラ。


 もうこれは……

「いただくのじゃ!!」

「辛抱たまらんのじゃ!!」

 そう叫んで蒲焼きのタレの容器にかぶりつく。


 器用に蒲焼きのタレをゴクゴクと飲むうな重。


 そして……


「うまい!」

「美味いのじゃ!!」

 いつもの決め台詞が商店街にこだまする。


 なんてことない日常が旅になる、そんな平和な昼下がりだった。


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― 新着の感想 ―
ォオオオ❣❣うな重のうな旅だぁ!! 魚ベジとのアクションがコミカルで面白かったです❣❣ 良いコメディ作品ですね♡(≧▽≦)♡
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