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魔法使いの僕が勇者の剣を抜いてしまった話

作者: 甘城ソウヤ
掲載日:2026/05/05

 『いつになったら抜いてくれるんだ』


 俺は勇者の剣。名前はまだない。正直抜かれるのが楽しみだ。

 抜いてもらえたら、そのときは柄に嵌めてある青い輝石に力を込めて

 『名前をつけて一生かわいがってくれ!!』

 とお願いするつもりだ。


 『あーでも、人、こねぇなあ』


 辺りはどこにでもありそうな薄暗い森。

 太陽は眩しいし、そよ風が俺を掠めると、めちゃくちゃ気持ちがいい。

 ギャッ、ギャッ、と今日も爽やかな鳥の鳴き声が聞こえる。そろそろ、真っ黒なデカいトカゲが近くを歩くはずだ。

 おっ、来た来た。


 ズズーン! ズズーン!


 『いいねえ……』


 この振動が唯一、直立している俺を心地よくマッサージしてくれる。

 この揺れなら錆びないはずだ。気持ちいいし。


「なあ、ダークドラゴンにバレないように来れた?」

「ああ、俺のスキルなら、ロジャーは俺に抱きついてればバレねぇよ」


『なんだあれは?』


 一人は鈍い青色をした鎧。

 もう一人は後ろから手を回しているが、ピッタリと鎧にくっついているマント。

 そこらを歩いているムカデのような格好で、二人は俺のところに向かってきた。


『いやいやいや。無理だ。万が一抜かれたら、ムカデとともに冒険なんてできるわけがねぇ!』


 一瞬で俺は判断し、ぐっと力をいれ、地面に突き刺さる――気持ちになる。

 ミシリ、とも言わない地面に俺は呪いの言葉をかける。


『今だけでいい。頼む! 地面よ、俺を引きずり込んでくれ!』


 何も変わらない地面のすぐそばに生える草が、そよそよと虚しく揺れる。


「えっほ、えっほ」

「えっさほいさっさ」


 軽快な掛け声とともに、鎧とマントが、ずんずんと近づいてくる。


『来ないで! 俺、これからいい子にするから』


 誰かが持ってた、小さく紐のついた女神像とかいうものを思い浮かべ、俺は必死に祈ってみる。

 これで奴らは跡形もなく消えるはずだ。

 なんか前に来た僧侶とかいう奴がやってたし、俺にも絶対出来る。


 だって勇者の剣だし。


 そんなことを一生懸命考えていたら、すぐそばで「えっさほいさっさ」という声が響いてきた。

 ついでに小さく地面も揺れる。


『畜生! 一ミリも効いてねえじゃねえか!』


 あぁ、もう駄目だ。奴らが来やがった……。

 スッと俺にさしかかる影。

 まるで死神のような影に、俺は魂を込め、ガチッと身体を固める――気持ちになる。


「わぁ、この剣、すごく綺麗だね」


 マントの息が俺にかかる。

 いや、俺も何を言ってるかわからねえが、マントに息かけられたことないから、これしか言えねえ。


 目を閉じてた気持ちになった俺は、そっと目を開いてみる。

 あ、紺色のマント……じゃなくて人だったか。


「おい。俺が抜かないとな」


 なんか鎧が喋ってる。

 鎧はダンジョンの両脇に突っ立ってるもんだろ?

 歩いて移動するもんじゃない。そもそも持ち場を離れんなよ。


 大きく目を開けたつもりで、俺は鎧を見る。

 頭からつま先まで、どう見ても鎧だ。

 今は鎧も進化してんのか?


 なら俺だって進化できるだろ。

 なあ、女神像、お願いだ。


 あっ、女神像なんて効かないんだった。

 ……畜生。なにが女神像だよ。

 まだムカデのほうが信じられるわ。もういいわ、バカ野郎。


 そのとき、俺の柄にするりと手がかかりそうになり、パチッ、と音がした。

 諦めかけた俺に女神像が力をくれたのか、しっかり鎧を弾いてくれた。


『……も、もしかして、殺ったか!? ありがとう! 女神像!』


「うっわなんだよ。これ」

「静電気だよ。ランス」


 いや待てよ。

 今まで俺を抜きに来た奴らは、人間じゃなかったか?

 待てよ、鎧なんかが、俺ごときを抜けるわけがねぇじゃないか。


『ハァン! 俺と変わらねぇなら、脇に立って護衛してろ。このクソ鎧』


 じろりと俺は鎧の顔を見上げる。

 俺の眼力が効いたのか、鎧は頭を外す。


『えっ……は?? 人間じゃねーか!!』


 なんでだよ。なんでムカデになって、鎧の振りして来てんだよ。

 ……あれ? マントも人間だっけか。


 女神像、なんで邪魔してくれてんの!

 ……俺、もう女神像、信じねえ。


 鎧、ああいや多分……勇者は籠手も外し、手袋も脱いで地面に触る。

 なに? なんの儀式? 俺、土まみれ?


「そうそう、地面に直接触れば、静電気は抜けると思う」

「ふうん。てかさ、なんでこの鎧、いちいち静電気たまるんだよ」

「雷撃付与だからしょうがないよ。でさ、これ、早く抜いてよ」


 セイデンキ。なんだその名前。

 俺はいつのまにか、かっこいい技、習得してたの?


 つ、と俺の柄に触れる指。

 おい、技習得しました! ならちょっと時間くれよ!

 いきなりメインイベントを始めるんじゃねぇ!


「僕、ちょっと抜いてみようかな」


 マントが俺を掴み、もち上げようとする。


『ちょっ、待てって!! まだ心の準備できてねぇんだよ! マント、ストップ! ああいや、ステイか! 何だっけ! ああもうどっちでもいいから止まれよマント』


「あれっ、ランス。なんか言った?」


『鎧に聞くんじゃねえ。俺の言う事を……聞けっ! このボロマント!』


「いや、俺、静電気を地面に捧げてるとこだけど? 早く取れろよ静電気」

「なんかさ、バリトンボイスで『ボロマント』って聞こえた気がして……」

『い、いや、俺……ボロマントとか言ったこと、人生で一度もねぇよ!』


「ん? あれっ?」


 ぐらりと俺の視界が揺れる。


『え、なにこれ? デカいトカゲ? 俺だけ揺れてる?』


 待てよ。ちょい、待てよ。


『あ、これ抜かれてるやつだ! やめろやめろやーめーろ!!』


 すぽん! と、小気味いい音が辺りに響いた。


『終わったぁ……』

「あ、え? 嘘でしょ!! ランス! どうしよ、抜けちゃった」


 辺りに、めちゃくちゃ気持ちいい、そよ風が、吹いた。


「あぁ! なんで魔法使いのお前が、勇者の剣を!?」

『バカか畜生。てめえ、無駄に触ってんじゃねえよ。このボロマント』


 カラン! 俺が喋った直後、ボロマントは俺を投げ捨てた。


『やりやがったな! 覚えてやがれ。このクソボロマント』

「ランス、この剣……喋るぞ!」

「はぁ、なに馬鹿なこと言ってんだよ。俺が持つ」


 そう言って鎧は俺に向かってくる。

 ガシャン、ガシャン、と無駄にうるさい音が近づいてくる。

 俺は、重くなるよう踏ん張った――気持ちになる。


「ぐ、ぐぎいいい。なんだこれ、重くて持てねぇよ」

「嘘でしょ。普通の剣より軽かったのに」

『えっ、マジで?』


 鎧は賢いふりして、顎に手を当て何かを考えている。


「あ。俺分かっちまった」

「え、なに?」

『俺の能力がすごいって? まあそれほどでも……』


 そう言うと、鎧は小さく溜息を吐き、諦めたように呟いた。


「抜いた人しか扱えない剣なんだよ。その勇者の剣てやつは」

「へっ……?」

『マジで?』


 再びそよ風は……流れなかった。

 凍りついた勇者の剣の塚に、黙ったままの三人。


「僕、魔法使い! 剣なんて扱えないよ! 杖ならワンチャン……」

『え、俺、剣だけど? まさか、勇者の杖……爆誕?』


 鎧はマントに、俺を持つよう命令していた。


「ほんとに、本っ当に、ランスさぁ、無理なの?」

「フルパワーで持ち上げたけど、俺は無理!」

『俺の気合い勝ちだな』


 へちょ、と崩れ落ちるマントはうつむいて、肩を落とす。


「ねえ、ランス。僕がこの剣持っても、仲間でいてくれる?」

「ああ、もちろん。俺たち、幼馴染だろ? ロジャー」

『……なぁ。いい空気のところ申し訳ねえが、そろそろ俺を持ち上げてくれねえ? ムカデが俺に乗ってきそうなんだよ』


 マントが俺をゆっくりと持ち上げる。


『悪くねぇな。よろしく頼むぜ。マント』

「ひぃっ! 気のせいじゃない。やっぱ喋るよ……この剣」

「あぁ? 伝説の剣だし、なんか違うんだろ。ちぇっ」


 じとりとカビが映えそうな目で、俺を見る鎧。


「あ、いいこと考えた。二人で握ればなんか起きるかも?」

『意味ねぇよ。戦えねーじゃねぇか』


 ビクリ、と鎧が震える。いや、正確にはガシャリ、だった。


「え、あ? ……バリトンボイス、だな」

「聞こえたの!? ランス!」

『なんだよ。俺は俺ボイスだけど? なにそのバリトンって……』


 そのとき、俺は気づいちまった。


『俺の名……バリトン??』

「えっ、そんな名前になんてしないよ!」

「違う! なんだよそのどうしようもない名前」


 ズズーン!!


 俺達が騒いでいたのに気づいたのか、デカいトカゲがぐるりと振り返る。


「ひえっ、やばいよ! ランス!」

「くそっ、ここまで気づかれたらやるしかねえ!」

『だから名前、決めてくれよ!』


 マントは一瞬黙り込む。

 そして俺を正眼に構えた。


「あのダークドラゴンを倒して! バリトン(仮)!!」

『バリトンかっこかりってなんだよおおおおお!』


 俺はマントに投げられ、デカいトカゲの首に合った逆鱗を狙って飛び込んだ。


『さようなら、だ。トカゲよ、いいマッサージだったぜ』


 ズバッと俺は逆鱗を切り裂き、トカゲは一気に倒れる。


「わっ! やった!!」

「あぁ、俺が使えればよかったのに……」

『早く、早く拾ってくれよ。血濡れは錆びるんだよおお』



 結局そのまま三人(?)は冒険を続け、魔王を倒したのか、倒さなかったのか。

 でも平和は訪れたらしい。




『なあマント。そろそろ「かっこかり」を外してもいいんじゃないか?』

「なんだって? 儂、もう耳が聞こえづらくなってきたんじゃ!」


 はぁ、と互いにため息を吐く。


「……まあいいか、マントで」

『……いい加減、仮定やめてバリトンでいいのによぉ。このボロマントめ』



 おしまい

長編で以下の作品も連載しています。もしよければそちらもどうぞ。

『元勇者だけどたまに猫になる魔王と一緒に暮らしてレストランやってます。この関係は誰にも言えません』

https://ncode.syosetu.com/n5538lt/


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