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第8話 極限の身体強化

討伐したゴブリンの右耳を麻袋に詰め込み、俺たちはテオの魔導車で辺境都市への帰路についていた。

車内には、どこか落ち着かない沈黙が漂っていた。

後部座席でステラが俺の脚をじっと見つめ、運転席のテオも頻繁にバックミラーで俺の顔を窺っている。


「……なんだ。俺の顔にゴブリンの血でもついているか?」

俺がたまらず尋ねると、テオが大きなため息をついた。


「いや、血どころか汗一つかいてないことに呆れてるんだよ。ねえルシアくん、さっきの異常な動き、一体どういう理屈なの? 身体強化って、筋力や体力を少し底上げするだけの初級魔法だよね?」

「私も知りたい。ルシアくんの魔法、魔力の総量はそこまで多くないのに、発揮される威力が明らかに計算に合わないの」


ステラも身を乗り出してくる。

全属性を操る天才と、魔道具開発の天才。二人の鋭い視線を浴びて、俺は少し考えてから口を開いた。


「理屈というほど大層なものじゃない。ただ、魔力の使い道と範囲を極限まで絞っているだけだ」

「絞る?」


「一般的な身体強化は、全身を薄い魔力の膜で覆って全体を強化するだろう。俺も最初はそうしていた。だが、それだと出力に限界がある」

俺は足元に置いた木の枝を拾い上げた。


「だから、魔力を一箇所に集めることにした。例えば剣を振る時、全身の魔力を刃の先端、目に見えないほど細い一点にのみ圧縮するんだ。面積を万分の一にすれば、威力は一万倍になる。ただそれだけだ」


俺の説明を聞いて、ステラが絶句した。


「ただそれだけって……魔力を体内から物質の先端に移動させて、さらに極小の点に留め続けるなんて、とんでもない精密操作だよ? 普通の魔法使いなら、一秒も維持できずに魔力が暴発して自爆しちゃう」

「事実、俺も最初の数年は木剣ごと手を何度も吹き飛ばしかけたからな。だが、毎日一万回素振りを五年も続ければ、呼吸と同じように自然にできるようになる」


俺が平然と答えると、今度はテオが頭を抱えた。


「普通は手が吹き飛んだ時点でやめるんだよ。君のその執念、やっぱり狂ってるね。じゃあ、あのテレポートみたいな移動も同じ理屈?」


「ああ。魔力を両脚の筋肉と、地面に触れる足裏の一点にのみ極限圧縮した。爆発的な反発力を生み出して、その推進力だけで一気に距離を詰める。脚に負担がかかるから多用はできないが、五十匹のゴブリンの隙を突く数秒間なら問題ない」


俺がそう締めくくると、車内は再び静まり返った。

テオとステラは顔を見合わせ、信じられないものを見るような目で俺を見つめている。


「どうした?」

「……ううん。ルシアくんのやってることが、魔法の常識からどれだけ外れているか、本人が一番分かってないんだなって」

「そうだね。魔法が一つしかないからこそ、その一つの限界値を物理法則の壁ごとぶち破っちゃったんだ。君を追放したお父さんやガルス兄さんが知ったら、泡を吹いて倒れるんじゃないかな」


二人は呆れたように笑い合った。

俺自身は、まだまだ極みには程遠いと思っている。だが、こうして自分の積み上げてきたものを理解し、笑ってくれる仲間がいることは、悪くない気分だった。


「それよりテオ、例の鋼の大剣の件はどうする」

俺が話題を変えると、テオの表情が引き締まった。


「王都の刻印が入った武器が、辺境のゴブリンに横流しされている件だね。ギルドマスターに直接報告しよう。下手な受付を通すと、もみ消される可能性があるからね」


俺たちは頷き合い、魔導車は夕闇の迫る辺境都市ランカへとスピードを上げた。

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