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第5話 全属性の暴走

ルシアの住むあばら家から少し離れた、開けた岩場。

そこはかつて、ルシアが素振りで岩山を消し飛ばした跡地だった。


テオが持参した魔導計器を岩陰に設置する中、ステラは不安げに自分の両手を見つめていた。


「本当に、ここで魔法を使ってもいいの? もしルシアくんやテオくんを巻き込んでしまったら……」


「気にするな。周りには森しかないし、何よりこの黒狼の耐久テストも兼ねているからな」


ルシアは漆黒の直剣を軽く素振りしながら、穏やかに促した。

王都の学園では、少しでも魔力を漏らせば大惨事になりかねないため、ステラは常に自身の力を抑え込み、息を潜めて生きてきた。

全属性を持つがゆえの呪い。

だが、ここは辺境だ。彼女を恐れ、嘲笑う者は誰もいない。


「……わかった。やってみる」


ステラが目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

その瞬間、辺境の空気がビビリと震えた。


彼女の周囲に、凄まじい密度の魔力が可視化されて渦を巻き始める。

赤、青、緑、黄、白、黒。

炎、水、風、土、光、闇。

六つの基本属性すべてが、一切の詠唱なしで同時多発的に顕現した。


大地が鳴動し、無数の岩の槍が隆起する。

空には暗雲が立ち込め、豪雨と氷柱が混ざり合って降り注ぐ。

それらを飲み込むように、紅蓮の炎と漆黒の闇が竜巻となって天に昇っていく。


「す、すごいな……! ガルス兄の炎風複合魔法なんて目じゃない。これは純粋な全属性の同時発動だ」


岩陰から計器を覗き込んでいたテオが、興奮と戦慄の入り混じった声を上げた。


だが、ステラの表情は苦悶に歪んでいた。

膨大すぎる魔力が、彼女自身の制御能力を完全に凌駕し始めていたのだ。


「だ、だめ……っ! 魔力が混ざり合って……抑えきれない!」


ステラの悲鳴とともに、六つの属性が空中で衝突し、融合を始めた。

本来、相反する属性を混ぜ合わせる複合魔法は、緻密な計算と高度な制御術を必要とする。

しかし、ステラの規格外の魔力は、それを暴力的なまでに強制結合させてしまった。


六色の輝きが一つに圧縮され、上空に巨大な光の球体が生まれ落ちた。

周囲の空間が歪み、重力すらも狂い始める。


全属性複合魔法、星雲崩壊。

意図せず生み出されたそれは、この辺境の森どころか、遠く離れた王都すらも消し飛ばしかねない、文字通りの厄災だった。


「逃げて、ルシアくん! テオくん! これ以上は、私……!」


絶望の涙を流し、膝から崩れ落ちるステラ。

自分がまた大切なものを壊してしまう。その恐怖に彼女が目を塞ごうとした、その時だった。


「見事な出力だ、ステラ。だが、少しばかり的が大きいな」


嵐のような暴風と重力異常の中、ルシアは静かに歩み出た。

右手には、テオが鍛え上げた漆黒の剣、黒狼。


ルシアは自然体で剣を上段に構える。

初級魔法、身体強化。

ただ自身の身体能力を上げるだけの底辺魔法。

だが、ルシアはその魔力を極限まで圧縮し、己の肉体から黒狼の刃の先端へと延長させた。


「ルシアくん、だめっ……!」


ステラの制止の声と同時に、巨大な厄災の球体がルシアに向かって落下を開始した。


ルシアは、息を吐きながら黒狼を振り下ろした。


キィン、という澄んだ音が鳴った。

それは、空間そのものが切断された音だった。


次の瞬間、森を飲み込もうとしていた六色の厄災が、中央から綺麗に真っ二つに分かたれた。

分断された魔力の奔流は、行き場を失って空中で霧散し、無害な光の粒子となって辺境の空に降り注ぐ。


全属性の複合魔法という、世界を滅ぼしかねない神の如き一撃を。

ルシアはただの一振りで、文字通り物理的に叩き斬ったのだ。


「……ふむ」


光の雨が降る中、ルシアは黒狼の刀身を確認した。


「少し刃こぼれしたが、全く折れる気配はないな。さすがはテオだ、最高の剣だよ」


ルシアが剣を鞘に納めて振り返ると、ステラは呆然と座り込んだまま、ポロポロと涙をこぼしていた。


「ステラ?」


「ルシアくん……無事、なの……? 私の、あんな無茶苦茶な魔法を……」


「ああ、いい特訓になった。お前は魔力が多すぎるだけだ。ここで毎日限界まで魔力を放出し続ければ、そのうち自分に合った適量や制御のコツが掴めるはずだ」


ルシアはステラの前にしゃがみ込み、その頭をポンと撫でた。


「暴走しても気にするな。俺が全部、斬ってやるから」


その言葉に、ステラは弾かれたように顔を上げた。

今まで、彼女の力は恐怖の対象でしかなかった。誰もが彼女を拒絶し、遠ざけた。

だが目の前の青年は、彼女の全力の魔法、そのすべてを真っ向から受け止め、ただの一振りで無に帰してみせたのだ。


彼がいてくれるなら。

自分の魔法を、もう恐れる必要はない。


「……うんっ……! 私、ここで頑張る。ルシアくんと一緒に、もっと魔法の練習をする!」


ステラは涙を拭い、満面の笑みを浮かべた。

岩陰から出てきたテオも、興奮冷めやらぬ様子で黒狼のデータ収集に走り寄ってくる。


魔法が少なすぎる俺。魔法がないテオ。魔法が多すぎるステラ。

かつて学園の裏庭で身を寄せ合っていた三人の落ちこぼれは、この辺境の地で、世界を揺るがす最強のパーティーへの第一歩を踏み出したのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!もし『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ブックマークや下部の☆から評価をいただけますと、執筆の大きなモチベーションになります!

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