第23話 敗者の告白
へたり込むガルスを見下ろしながら、俺は黒狼の切っ先を彼の喉元へ向けた。
「さて、ガルス兄。一つだけ聞きたいことがある」
「ひっ……!」
かつて俺をゴミのように見下していた兄は、物理的な死の恐怖を前に情けない悲鳴を上げた。周囲の騎士たちも、俺の異常な力とアマルの威圧感に気圧され、誰一人として動こうとしない。
「王都の武器を大量に辺境へ横流しし、魔物を武装させていたのは、第一魔導騎士団の仕業か? お前たちは辺境で何をするつもりだった」
俺の問いに、ガルスはガチガチと歯を鳴らしながら首を横に振った。
「ち、違う! 私たちはただ、上層部からの命令で動いただけだ! 辺境都市ランカが魔物と結託して反乱を企てているから、粛清しろと……!」
「武器の横流しについては?」
「知らない! 本当だ! だが……ここ数ヶ月、父上や軍の首脳陣の様子が、明らかにおかしかったのは事実だ。彼らは得体の知れない黒い外套の男を王城に招き入れ、何か得体の知れない儀式や、奇妙な物資の調達を繰り返していた……」
黒い外套の男。
間違いなく、廃砦で遭遇した魔族のザガンだ。
テオが険しい顔で俺の横に並んだ。
「ルシアくん、彼らは単なる捨て駒だ。王都の中枢は、すでに魔族に掌握されていると見て間違いないよ」
「……だろうな。俺の的は、この腑抜けの兄貴じゃないらしい」
俺は黒狼を鞘に納め、ガルスから視線を外した。
「お前たちの馬車と杖はもらう。命が惜しければ、自分の足で王都へ帰れ。そして父上たちに伝えておけ。辺境に手を出せば、俺がすべて叩き斬るとな」
ガルスは屈辱と恐怖に顔を歪ませたが、反論する言葉を持たなかった。
魔法の杖を失い、移動手段である魔導馬車も破壊されたエリート騎士たちは、重い鎧を引きずりながら、来た道をトボトボと引き返していくしかなかった。
「これで、一応の解決だね。後片付けは冒険者ギルドに任せよう」
テオが息を吐き、ステラも安堵の笑みを浮かべた。
俺たちはアマルにまたがり、辺境都市ランカへと踵を返した。
街の正門に到着すると、そこには信じられない光景が広がっていた。
避難を急いでいたはずの街の住民たちや冒険者たちが、門の前に集まっていたのだ。
彼らの中心には、ギルドマスターのメリルが腕を組んで立っていた。
「ったく……本当に数百人の精鋭部隊を、お前らだけで追い返しちまうとはね」
メリルが呆れたように、しかし口元には隠しきれない笑みを浮かべて言った。
「おかえり、辺境の英雄ども。お前らのおかげで、この街は救われたよ」
メリルの言葉を合図に、住民たちから割れんばかりの歓声が上がった。
かつて学園で落ちこぼれと呼ばれ、居場所を失った三人。
だが今、俺たちはこの辺境の地で、誰かに必要とされ、感謝されている。
「えへへ……なんだか、照れくさいね」
ステラが顔を赤らめ、テオも誇らしげに胸を張った。
俺は歓声に応えることもなく、ただ腰の黒狼に触れた。
王都は魔族の手に落ちている。
いずれ、俺の剣を止めたあのザガンと再び相まみえる日が来るだろう。
その日に向けて、俺の素振りはまだ終わらない。
辺境都市ランカの英雄として迎えられた俺たちは、次なる戦いの気配を背中に感じながら、祝宴の輪の中へと足を踏み入れていった。




