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第22話 傲慢なる兄と、落ちこぼれの証明

先鋒隊を無力化した俺たちは、アマルに乗ったまま街道をさらに進み、第一魔導騎士団の本隊と対峙した。


数百の精鋭を束ねる本隊の中心。ひときわ豪華な装甲魔導馬車の上に、その男は立っていた。

豪奢な真紅のローブを纏い、王都で最も高価とされる宝玉の杖を手にした金髪の青年。

俺を辺境へ追放した張本人であり、第一魔導騎士団の部隊長、ガルスだ。


「先鋒隊からの魔法通信が途絶えたと思えば……何事か。あの忌まわしい銀色の獣はなんだ?」


ガルスが忌々しそうに目を細め、こちらを睨みつける。

そして、アマルの背中に乗っている俺たちの姿を視認した瞬間、彼の端正な顔が驚愕と侮蔑に歪んだ。


「ルシア……!? なぜ、魔力適性ゼロのゴミクズがこんな辺境で生きている! それに、その後ろにいるのはテオと、全属性の災厄女……学園の落ちこぼれ共が、魔物を手懐けて我ら王都の騎士団に歯向かうというのか!」


ガルスの怒声が街道に響き渡る。

相変わらず、魔法の才能だけで人間の価値を測る傲慢な男だ。


「久しぶりだな、ガルス兄。辺境の視察なら歓迎するが、あいにく今は街の防衛で忙しくてな。その馬車ごと王都へ引き返してもらおうか」


俺がアマルの背から見下ろすように言うと、ガルスは額に青筋を浮かべた。


「身の程を知れ、無能が! 貴様らのようなゴミが何匹集まろうと、我らエリートの魔法の前では塵に等しい! この私自らが、貴様らを跡形もなく消し炭にしてくれる!」


ガルスが高く杖を掲げた。

彼の周囲に、凄まじい密度の魔力が渦巻く。炎と風。二つの属性を高度な計算で編み上げる、彼が得意とする大魔術だ。


「灰燼に帰せ! 炎風複合魔法・烈風火炎竜!」


ガルスの杖の先から、巨大な炎の竜巻が咆哮を上げて迫り来る。

先鋒隊の魔法とは比べ物にならない、地形ごと抉り取るような純粋な破壊の奔流。

だが、アマルの防壁を展開しようとしたテオを制し、ステラが一歩前に出た。


「ステラ?」

「ルシアくん、テオくん。ここは私にやらせて」


ステラは樫の素朴な杖を構え、迫り来る炎の竜巻を真っ直ぐに見据えた。

かつて学園で、ガルスたちエリートから「魔法を制御できない化け物」と蔑まれ、逃げ続けてきた彼女。

だが今の彼女の瞳には、一切の恐怖はなかった。


「炎と風の複合なら……水と土で、相殺する!」


ステラが杖を振るう。

彼女の内にある規格外の魔力から、必要な属性だけが寸分の狂いもなく抽出された。

大地が隆起して分厚い土の防壁となり、同時に莫大な量の水が滝のように降り注ぐ。


ズガァァァァンッ!!


相反する魔法同士が激突し、凄まじい水蒸気爆発が街道を覆い尽くした。

白い霧が晴れた後、そこには無傷のアマルと俺たちの姿があった。ガルスの放った大魔術は、ステラの魔法によって完全に、そして美しく相殺されていたのだ。


「ば、馬鹿な……! あの制御不能の災厄女が、私の複合魔法を完全に読み切り、同質量の魔法で相殺しただと!? あり得ない、あんなただの木の棒切れで!」


ガルスが信じられないものを見るように、大きく後ずさった。

魔法の絶対的な才能とエリート教育を信奉する彼にとって、落ちこぼれが無傷で自分の本気の魔法を防ぐなど、決して受け入れられない現実だった。


「お兄様」


ステラが、凛とした声でガルスを見据えた。


「私はもう、自分の魔法から逃げません。ルシアくんとテオくんが、私に魔法の本当の使い道と、信じる勇気を教えてくれたから!」


「黙れ、黙れ黙れ黙れぇっ! 落ちこぼれのゴミ共が、私を見下すな!」


完全に逆上したガルスが、杖から無数の炎の槍を乱れ打とうとする。

だが、その時にはすでに、俺はアマルの背を蹴り、空中に跳び上がっていた。


「ステラ、よくやった。あとは俺が叩き斬る」


俺は空中で黒狼を抜き放ち、身体強化の魔力を脚と腕、そして刀身の膜へと一気に圧縮した。

重力を無視したような超高速の落下。


「ルシアァァァッ!」


ガルスが杖を俺に向けるが、遅い。

俺はガルスの頭上に着地すると同時に、黒狼を一閃した。


ガルスを斬るつもりはない。

だが、彼が今まで積み上げてきた傲慢な誇りだけは、ここで完全にへし折る。


キィンッ。


澄んだ音が鳴り、ガルスの手の中で輝いていた王都最高級の宝玉の杖が、真っ二つに切断された。

それだけではない。彼が身につけていた魔法障壁のリング、真紅のローブの装飾、そして彼が立っていた豪奢な魔導馬車の屋根までもが、衝撃波で木っ端微塵に吹き飛んだ。


「あ……あ……」


杖を失い、馬車の残骸の上に尻餅をついたガルスは、恐怖と絶望で完全に腰を抜かしていた。

魔法の使えない出来損ないの弟の、ただの物理的な一振り。

その一振りが、自分たちエリート騎士団のすべてを無に帰したことを、彼の本能が理解してしまったのだ。


「お前の魔法は、隙が多すぎる。基礎から素振りをやり直すんだな」


俺は黒狼をゆっくりと鞘に納め、へたり込む兄を見下ろして、冷たく言い放った。

本隊の数百の騎士たちは、最強の部隊長が一瞬で無力化された光景を前に、誰一人として動くことができなかった。

王都の精鋭部隊は、辺境の落ちこぼれ三人組の前に、完全な敗北を喫したのだった。

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