第21話 銀狼の猛進
辺境都市ランカの正門を抜け、俺たちは街道を猛スピードで逆走していた。
移動手段は完全にアマルへと切り替えていた。
体長四メートルの銀狼形態となったアマルは、風の魔石による重力軽減と、流体金属特有のしなやかな筋肉構造により、信じられないほどの速度で大地を蹴っていた。
「すごい、速いっ! なのに全然揺れないよ!」
ステラがアマルの背中に形成された座席で歓声を上げる。テオも自慢げだ。
「これからは移動は全部アマルに任せよう。魔導車みたいに街道に縛られる必要もないからね。アマル、ショートカットだ。あの崖を登れ!」
ピュイッ! と勇ましい電子音のような鳴き声を上げ、アマルは街道を外れて険しい岩肌を垂直に近い角度で駆け上がり、森の木々を縫うようにして一直線に進む。どんな悪路も、この万能の相棒の前では平坦な道と変わらない。
数時間後。高台から見下ろす街道の先に、土煙と、空を歪ませるほどの膨大な魔力の集団が見えてきた。
王都が誇る最強の精鋭、第一魔導騎士団の先陣だ。数十台の豪奢な魔導馬車と、整然と隊列を組んだ数百の魔法騎士たちが、辺境都市へ向かって進軍している。
「ルシアくん、敵の先鋒隊だよ! こっちの接近に気づいたみたいだ!」
テオの言葉通り、騎士団の先頭集団が足を止め、こちらに向かって杖を一斉に構えるのが見えた。
だが、アマルが街道へと飛び出した瞬間、騎士たちの間に動揺が走った。
「な、なんだあいつは……!? 銀色に輝く、巨大な狼……?」
「馬車ほどもあるぞ! あんな魔物、見たこともない!」
「全身が波打っている……金属なのか? 生き物なのか?」
彼らがこれまで見たこともない、流体金属で構成された異形の獣。その不気味な質感と圧倒的な威圧感に、王都のエリート騎士たちが一瞬、恐怖に硬直した。
「動くな! 怯えるな!」
先鋒隊長らしき男が、動揺する部下たちを一喝した。
「見たこともない獣だが、所詮は辺境の野蛮人が操る見掛け倒しだ! 子どもが乗っているようだがもろとも塵にしてやれ!」
隊長の号令とともに、騎士団が我に返り、杖を構え直した。
今度は先ほどよりもさらに強力な、複数の属性が混ざり合った複合魔法、氷と雷の嵐が放たれた。
「ルシアくん!」
「アマル、止まるな。そのまま突っ込め」
俺の指示に、アマルは速度を一切緩めることなく、迫り来る魔法の嵐へと一直線に突進していく。
「アマル、前面防壁展開!」
テオの操作により、アマルの頭部から銀色の流体金属が瞬時にせり出し、俺たちの前面を覆う流線型の巨大な盾へと変形した。虹色コアの力が働き、盾に触れた氷と雷の魔法がシュウゥゥと音を立てて無力化され、左右に散らされていく。
「なっ……我々の複合魔法が、ただの突進で弾かれただと!? バカな!」
驚愕する騎士たち。自分たちの誇る魔法が通用しないという現実に、先ほどの恐怖が確信へと変わった。その魔法の嵐を突破した直後、アマルの盾がスッと下がり、俺は座席から静かに立ち上がった。
腰の黒狼を抜き放ち、刀身全体に極薄の魔力膜を展開する。
迷宮でゴーレムを、そして合成獣を両断した、線と面の斬撃。それを今度は、水平方向に放つ。
「ステラ、テオ、振り落とされるなよ」
すれ違いざま、俺はアマルの圧倒的な突進速度という推進力を乗せて、黒狼を真横に一閃した。
キィンッ、という冷たい音が響いた。
数秒の遅延の後。
先鋒隊の騎士たちが構えていた数十本の杖、彼らが身につけていた強固な魔法障壁、そして背後に続く巨大な魔導馬車の上半分が、綺麗な直線を描いてズラリと斜めに滑り落ちた。
「……え?」
誰かが間の抜けた声を漏らした。
彼らの肉体は一切斬っていない。だが、エリートの誇りである魔法の杖と馬車だけを、空間ごと綺麗にスライスして見せたのだ。
武器と足と誇りを同時にへし折られた精鋭部隊の先鋒は、完全にパニックに陥り、その場に崩れ落ちた。
「よし、いい力加減だ。突破力も最高だな、アマル」
俺が褒めると、走り抜けた先でアマルがクルリと反転し、得意げにグルルと喉を鳴らした。
「まだまだ! 本隊はこんなもんじゃないよ!」
テオの言う通り、後方からはさらに巨大な魔力の波動が近づいてきている。あの傲慢な兄、ガルスが率いる本隊だ。
俺たちはアマルの機動力を最大限に活かし、王都の軍勢を蹂躙するための次なる一撃へ向けて疾走した。




