第20話 王都からの凶報
アマルが家族に加わってから数日後。
俺たちはあばら家の前の広場で、銀狼形態となったアマルの機動テストを行っていた。
「すごい、すごいよ! 全力で走ってるのに、風の魔石のおかげで全然風圧を感じない!」
背中の座席に乗ったステラが、楽しそうに声を上げる。
「だろ? サスペンション代わりにスライム特有の弾力も残してあるから、お尻も痛くならない仕様さ」
テオが胸を張る通り、アマルの乗り心地は最高だった。これなら長距離の移動も全く苦にならない。
俺が新しい剣術の素振りをしながら二人と一匹の様子を眺めていると、森の奥から土煙を上げて一台の馬車が猛スピードで駆け込んできた。
冒険者ギルドの紋章が入った馬車だ。
御者台から転がり落ちるように飛び出してきたのは、すっかり顔なじみになった受付嬢だった。
「はぁ、はぁっ……! ルシアさん、テオさん、ステラさん! ギルドマスターからの、緊急召集です! 今すぐギルドへ!」
彼女の青ざめた顔と尋常ではない様子に、俺たちは遊びの空気を一瞬で消し飛ばした。
アマルを待機形態のスライムに戻してステラの肩に乗せ、俺たちはギルドの馬車で辺境都市ランカへと急行した。
ギルドの奥、重厚な扉を蹴り開けると、執務室はひどく重苦しい空気に包まれていた。
ギルドマスターのメリルは、いつものようにキャンディを舐めてはいなかった。机の上に広げられた王都からの極秘書状を前に、ギリッと歯を食いしばっている。
「来たね、ガキども。単刀直入に言うよ。最悪の事態だ」
メリルは血走った目で俺たちを睨みつけた。
「王都にいるあたしの身内から、緊急の魔法通信が入った。王都の騎士団が、この辺境都市ランカに向けて進軍を開始したそうだ」
「騎士団が? なぜですか。魔族の件の討伐隊なら、こんなに早いのはおかしい……」
テオが怪訝な顔をすると、メリルは自嘲気味に鼻を鳴らした。
「討伐隊じゃない、『粛清部隊』さ。王都の上層部は、魔族の件を報告したあたしの身内を反逆罪で投獄しやがった。そして、この辺境都市ランカを『魔物と結託し、国に反旗を翻そうとしている賊の街』として認定したんだ」
その言葉に、ステラが息を呑んだ。
「つまり、武器の横流しと魔族との繋がりを隠蔽するために、この街ごとすべてを消し去るつもりってことか」
俺が淡々と事実を口にすると、メリルは重々しく頷いた。
「ああ。国賊討伐という大義名分を掲げて、証拠隠滅に来る。しかも、率いているのは王都が誇る最強の精鋭部隊……第一魔導騎士団だ」
第一魔導騎士団。
その名前を聞いた瞬間、ステラの顔から血の気が引いた。
「第一魔導騎士団って……それ、お兄様が……ガルス兄様が率いている部隊じゃ……!」
「その通りだ。部隊長ガルス。王都でも一、二を争う魔法の天才にして、ルシア、お前を辺境に追放した張本人だ」
執務室に沈黙が落ちた。
街の冒険者たちを集めても、国が誇る精鋭部隊には太刀打ちできない。このままでは辺境都市ランカは、罪もない住民ごと火の海に沈むことになる。
メリルは拳を握りしめ、悔しそうに俯いた。
「住民の避難は始めているが、到底間に合わない。王都の連中は魔導馬車で昼夜問わず進軍してきている。明日の昼には、この街の門前に到達するだろう」
絶望的なタイムリミット。
だが、俺の胸の奥では、全く別の感情がどす黒く、そして熱く燃え上がっていた。
「ルシアくん……」
不安そうに見上げてくるステラとテオ。
俺は腰の黒狼を軽く叩き、メリルに向かって一歩前に出た。
「メリル、街の連中はそのまま避難を続けさせろ。防衛戦なんて必要ない」
「……ルシア、お前、何を言ってるんだ?」
「簡単な話だ」
俺は口の端を吊り上げ、凶悪な笑みを浮かべた。
「第一魔導騎士団だろうが、俺を追放したエリートの兄貴だろうが関係ない。向こうから極上の『的』がわざわざ出向いてきてくれるんだ。街に到達される前に、俺が街道で全員叩き斬ってやる」
「なっ……何百人という魔法エリートの軍勢を、お前一人で相手にする気かい!?」
メリルが目を見開いて叫ぶ。
「一人じゃないさ」
テオが横に並び立ち、ステラの肩に乗ったアマルが「ピュイ!」と勇ましく鳴いた。
「僕の作ったアマルがいれば、魔法の集中砲火だって無傷で防げる。それに、ステラちゃんの魔法なら、軍隊相手でも一網打尽にできる」
「わ、私……お兄様は怖いけど……でも、もう逃げない。この街の人たちと、ルシアくんを守るために戦う!」
ステラも震える手で樫の杖を強く握りしめた。
かつて学園で落ちこぼれと蔑まれた三人。
その三人が、王都の精鋭部隊を迎え撃つ。
最高の舞台じゃないか。
「急ぐぞ。アマル、銀狼形態だ。街道を逆走して、エリート共を迎えにいく」
俺たちは言葉を失っているメリルを残し、辺境都市の門を蹴り開けて、王都へと続く街道を全速力で駆け出した。
真の生存競争が、いま始まろうとしていた。




