第19話 万能の流体装甲
迷宮から帰還したその日から、テオはあばら家の作業部屋に引きこもった。
三日三晩、寝食を忘れてハンマーの音と魔力の光を漏らし続けていた彼が、ついにふらふらの足取りで居間へと姿を現した。
「……できた。ついに完成したよ、僕の、いや僕たちの最高の相棒が……!」
目の下にくっきりとしたクマを作りながらも、テオの顔は狂喜に満ちていた。
俺とステラが作業部屋を覗き込むと、机の上に銀色に輝くスライムのような、丸くてぷにぷにとした物体が鎮座していた。
「わあ……可愛い。銀色のお餅みたい」
ステラが目を輝かせて指でつつくと、その物体は「ピュイ」と可愛らしい音を立てて、彼女の指にすり寄ってきた。
「ただのスライムじゃないよ。ロックゴーレムの強固な装甲を大蛇の熱で完全に溶解させ、それを蜘蛛の糸で分子レベルで結合させた特殊な『流体金属』だ。そして心臓部には、あの迷宮の底で手に入れた虹色の多属性コアが埋め込んである」
テオが誇らしげに胸を張る。
「名前は『アマル』。変幻自在の万能兵器さ。アマル、第一形態『工房助手』!」
テオが声をかけると、銀色のスライムの表面から、小さな人間の手のようなものが無数に生え出した。アマルは器用に工具箱からレンチやドライバーを取り出し、テオに手渡していく。さらには金属の指先から大蛇の炎をバーナーのように吹き出し、溶接までこなしてみせた。
「すごい! テオくんの考えてることを先読みして動いてるね」
「ああ、虹色コアのおかげで僕の脳波と微弱な魔力でリンクしているんだ。でも、これだけじゃない。アマル、第二形態『絶対防壁』!」
ピュイッ! という短い鳴き声と共に、アマルの体が瞬時に膨張した。
液状だった体が鋼鉄の何倍もの硬度に変化し、俺たちの前に巨大な銀色の城壁を作り出す。さらにその表面からは、カマキリの魔物から得た鋭い刃が無数に飛び出した。
「防御と同時に、触れた相手を切り刻むカウンターシールドだ。虹色コアがステラちゃんの魔法も吸収・中和してくれる。これなら、僕でも前線に立てる」
テオの言葉に、俺は感心して顎を撫でた。
「なるほど、よくできている。試しに俺が全力で叩いてみてもいいか?」
俺が黒狼の柄に手をかけると、巨大な盾になっていたアマルが「ピギャッ!?」と悲鳴のような音を立てて、慌てて元のスライムサイズに縮んでステラの背後に隠れてしまった。
どうやら、高い知能と危機察知能力もしっかり備わっているらしい。
「ル、ルシアくん! 出来立ての相棒をいきなり叩き斬らないでよ! アマルが怯えちゃってるじゃないか!」
「冗談だ。頼もしい盾になりそうで安心したよ」
テオがやれやれとため息をつきながら、アマルの頭(?)を撫でる。
「そして、最後がこの子の真骨頂だ。これからの僕たちの旅に、絶対に必要なものさ。アマル、第三形態『機巧獣』!」
テオの号令とともに、アマルが部屋の外へと飛び出した。
周囲の魔力を急激に吸い上げ、その銀色の流体ボディがみるみるうちに巨大化していく。
形作られたのは、体長四メートルを超える、流線型の美しい銀色の獣だった。
狼のようなしなやかなフォルムに、コウモリの風魔石が埋め込まれた四肢。背中には、俺たち三人(と、大量の荷物)が余裕で乗れるほどの平らでクッション性の高い座席が形成されている。
「これは……乗り物か」
「ただの乗り物じゃないよ。風の魔石で重力を軽減しているから、荒れ地でも揺れないし、全力で走れば魔導車の三倍は速い。絶壁を登ることも、水の上を駆けることもできる、万能の移動要塞さ」
銀狼の姿になったアマルが、伏せの姿勢をとって「乗れ」とばかりに首を傾げた。
「すごい、すごいよテオくん! これなら、どこへでも行けちゃうね!」
ステラが大はしゃぎでアマルの背中に飛び乗る。確かに、これなら長距離の移動も野営も格段に快適になるだろう。
戦闘の盾となり、刃となる。制作の完璧な助手となり、時には三人で乗れる頼もしい乗り物にもなる。
辺境のあばら家に、変幻自在の新たな家族が加わった瞬間だった。
「よろしく頼むぞ、アマル」
俺がアマルの銀色の鼻先を撫でると、アマルは嬉しそうに「グルルッ」と喉を鳴らした。




