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第18話 迷宮の合成獣

迷宮の巨大な階段を下りきった先には、ドーム状の広大な空間が広がっていた。

壁一面の青白い苔が発光し、中央にはすり鉢状のくぼみがある。その中心で、膨大な魔力が渦を巻き、一つの巨大な影を形成していた。


「……なんだ、あいつは。悪趣味にも程があるな」


俺は黒狼の柄に手をかけながら、低く呟いた。

そこに鎮座していたのは、これまでの階層で見てきた魔物たちを、無秩序に繋ぎ合わせたような異形のバケモノだった。


ロックゴーレムの分厚い岩の胴体。下半身を支えるのは巨大な蜘蛛の多脚。背中には暴風を生み出すコウモリの羽が生え、両腕は金属のように鋭いカマキリの鎌。そして尻尾は、チロチロと炎を吐き出す大蛇の頭になっていた。


「キメラだ。迷宮の底に溜まった多種多様な魔力が、極めて稀に結合して生まれる突然変異の合成獣……!」


テオが双眼鏡を覗き込みながら、震える声で叫んだ。だが、その声には恐怖よりも、強烈な歓喜が混じっていた。


「見てよルシアくん、ステラちゃん! あいつの岩の胸の中心、あそこに埋まってる虹色の魔石! 複数の属性を完全に調和させて一つに束ねる、奇跡の多属性コアだ! あれこそ、僕の相棒の心臓に相応しい!」


テオの叫びに呼応するように、キメラが鼓膜を破るような咆哮を上げた。

背中の羽が羽ばたき、鋭い真空の刃が広範囲に放たれる。同時に、尻尾の大蛇が灼熱の火球を吐き出してきた。

風と炎の複合攻撃。ステラが学園で暴発させていたような、純粋な暴力の塊が俺たちに迫る。


「私に任せて!」


ステラが前に飛び出し、樫の杖を高く掲げた。

炎には水を。風には土を。

彼女は自分の内にある膨大な魔力から、瞬時に二つの属性だけを的確な分量で抽出し、前面に展開した。


分厚い土の防壁が真空の刃を弾き、生み出された大量の水が火球を呑み込んで激しい水蒸気を上げる。


「すごい……! 威力を絞って、相手の魔法だけを完璧に相殺した!」


テオが歓声を上げる。かつて全属性を持て余して泣いていた少女は、今やこの場にいる誰よりも繊細に魔力を操る魔法使いへと成長していた。


「見事だステラ。最高の援護だよ」


俺は立ち込める水蒸気を突き抜け、キメラの懐へと一気に踏み込んだ。

魔法を相殺されたキメラが、怒り狂ったように両腕のカマキリの鎌を振り下ろしてくる。ゴーレムの岩の重量と鎌の鋭さが合わさった、即死の物理攻撃。


だが、俺の目はすでに、魔族ザガンのあの二本の指の残像を見据えていた。


ただの素振りじゃない。

点ではなく、線と面へ。


俺は黒狼を鞘から引き抜いた。

漆黒の刀身全体を、極限まで薄く圧縮した身体強化の魔力膜で覆い尽くす。

魔力の消費は激しいが、この出し惜しみのない全力の斬撃こそ、迷宮の主に相応しい。


鎌が俺の頭上に迫るその刹那、俺は下段から黒狼を跳ね上げた。


抵抗は、無かった。

キメラの誇る鋼の鎌も、岩の巨体も、俺の刃に触れた瞬間に空間ごと滑るように分断された。


音もなく、キメラの巨体が斜めに真っ二つにズレる。

遅れて、暴風のような衝撃波がドーム内に吹き荒れ、すり鉢状の地形そのものを深くえぐり取った。


「ふぅ……」


俺が残心と共に息を吐くと、両断されたキメラの残骸が光の粒子となって崩れ落ちていく。

その跡には、脈打つように六色の光を放つ、拳大の虹色の魔石だけがポツンと残されていた。


「やった……やったぞおおお!」


テオが狂喜乱舞しながら駆け寄り、虹色のコアを両手で高く掲げた。

これで、彼の構想する自律型兵器の動力源は手に入った。あとは、俺たちが集めた多種多様な装甲素材と彼の頭脳を組み合わせるだけだ。


「お疲れ様、ルシアくん。新しい剣の振り方、すごく綺麗だったよ」

ステラが小走りで近づき、微笑みかけてくれる。


「ああ。だがまだ魔力の膜が安定しない。もっと反復練習が必要だ」


黒狼を鞘に納めながら、俺は確かな手応えを感じていた。

これなら、いつかあの魔族の指を切り落とせるかもしれない。


俺たちはテオのリュックがはち切れんばかりの素材と、最強のコアを手に入れ、迷宮を後にした。

王都からの連絡を待つ間の余興としては、実り多すぎる冒険だった。


次に俺たちが挑むのは、ついに姿を現す王都の陰謀か、それともテオの生み出す新たな相棒の誕生か。

辺境の空の下、俺たちの物語はさらに加速していく。

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